専門性が極めて高い原子力発電所の安全審査について、行政の裁量を尊重した妥当な決定だ。
関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた仮処分の保全異議審で、福井地裁が、差し止め決定を取り消す決定を下した。
「原子力規制委員会の判断に不合理な点はなく、3、4号機の安全性にも欠ける点がない」というのが、取り消しの理由だ。
3、4号機については、地元の福井県知事と高浜町長が既に、再稼働に同意している。
関電は25日、3号機への核燃料挿入を始めた。来年2月までに2基を順次、再稼働させるという。安全確保を最優先し、着実に準備を進めてもらいたい。
3、4号機は今年2月、東京電力福島第一原発の事故後に厳格化された新規制基準に基づく安全審査に合格した。
ところが、4月に福井地裁の当時の樋口英明裁判長が「新基準は緩やかに過ぎる」と独善的な見解を示し、再稼働を差し止めた。「ゼロリスク」に固執した不合理な決定だったと言うほかない。
今回、林潤裁判長は「新基準や規制委の判断に不合理な点があるか否かの観点から審理・判断するのが相当だ」と指摘した。
その上で、「危険性は社会通念上、無視できる程度にまで管理されている」と結論付けた。
原発の安全審査について、最高裁は1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で、「最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との考え方を示した。
司法の役割を抑制的に捉えたこの判例が、原発訴訟での司法判断の基準となっている。
今回の決定も、判例に則った常識的な内容だと言える。
一方で、林裁判長は決定の中で、関電と規制委が安全神話に陥ることなく、高い安全性を目指す努力を継続するよう求めた。
福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、関電だけでなく、原発を保有するすべての電力会社に当てはまる注文である。
避難計画の実効性を高めることも欠かせない。
高浜原発で万一、重大事故が発生した場合には、半径30キロ圏内の住民が、バスや自家用車に分乗し、兵庫、徳島両県に避難する計画だ。福井県と京都府の17万9000人が対象となる。
政府と関係自治体には、住民が県境を越えて円滑に避難できるよう、体制整備が求められる。
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