衆院選制度改革 格差の是正へ党利党略を排せ

朝日新聞 2015年12月20日

衆院選挙制度 答申を尊重し、実行を

衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査会」が、来年1月に議長に答申する改革案をまとめた。

衆院定数は、小選挙区で6、比例区で4の計10減らし、戦後最少の465とする。

また「一票の格差」を縮めるため、都道府県の人口比に基づく「アダムズ方式」で定数を再配分する。これにより、都道府県ごとの一票の格差は最大1・62倍になるという。

調査会が設置されたのは、各党による協議で結論を出せなかったからだ。自分たちではどうにもできない。だから有識者の皆さん、お願いします――。

この経緯を踏まえれば、各党は答申にそって速やかに合意形成を図り、次の衆院選は新制度の下で行えるよう、来年の通常国会で法改正を行うべきだ。

衆院選の一票の不平等をめぐって、最高裁はこの4年間に3度、「違憲状態」の判決を出している。これ以上、対応を先延ばしすることは許されない。

一方、国会議員は、民意を国政の場に届けるという重要な役割を担う。「身を切る改革」は定数削減ではなく、政党交付金や各種手当の減額などで行うべきだとの議論は根強くある。

なぜ定数10減なのか。結論の根拠が弱いことも否めないが、調査会に議論を委ねた以上、各党は答申に従わねばならない。

同時に、選挙制度の改革は本来、一票の格差の是正や定数削減にとどまらないし、一度変えればそれで終わりでもない。

民主的平等とは何かという観点から、制度によって民意との隔たりが生まれないよう不断の見直しを続ける。それが国会議員の責務であることを、肝に銘じてもらいたい。

残念なのは、調査会の結論は、定数の変動を最小限にとどめるという政治的配慮が優先された印象がぬぐえないことだ。

一票の格差是正に関しては、最高裁が「速やかな廃止」を求めていた、議席をあらかじめ都道府県に一つずつ割り振る「1人別枠方式」が名実ともに廃止されることになる。

ただ、アダムズ方式は、結果的に各都道府県に1議席ずつ配分される仕組みになっており、「1人別枠方式」と同じ効果がある。最高裁判決の趣旨に照らして疑問が残る。

選挙制度は民主政治の基盤である。結論はもとより、議論のプロセスも極めて重要だ。

調査会は1年以上議論を重ねてきた。答申にあたっては、反対意見も含め議論の蓄積を紹介し、幅広い有権者の納得をえられるよう力を尽くしてほしい。

読売新聞 2015年12月19日

衆院選制度改革 格差の是正へ党利党略を排せ

衆院選の「1票の格差」の縮小へ、与野党は党利党略を排して、制度改革に取り組むべきだ。

衆院の選挙制度改革に関する有識者調査会が答申原案をまとめた。小選挙区の格差是正について、各都道府県の定数を「アダムズ方式」で配分し直すことを提案した。

定数は、東京都と4県で計7増加し、青森、岩手など13県で1ずつ減る。都道府県間の格差は最大1・621倍となる。

小選挙区間の格差も、衆院選挙区画定審議会設置法の定める2倍未満に収まる見通しである。

アダムズ方式は、「1人別枠方式」に代わるものだ。人口の少ない県に比較的有利とされ、都道府県の定数の増減を小幅に抑えられる。将来の人口減にも一定程度対応が可能で、最少の鳥取県も当面、定数2を維持できる。

地方に配慮しつつ、1票の格差を是正する観点で、現実的な方式と言えよう。

最高裁は先月下旬、1票の格差が最大2・13倍だった昨年12月の衆院選を「違憲状態」と判断した。立法府として、司法の要請に速やかに応えねばなるまい。

疑問なのは、答申原案が定数を小選挙区で6、比例選で4削減したことだ。衆院定数は戦後最少の465となる。

小幅とはいえ、定数を減らせば、選挙で多様な民意を反映しにくくなる。議員立法や、法案審議を通じた行政監視など、立法府の能力が低下しかねない。そもそも日本の国会議員は人口比でみれば、欧米諸国より多くない。

さらに、定数を減らすほど、1票の格差是正が困難になる。

調査会内でも、定数削減の弊害を指摘する意見が少なくなかった。最終的に、定数の大幅削減を唱える主要政党の主張を取り入れざるを得なかったのは残念だ。

調査会は年明けに、大島議長に答申する。主要各党は昨年6月、調査会の結論を「尊重する」ことを確認している。だが、自民党内では早くも、地方選出議員らから答申原案への反発が出ている。

選挙制度は各党の消長に直結する。どんな案でも、異論は避けられない。自民党は、自らの利害に拘泥せず、各党の意見集約に主導的な役割を果たすべきだ。

新制度への移行には、答申内容を反映した公職選挙法の改正や区割りの見直し作業などが必要で、最低1年以上かかる見通しだ。

与野党は、こうした日程も踏まえて、選挙制度改革を実現することが求められよう。

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