監査法人課徴金 最大手でこの体たらくとは

読売新聞 2015年12月26日

監査法人課徴金 最大手でこの体たらくとは

企業と監査法人のなれ合いが不適切会計につながった。企業会計への信頼を損ねた監査法人の責任は重い。

東芝の不適切会計問題で、金融庁は会計監査を担当した新日本監査法人に対し、来月から3か月間、新規契約を禁じる一部業務停止を命じた。21億円の課徴金も科す。

監査法人が課徴金を支払うのは初めてだ。新日本の監査の実態について、金融庁は「東芝の説明や提出資料に対して、批判的な観点からの検証が十分に実施できなかった」と厳しく批判した。

企業の財務諸表は、投資家が金融取引をする際の重要な目安だ。監査法人は、その正確さを保証する業務を担っている。投資家保護の観点から、金融庁が異例の重い処分を下したのは当然だ。

東芝に対する監査が正常に機能し、不適切会計を早期に改めていれば、巨額の赤字や1万人超の人員削減という最悪の事態を避けられた可能性がある。

新日本は、オリンパスの粉飾決算で損失隠しを発見できず、2012年に業務改善命令を受けている。その際、再発防止の徹底を誓ったにもかかわらず、監査体制の見直しを怠っていた。

国内最大手の監査法人がこの体たらくとは、嘆かわしい。相次ぐ会計不正で、公認会計士の信頼度が低下していることへの危機感が乏しいと言わざるを得ない。

新日本は60年にわたり、東芝の監査を担当してきた。監査チームは、不正の兆候を見つけても、適切な改善指導をしなかった。

監査報告書をチェックする新日本の品質管理部門や審査部門も、不自然な会計操作を見逃した。二重の不作為が、東芝の問題を深刻化させたと言えよう。

監査法人は、顧客である企業と契約し、監査報酬を受け取る営利企業の側面を持つ。金融当局のような強制的な調査権限を持たないため、そもそも監査法人が不正を発見することは困難だ、と釈明する公認会計士は少なくない。

だが、粉飾決算の増加を背景に、経営実態を正確に反映した財務諸表を求める投資家のニーズは高まっている。時代の要請を踏まえ、公認会計士は意識を改革しなければならない。

海外の一部の監査法人は、外部の目で監査状況を監督する社外取締役のような役員を置いている。企業に監査法人の定期的な交代を義務づける国もある。金融庁は、現行の監査制度の問題点を精査し、改善に努めてもらいたい。

産経新聞 2015年12月27日

東芝不正会計 市場守る監査に立ち返れ

東芝の不正会計問題をめぐり、金融庁が同社の監査を担当した新日本監査法人に対し、新規契約を3カ月禁止するなどの行政処分を出した。

新日本が多額の利益操作を見抜けなかったのは「監査法人として重大な注意義務違反にあたる」と判断したものだ。

新日本はオリンパスの粉飾決算事件に関連し、3年前にも業務改善命令を受けている。これが2度目の処分となっただけに、理事長が引責辞任を表明したのは当然だろう。

企業の会計不祥事が頻発し、監査法人に対する不信感が高まれば、日本の会計制度に対する国際的な信頼も揺らぐ。今回の事態をすべての監査法人が深刻に受け止めねばならない。

監査法人は企業決算に対して独立した立場で適正かどうか意見を表明する。投資家は決算をもとに投資を判断しており、ここで不正がまかり通れば市場は成り立たない。監査の実効性を高めて信頼の回復を急ぐ必要がある。

東芝は目先の利益を優先し、必要な損失を先送りするなど、7年で2千億円を超える利益を不正に計上していた。新日本はこうした不正会計を見破れなかった責任は重いとして処分された。監査法人として初めて、21億円の課徴金納付命令を受けた。

新日本は、東芝の会計操作に直接関与したわけではない。それでも金融庁は「東芝側の説明を批判的な観点で検証しなかった」として、監査法人の役割と責任を厳しく求めた。

新日本は前身の会計事務所時代から60年以上も東芝の監査にあたってきたという。

新日本にとって東芝は、年間10億円の監査報酬を支払ってくれる優良な顧客でもあった。そこに企業と監査法人の「なれ合い」はなかったか。

わが国では、監査責任者の公認会計士が5年で交代すれば、同じ監査法人であっても、ずっと同じ会社を担当できる。

欧州では一定期間で監査法人を交代させることが検討されている。なれ合いを防ぐ仕組みづくりは日本でも必要だろう。

今回の問題を、新日本による個別の事案として終わらせてはならない。なぜ不正を見抜けなかったかを検証し、監査手法のあり方なども含め、再発防止のために抜本的な見直しを図るべきだ。

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