経年劣化を想定した点検で事故を確実に防がねばならない。道路などのインフラ管理者に警鐘を鳴らす判決と言える。
山梨県の中央道で2012年に起きた笹子トンネル天井板崩落事故で、横浜地裁が、トンネルを管理する中日本高速道路と子会社に計約4億4000万円の損害賠償を命じた。
事故の発生時点で、トンネルの完成から35年が経過していた。天井板は、アンカーボルトでトンネル天頂部からつり下げられていたが、接着剤の劣化などでボルトが抜け落ちて崩落した。通行中の車3台が下敷きになった。
保守点検の重要性を改めて認識させる事故だった。
死亡した9人のうち、5人の遺族が、「天井板の老朽化を認識していたのに改修しなかった」と訴えていた。中日本は事故を予見できなかったと反論した。
判決は、適切な点検によって事故を回避する責任を怠ったと結論づけた。重視したのは、2000年に行われた打音検査で、既に200か所以上のボルトの緩みが見つかっていた点だ。
この経緯を踏まえ、経年劣化の進行と崩落を「予見し得た」と判断したことは、うなずける。
事故の約2か月前に実施された点検の適否も争点になった。中日本は、主に双眼鏡を使った目視で異常の有無をチェックした。
ボルトの緩みなど、外から見えない不具合の点検方法としては、打音検査が一般的だ。検査を尽くしていれば、「不具合に気づき、事故を防げた」と主張する遺族側の心情は理解できる。
中日本は、打音検査でも不具合を見逃す可能性があるとする国土交通省の調査結果を示し、「打音検査を行っても事故は予測できなかった」と訴えた。
しかし、最低限必要な点検を怠ったと捉えるべきだろう。判決も「点検方法は甚だ不十分だった」として過失を認定した。
千葉県君津市の国道410号のトンネルで23日、天井のモルタル約23トンが剥がれ落ちた。老朽化対策として新たに吹き付けられたモルタルだ。安全性向上のための補修工事が事故を招いたのは、本末転倒というほかない。
トンネルだけでなく、高度成長期に整備された橋などのインフラの老朽化が進んでいる。
「不具合を的確に把握できる点検方法を選択する注意義務を負う」。中日本に対する判決の指摘を、あらゆるインフラ管理者が肝に銘じねばならない。
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