米ゼロ金利解除 「出口」迎えた異例の危機対応

朝日新聞 2015年12月18日

米国の利上げ なお残る出口のリスク

米連邦準備制度理事会(FRB)が9年半ぶりとなる利上げを決めた。2008年のリーマン・ショック後に開始した「ゼロ金利」から7年を経て抜け出す。リーマン後、日本や欧州に先駆けての利上げでもある。

ありあまるお金が金融市場に投じられる異常な緩和状態を作り出してきた大元が、米国の金融緩和だった。引き締めに転じることで世界のお金の流れは大きく変わる。金融政策が正常化へと動き出すことは長期的な世界経済の安定には望ましく、その意味で決定は評価できる。

米景気は総じて明るくなっている。雇用が改善し個人消費も堅調だ。

しかし、物価の上昇は、FRBが目標とする2%に届いていない。新興国経済に活気がないことから、輸出増を見込んだ設備投資も盛り上がっていない。

景気が上向くなかで実施してきた過去の利上げと今回とではずいぶん様相が違う。だからだろう、FRBのイエレン議長は今後ゆっくりと段階的に利上げを進めると説明している。

米国の大規模緩和は、リーマン・ショックから世界恐慌へと危機が広がることを封じる意味はあった。だが、緊急避難だったはずの政策が7年間にも及び、新しい危機リスクのエネルギーを蓄積させた側面がある。

とくに懸念されるのは資産価格の動向だ。ゼロ金利下でいくらでもお金を調達できる環境となったことで、株や債券への投資が進み、歴史的な高値が続いている。8年前に問題となった低所得者向けのサブプライムローンが再び自動車ローンなどで増加している。マネーの巻き戻しで、こうしたお金の動きが調整されていくことは避けようがないだろう。

FRB自身の出口戦略も簡単ではない。FRBが買い進めた国債や金融商品などの保有資産は平時の5倍の4・5兆ドル(約550兆円)にのぼる。FRBはこれを少しずつ減らし、市場に注ぎこんだ大量のお金を回収する必要がある。ペースによっては市場を混乱させる恐れもあり、慎重さが不可欠な、息の長い試みとなる。

金融政策は今後、米が引き締め、日欧が緩和というねじれ状態になる。それが国際的なマネーの流れにどんな影響を与えるか、読みにくい。あらゆる事態を想定しておくべきだ。

日本銀行と欧州中央銀行(ECB)も大規模緩和の手じまいに向け、出口戦略を練っておく必要がある。先行するFRBのかじ取りは、そのための教材となるはずである。

読売新聞 2015年12月18日

米ゼロ金利解除 「出口」迎えた異例の危機対応

リーマン・ショックに端を発した未曽有の金融危機に、米国が空前の大規模緩和で対処する事態に終止符が打たれた。

危機の震源地である米国が、金融政策を平時の状態に戻せるまで、経済再生を果たしたことを歓迎したい。

米連邦準備制度理事会(FRB)が、9年半ぶりの利上げを決めた。政策金利の誘導目標を年0~0・25%から年0・25~0・50%に上げ、2008年末から続く事実上のゼロ金利政策を解除した。

米国の景気拡大局面は6年強に及び、失業率は危機前の水準に戻った。雇用安定や緩やかな物価上昇も見込める以上、異例の金融緩和を打ち切るのは妥当である。

危機後の世界経済は、日米欧の金融緩和で潤沢な資金が流入した新興国が牽引けんいんしてきた。米国の利上げによって、この構図が大きく転換することに注意が必要だ。

世界の投資資金が、金利上昇を期待できるドルでの運用に傾くのは確実である。新興国に流れていた「緩和マネー」が、大量に米国へ逆流する恐れが指摘される。

新興国の通貨や株価が急落し、市場に深刻な動揺を招くリスクを十分警戒せねばなるまい。

原油価格の下落も懸念材料だ。産油国の財政逼迫ひっぱくでオイルマネーが市場から引き揚げられている。緩和マネーの逆流が重なれば、混乱に拍車がかかりかねない。

FRBの決定の直後、日米の株価が大幅に上昇するなど、市場は利上げをおおむね好感した。

投資家の多くが事前にゼロ金利解除を織り込んでいたうえ、FRBのイエレン議長が、今後の利上げを緩やかなペースで進める考えを表明したのも奏功した。

だが、金融緩和の「出口戦略」の今後に、油断は禁物である。

FRBには、繊細なかじ取りが求められる。「市場との対話」を慎重に重ねて、金融政策の方向性を市場関係者に徐々に浸透させることが欠かせない。

新興国側も、過度な資金流出が起きないよう、投資先としての魅力を高める努力が大切になる。外資の参入を促す規制緩和など構造改革を加速してもらいたい。

甘利経済再生相は、利上げの日本への影響について「中長期的にプラスだ」と強調した。円安・ドル高が進み、輸出にさらに勢いがつく効果が期待できよう。

ただ、過度な円安が輸入物価を高騰させ、景気が悪化する危険性からも目が離せない。成長戦略を着実に実行し、内需主導の自律的な景気回復を急ぐべきである。

産経新聞 2015年12月19日

米国利上げ 新興国への影響見極めよ

リーマン・ショックに伴う世界的な金融危機の震源地となった米国が、これに対応したゼロ金利政策を7年ぶりに終え、利上げに踏み切った。

雇用改善や堅調な消費を踏まえたもので、米連邦準備制度理事会(FRB)の判断は妥当だ。

非常時の金融政策からの脱却は、米国の景気拡大を示す証左となると同時に、世界の資金の流れを変える転換点でもある。新興国や資源国から米国へと資金が向かい、世界経済が混乱する懸念がある。FRBは、海外に目を配り、丁寧に正常化を進めなくてはならない。

その際には日欧や新興国との連携も強めたい。米国とは逆に日銀は量的緩和の補強策を決めた。欧州中央銀行も追加緩和を実施したばかりだ。逆方向の政策が及ぼす影響も見極める必要があろう。

FRBのゼロ金利政策は、既に終了した量的緩和策とともに金融危機を封じ込める役割を果たした。景気拡大は6年以上続き、これ以上、利上げが遅れると、景気が過熱する恐れがあったというFRBの認識は理解できる。

ただ、利上げが及ぼす影響は注意深く見るべきだ。米国は内需が堅調でも輸出は低迷しており、利上げでドル高が一段と進めば輸出企業には大きな打撃となる。

何よりも警戒すべきは、新興国経済が通貨下落などで減速傾向を強めることだ。とくに資源国は、原油価格の下落と相まって強い逆風にさらされる恐れがある。

その結果、世界経済を後退させれば米国にも跳ね返る。イエレン議長は「緩和的な金融政策を続ける」と語り、今後の追加利上げはゆっくりとしたペースで行う考えを示した。

今の米国経済には、一国だけで世界経済を支えられるほどの力強さはない。国内外の動きに変調を来さないかを見据えて、柔軟なかじ取りを行うよう期待したい。

この点は日銀も同じだ。18日の金融緩和補強策は、企業の設備投資や賃上げを促して緩和の効果の浸透を図るものだ。安倍晋三政権が思うほど消費や投資が伸びず、景気が停滞感を見せている現状を打開する狙いもうかがえる。

そんな中で海外経済の減速傾向が強まれば、本格的な追加緩和を求める声が一段と高まる可能性がある。ただし、場当たり的に政策を逐次投入しても、効果は見込めまい。

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