◆財政健全化の手綱も緩めるな◆
経済再生と財政再建の両立へ、成長基盤の強化と一層の構造改革を着実に進めねばならない。
政府が2016年度予算案を閣議決定した。
一般会計総額は、15年度当初予算比0・4%増の96・7兆円と、過去最大になった。
景気回復に伴い、税収は15年度より3兆円多い57・6兆円と、25年ぶりの高い額を見込んだ。新規国債発行額は34・4兆円で、7年ぶりの低水準に抑えた。アベノミクスが奏功し、財政状況が好転していることは評価できる。
◆少子化対策に重点配分
ただ、来年夏の参院選を意識したバラマキ色の濃い予算も散見される。財政再建の道のりの険しさを、より真剣に自覚すべきだ。
限られた予算の中で重点配分したのは、「1億総活躍社会」に向けた子育て支援などの少子化対策だ。保育施設の整備や児童扶養手当の増額で家計を後押しする。
麻生財務相は「少子高齢化に正面から取り組む」と強調した。
企業は、人口減による国内市場の縮小を見越し、設備投資などに慎重になっている。少子化に歯止めをかけ、経済の活力を高める狙いは理解できる。
歳出総額の約3割を占める社会保障費は、15年度比4400億円増の31・9兆円となった。
政府は社会保障の伸びを年5000億円に抑える方針を掲げており、目標の範囲内に収めた。
これは、2年に1度の診療報酬の見直しにより、マイナス改定としたことが大きな要因だ。
だが、高齢化が進行する中、今の制度のままでは、社会保障費の伸びを抑制し続けることは難しい。抜本的な改革を断行しないと、社会保障制度の持続可能性自体が危ぶまれよう。
所得の多い高齢者の医療費負担増や、年金課税の強化などの検討を急がねばならない。
公共事業費は5・9兆円で15年度とほぼ同額となった。その中で、防災対策や老朽化したインフラ(社会資本)の補修・更新に手厚く配分したのは適切だ。
地方交付税交付金は、15年度比1・6%減の15・2兆円に抑えた。自治体財政は改善しており、リーマン・ショック後に緊急対策として導入した「別枠加算」を廃止するのは妥当である。
◆ODA増額は適切だ
政府開発援助(ODA)費には5500億円を計上した。17年ぶりの増額を歓迎したい。
安倍政権の「積極的平和主義」に基づき、ODAの戦略的活用を進めることが大切である。
防衛費は4年連続の増額で、初めて5兆円を上回った。
中国の海洋進出などで、日本の安全保障環境は厳しさを増している。離島防衛や警戒監視活動を強化するのは当然と言えよう。
気がかりなのは、家計の下支えを名目に、低所得の年金受給者向けの給付金制度に、15年度補正予算案との合計で3800億円も計上したことだ。1000万人以上に各3万円を支給するという。
一時的な給付では貯蓄に回る分も多く、十分な効果が出ない恐れがある。財政への目配りをせず、選挙目当てで、高齢者に大盤振る舞いをするのなら問題だ。
農道や用水路の整備などを行う土地改良事業も、15年度補正予算案と合わせて、1200億円以上増やした。
環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を見据えて、農地の有効活用を図るのが目的だという。
かつてのウルグアイ・ラウンド対策では、土地改良事業に巨費を投じながら、農業の競争力強化の成果はあまり上がらなかった。今度も同じ轍を踏まないか。
農家の生産性向上など、政策効果の精緻な検証が欠かせない。
◆税収増の持続は不透明
借金で予算をどれだけ賄うかを示す国債依存度は35・6%で、08年度以来の低い水準となった。
税収の大幅増を見込んでいるためだが、この強気の見積もりは、名目3・1%という高めの成長が前提になっている。
しかし、中国の景気減速や米国の利上げの影響など、世界経済の先行きには不透明感が漂う。
国内でも、企業の業績改善に伴う税収増が、果たしていつまで続くのか、不安は拭えない。
政府は、20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を掲げる。名目3%の高成長を続けても、20年度には、なお6兆円もの赤字が残ると試算されている。
景気動向に左右されやすい税収の増加を過剰に期待するだけでなく、歳入・歳出改革を徹底することが求められる。
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