防衛費5兆円 聖域化は許されない

朝日新聞 2015年12月26日

防衛費5兆円 聖域化は許されない

安倍政権による2016年度予算案で、防衛費が史上初めて5兆円を突破した。

5兆541億円。15年度に比べて1・5%増え、社会保障費の1・4%増を上回る。

16年度は国の財政健全化計画の初年度で、社会保障費を除く政策予算の伸びを今後3年で計1千億円に抑える方針だ。その伸びの大半を16年度の防衛費で占めることになる。あおりで、教育など他の予算の増額は難しくなる。

中国の軍拡や海洋進出への対応で、一定の防衛費の負担が避けられないのは確かだ。

といって、財政規律をないがしろにはできない。中国と張り合うように予算を増やしていくことも現実的ではない。

限られた予算の中で、防衛費をどこまで負担するかは国民の理解が要る。年明けの国会で政府は防衛費の将来見通しを明確に説明すべきだ。野党はしっかりただしてもらいたい。

16年度予算案を点検すると、防衛費が将来的に膨らんでいく方向性が見て取れる。

まず最新鋭の米国製兵器の購入だ。新型輸送機オスプレイ、戦闘機F35A、滞空型無人機グローバルホーク、新早期警戒機E2D……。兵器が高額になれば維持費や修理費もかさむ。

これらの支払いは、複数年にわたって分割払いする「後年度負担」で行われる。将来の予算を圧迫し、結果的に防衛費増につながる恐れがある。

在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」の今後5年間の水準も実質増で日米両政府が合意した。16~20年度の総額は9465億円で、15年度までの5年間を133億円上回っている。

沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設経費も増えている。政府が工事を本格化させれば、さらに膨らむだろう。

新安保関連法が来春施行されれば、自衛隊の任務は増え、活動範囲も広がる。他国軍との共同訓練などに対応するためには予算の裏打ちが必要だ。

安倍首相はこれまで、中期防衛力整備計画(中期防、14~18年度)で5カ年の防衛費の総額を明示している、と説明してきた。安保法制が防衛費には影響しないという趣旨だ。

だが、自衛隊の海外展開に向けた動きとともに、コストも増えるだろう。来夏の参院選が終われば、防衛費増への圧力が強まる可能性は否定できない。防衛大綱や中期防の見直しを求める声が高まるのではないか。

厳しい財政状況のもとで、防衛費の聖域化は許されない。

読売新聞 2015年12月27日

防衛費5兆円 同盟強化に役立つ装備調達に

政府の2016年度予算案で防衛費は4年連続で増え、過去最高の5兆541億円となった。

4月の新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)の決定や、9月の安全保障関連法の成立後、最初の予算編成だ。日米同盟を強化する安倍政権の意思を明確に示せたのではないか。

集団的自衛権の行使の限定容認による米艦防護任務もにらみ、弾道ミサイル防衛対応型のイージス艦1隻の建造費を盛り込んだ。米軍機支援も念頭に、新型空中給油機KC46Aを1機導入する。

「切れ目のない事態対処」の一環として、南西諸島の防衛強化に向けて、戦車並みの火力を有する機動戦闘車36両と、水陸両用車11両の購入費を計上した。輸送機オスプレイ4機も購入する。

滞空時間が長い無人偵察機グローバルホーク3機も導入される。より早期に危機の端緒を捉えることが可能になり、自衛隊の警戒監視能力はさらに高まろう。

東シナ海では中国軍が活動を活発化させている。11月には、海軍艦船が尖閣諸島周辺で「特異な航行」を繰り返した。北朝鮮も核・ミサイル開発で挑発を続ける。

こうした現状を踏まえれば、今回の防衛装備の調達内容は適切だろう。今後は、米軍との共同訓練などを重ね、実効性のある運用態勢を構築せねばならない。

新型哨戒ヘリSH60Kは、17機を一括購入する。長期契約で調達費を抑制する特別措置法に基づいて、114億円を節減した。今後も、この経費節約策を積極的に活用することが大切である。

10月には、防衛装備庁が発足した。従来の内部部局や陸海空3自衛隊による縦割りを排し、一元的に装備調達を担う組織だ。

限りある予算を有効活用するには、装備調達の優先順位を決め、無駄な支出は徹底的に省く努力が不可欠だ。3自衛隊の予算配分の抜本的見直しも避けられまい。

日米両政府は、16年度から5年間の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)について年平均1893億円とすることで合意した。今年度とほぼ同水準だ。

光熱水費の負担率を下げ、福利厚生施設の従業員を減らす一方、イージス艦の整備などでの雇用を増やす。妥当な内容である。日本側の経費負担は、同盟国としての責任分担にほかならない。

米軍はアジア重視のリバランス(再均衡)政策に基づき、最新鋭のイージス艦などの日本への重点配備を進めている。日本の抑止力を高めることは歓迎したい。

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