高浜原発再稼働へ 差し止めの解除は当然だ

朝日新聞 2015年12月27日

高浜原発 再稼働に反対する

関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転を禁じた福井地裁の仮処分決定が取り消された。関電は来月下旬にも再稼働に踏み切る見込みだ。

だが、司法判断の直前に完了した地元・福井県の同意手続きには問題が多い。このまま再稼働へ進むことには反対だ。

福井県には廃炉が決まったものも含めて15基の原子炉が集中する。西川一誠知事は同意にあたって五つの条件を掲げ、国と関電に責任の明確化を迫った。

福島第一原発事故後、原発再稼働に世論は一貫して慎重だ。西川氏は「国民理解の促進」を国に強く求め、安倍首相から「全国各地で説明会を開く」との言質をとった。

関電には使用済み核燃料の中間貯蔵施設を県外につくる時期の明示を求めた。関電は11月、「20年ごろに場所を決め、30年ごろに操業する」と表明した。

西川氏は、条件がすべて満たされたとの認識を示した。だがこれらの約束がどれほど内実を伴っているかは疑問だ。

関電は以前から「中間貯蔵施設は関西に設置したい」と自治体への説明を続けてきた。しかし反発は強く、めどは立たない。結局は「空手形」ではないか、との疑いが否めない。

一方、西川氏はどこまで自身の責任を果たしたか。

「原発の安全性や必要性は国や事業者に説明責任がある」とし、県主催の住民説明会は開かなかった。30キロ圏に京都、滋賀両府県を含み、計約18万人が暮らす高浜原発周辺の避難計画は今月まとまったばかり。だが西川氏は「法律上、避難計画は再稼働の条件ではない」と述べ、府県境をまたぐ訓練も待たずに同意に踏み切った。

地元同意は本来、住民の安全と安心を高めるプロセスのはずだ。だが、九州電力川内原発(鹿児島県)、四国電力伊方原発(愛媛県)に続き、望ましくない「ひな型」がまた一つ増えたのは残念というしかない。

国の再稼働ありきの姿勢もより露骨だった。林幹雄経済産業相は司法判断の4日前に福井を訪れ西川氏に同意を要請した。

原発周辺の自治体や住民には、再稼働の判断に関与できないことへの不満が強い。高浜でも京都、滋賀両府県が立地自治体並みの「同意権」を求めたが、関電は応じていない。国も「地元同意は法令上の要件ではない」と静観するばかりだ。

安倍首相は「原発の重要性に国民理解が得られるよう説明していく」と述べた。それならば「地元」の範囲についても方向性を示すべきではないか。

読売新聞 2015年12月26日

高浜再稼働へ 「差し止め」覆す合理的決定だ

専門性が極めて高い原子力発電所の安全審査について、行政の裁量を尊重した妥当な決定だ。

関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた仮処分の保全異議審で、福井地裁が、差し止め決定を取り消す決定を下した。

「原子力規制委員会の判断に不合理な点はなく、3、4号機の安全性にも欠ける点がない」というのが、取り消しの理由だ。

3、4号機については、地元の福井県知事と高浜町長が既に、再稼働に同意している。

関電は25日、3号機への核燃料挿入を始めた。来年2月までに2基を順次、再稼働させるという。安全確保を最優先し、着実に準備を進めてもらいたい。

3、4号機は今年2月、東京電力福島第一原発の事故後に厳格化された新規制基準に基づく安全審査に合格した。

ところが、4月に福井地裁の当時の樋口英明裁判長が「新基準は緩やかに過ぎる」と独善的な見解を示し、再稼働を差し止めた。「ゼロリスク」に固執した不合理な決定だったと言うほかない。

今回、林潤裁判長は「新基準や規制委の判断に不合理な点があるか否かの観点から審理・判断するのが相当だ」と指摘した。

その上で、「危険性は社会通念上、無視できる程度にまで管理されている」と結論付けた。

原発の安全審査について、最高裁は1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で、「最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との考え方を示した。

司法の役割を抑制的に捉えたこの判例が、原発訴訟での司法判断の基準となっている。

今回の決定も、判例にのっとった常識的な内容だと言える。

一方で、林裁判長は決定の中で、関電と規制委が安全神話に陥ることなく、高い安全性を目指す努力を継続するよう求めた。

福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、関電だけでなく、原発を保有するすべての電力会社に当てはまる注文である。

避難計画の実効性を高めることも欠かせない。

高浜原発で万一、重大事故が発生した場合には、半径30キロ圏内の住民が、バスや自家用車に分乗し、兵庫、徳島両県に避難する計画だ。福井県と京都府の17万9000人が対象となる。

政府と関係自治体には、住民が県境を越えて円滑に避難できるよう、体制整備が求められる。

産経新聞 2015年12月26日

高浜原発再稼働へ 差し止めの解除は当然だ

極めて妥当な判断だ。今年4月、福井地裁が関西電力に命じた高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めの仮処分決定が、同地裁によって撤回された。

関西電力による異議申し立ての内容が全面的に認められたことで、2基の再稼働の行く手をふさいでいた仮処分の壁が取り除かれた。

これを受け、3号機では来年1月下旬の再稼働を目指しての燃料装荷が25日から始まった。

それを可能にした仮処分命令の取り消しを、電力の安定供給や地球温暖化防止につながる賢明かつ順当な決定として歓迎したい。

今回の異議審では、林潤裁判長が原発の安全性に対する司法審査のあり方を提示した点が注目される。「裁判所は、新規制基準の内容および原子力規制委員会による新規制基準への適合性判断に不合理な点があるか否かという観点から、厳格に審理・判断すべきである」と述べている。

前任の裁判長による4月の仮処分に対する、司法の反省として受け止めたい。そもそも、この仮処分の論拠には疑問点が多かった。高浜3、4号機は、既に規制委による安全審査に合格していたのだが、前裁判長は「新規制基準は緩やかに過ぎて合理性を欠き、適合しても安全性は確保されない」と否定した。

高度な技術的専門性が求められる分野に、あり得ないゼロリスクを要求する独断的見解で踏み込み、下した結論である。

規制委も首をかしげ、関電は地裁側の複数の事実誤認例を列挙して異議申し立てを行った。事故時に冷却機能を担うポンプの種類の取り違えなどがその例である。あまりにも粗雑ではないか。

仮処分は、即効性を持つので影響力が大きい。高浜3、4号機の場合は、規制委の最終審査が続いていたので直接の影響は免れたが、申請と受理には十分な良識と理性が問われよう。

3、4号機は、高浜町と福井県による再稼働への地元同意が得られていることから、関電は4号機についても来年2月下旬の再稼働を目指す。

林裁判長も指摘しているが、原子力発電には常に科学技術の最新知見を反映し、高いレベルでの安全性の追求を継続する努力が欠かせない。これを肝に銘じることが重要だ。

朝日新聞 2015年12月25日

高浜原発訴訟 司法の役割はどこへ

まるで福島原発事故以前の司法に逆戻りしたかのようだ。

福井地裁がきのう、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働を禁じた4月の同地裁の仮処分決定を取り消した。

新規制基準について、4月の決定は「緩やかに過ぎ、適合しても原発の安全性は確保されない」と断じていた。だが今回は「高度の専門性、独立性を有する原子力規制委員会が審査する新規制基準の枠組みには合理性がある」とし、規制委の審査についても「判断に不合理な点はない」と結論づけた。

同時に審理していた大飯原発3、4号機(同)の運転差し止め仮処分申請も、「再稼働が差し迫っているとはいえない」として却下した。

4月の決定は05年以降、四つの原発に5回も耐震設計の目安となる基準地震動を超える地震が来たことや、使用済み核燃料プールの設備も堅固でないと指摘した。これらの点も今回の決定は「危険性は社会通念上無視し得る程度にまで管理されている」と述べた。

原子力専門家の知見を尊重し、安全審査に見過ごせないほどの落ち度がない限り、司法は専門技術的な判断には踏み込まない――。92年、四国電力伊方原発訴訟で最高裁が示した判例だ。今回の決定は、この考え方を踏襲したといえる。

だがこの枠組みで司法が判断を避け続ける中で、福島事故が起きたのではなかったか。

原発はひとたび大事故を起こせば広範囲に長期間、計り知れない被害をもたらす。専門知に判断を委ね、深刻な事故はめったに起きないという前提に立ったかのような今回の決定は、想定外の事故は起こり得るという視点に欠けている。「3・11」後の原発のあり方を考える上で大切な論点だったはずだ。

関電は高浜の2基の再稼働が1日遅れるごとに、約4億円の経済的損失が出ると主張してきた。「司法のストッパー」が外れたことで、再稼働へ向けた手続きが加速する。

だが、原発には国民の厳しい視線が注がれていることを忘れてはならない。

電力会社は原発再稼働の同意を得る地元の範囲を県と原発立地自治体に限っている。高浜原発の30キロ圏内には、京都や滋賀も含まれる。同意を得る範囲は見直すべきだ。

福井県に多くの原発が集まる集中立地のリスクについても、議論は不十分だ。政府も電力会社も、これらの問題点を置き去りにしたまま再稼働に突き進むことは許されない。

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