笹子事故判決 インフラ管理者への警鐘にも

読売新聞 2015年12月28日

笹子事故判決 インフラ管理者への警鐘にも

経年劣化を想定した点検で事故を確実に防がねばならない。道路などのインフラ管理者に警鐘を鳴らす判決と言える。

山梨県の中央道で2012年に起きた笹子トンネル天井板崩落事故で、横浜地裁が、トンネルを管理する中日本高速道路と子会社に計約4億4000万円の損害賠償を命じた。

事故の発生時点で、トンネルの完成から35年が経過していた。天井板は、アンカーボルトでトンネル天頂部からつり下げられていたが、接着剤の劣化などでボルトが抜け落ちて崩落した。通行中の車3台が下敷きになった。

保守点検の重要性を改めて認識させる事故だった。

死亡した9人のうち、5人の遺族が、「天井板の老朽化を認識していたのに改修しなかった」と訴えていた。中日本は事故を予見できなかったと反論した。

判決は、適切な点検によって事故を回避する責任を怠ったと結論づけた。重視したのは、2000年に行われた打音検査で、既に200か所以上のボルトの緩みが見つかっていた点だ。

この経緯を踏まえ、経年劣化の進行と崩落を「予見し得た」と判断したことは、うなずける。

事故の約2か月前に実施された点検の適否も争点になった。中日本は、主に双眼鏡を使った目視で異常の有無をチェックした。

ボルトの緩みなど、外から見えない不具合の点検方法としては、打音検査が一般的だ。検査を尽くしていれば、「不具合に気づき、事故を防げた」と主張する遺族側の心情は理解できる。

中日本は、打音検査でも不具合を見逃す可能性があるとする国土交通省の調査結果を示し、「打音検査を行っても事故は予測できなかった」と訴えた。

しかし、最低限必要な点検を怠ったと捉えるべきだろう。判決も「点検方法は甚だ不十分だった」として過失を認定した。

千葉県君津市の国道410号のトンネルで23日、天井のモルタル約23トンが剥がれ落ちた。老朽化対策として新たに吹き付けられたモルタルだ。安全性向上のための補修工事が事故を招いたのは、本末転倒というほかない。

トンネルだけでなく、高度成長期に整備された橋などのインフラの老朽化が進んでいる。

「不具合を的確に把握できる点検方法を選択する注意義務を負う」。中日本に対する判決の指摘を、あらゆるインフラ管理者が肝に銘じねばならない。

産経新聞 2015年12月31日

インフラ老朽化 確実な保守点検で命守れ

山梨県の中央自動車道笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡した事故をめぐり、横浜地裁がトンネルを管理する中日本高速道路とその子会社に対し、道路管理者の過失を認定した。

道路やトンネルなど、インフラに対する保守点検の重要性を改めて示したものといえる。

政府は事故の後、道路などの点検を強化しているが、予算や人員の制約などもあり、その実施率は低い水準にとどまっている。

高度成長期に建設したインフラの老朽化は急速に進んでいる。国民の生命を守るためには維持管理を徹底し、必要な補修工事を確実に実施すべきだ。

事故は平成24年、トンネルの開通から35年が経過した時点で起きた。コンクリート製の天井板を支えるアンカーボルトが経年劣化で抜け落ち、通行中の車両3台が下敷きになった。だれが巻き込まれてもおかしくない事故であり、国民に大きな衝撃を与えた。

中日本高速は事故を予見できなかったと主張したが、判決は「点検方法が甚だ不十分で、適切に点検していれば事故は回避できた」と指摘し、約4億4千万円の損害賠償を命じた。

道路会社などの道路管理者に対して厳正な点検と管理を求めたのは当然である。

政府は事故後、道路法を改正して道路管理者ごとにばらばらだった保守に関する基準を統一した。5年ごとの目視による点検などを義務化し、その健全性を4段階で診断するようにした。

点検の対象は全国で約77万カ所あり、昨年度はその約1割で点検を実施した。トンネルは約1万1千カ所あるが、点検を終えた1400カ所のうち、十数カ所で深刻な老朽化が発見された。

政府や道路会社、そして自治体はすべての場所での点検をスピードアップしてもらいたい。

国の道路事業費の中で、維持補修に充てる予算は年間3千億円程度だ。ここ数年は増加傾向にあるが、緊急性を考慮すれば、新規建設よりも補修にもっと重点配分すべきだろう。自治体への技術支援なども欠かせない。

これまでは損傷が見つかった後に補修工事を実施していたが、一定期間ごとに予防的な工事をすると、より長期にインフラを使用できることも分かっている。工事の効率化も考えたい。

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