日印原発協力 核不拡散の原則を壊す

朝日新聞 2015年12月13日

日印原発協力 核不拡散の原則を壊す

核兵器の技術や材料の広がりを防ぐ枠組みが、いよいよ危うくなっている。商業的な利益を目当てに各国が核武装国へも原発を売り込もうとする流れに、被爆国日本までが加わった。

インドを訪れた安倍首相がきのう、原子力協定を結ぶことでモディ首相と合意した。日本企業による原発の輸出を強力に後押しする。

インドは核不拡散条約(NPT)に加わらず、核兵器を保有した国だ。やはり条約への参加を拒んで核武装した隣のパキスタンと緊張関係にある。

そんな国に原子力技術を提供することは、国際社会が長年積み上げてきた核不拡散の地道な努力をないがしろにし、不拡散体制をさらに形骸化させる愚行というべきである。

世界を核の脅威が覆った第2次大戦以降、核廃絶を願う声が高まり、それが1970年のNPTの発効につながった。

米英仏中ロに核保有を認める代わりに核軍縮を義務づけ、その他の国には原子力の平和利用のみ認める。その原則のもとに日本を含む国々が加わった。

この枠組みから外れた国とは原子力関連の貿易をしない。それが供給国側のルールだった。だが、米国が主導して08年にインドを例外にした。それ以降、米仏ロ、韓国などがこぞって原子力協定を結んできた。

そうした国々はインドを原発の市場として有望視している。先進国では原発がつくりにくくなるなか、インドはすでに約20基の原発をもち、今後も40基の新設計画があるからだ。

米国であれ、どの国であれ、核不拡散の原則を商機と引きかえに曲げることは重大な禍根を残すことを悟るべきだ。

とりわけ日本は、「核なき世界」づくりを先導すべき国である。核の悲惨さを知るだけでなく、世界最大級の原発事故を起こし、今も放射能による汚染に苦慮している。核拡散の歯止め役を務めるはずの国である。

にもかかわらず5年前にインドと交渉を始めた民主党政権も、今回の安倍政権も、ともに被爆国としての責務を忘れてしまったというほかない。

安倍首相はきのうの会見で、インドとともに核兵器のない世界をめざす旨を語ったが、その具体的な行動は見えない。

核にこだわる北朝鮮やイランに対し、インドの扱いがなぜ違うのか、どう説明できるのか。他の国の追従をやめさせる説得力も失ってしまう。

不拡散体制を守るべき日米などが自らその根本を崩す限り、核の脅威は増すばかりだ。

読売新聞 2015年12月15日

日印首脳会談 原発協力は戦略的関係の柱だ

日本とインドは、戦略的な利益を共有する大国だ。多角的な協力を着実に深めねばならない。

安倍首相が訪印し、モディ首相との会談で、原発、高速鉄道、安全保障などで連携する共同声明に署名した。

安倍首相は会談後、「日印新時代が始まる」と強調した。モディ首相は「日本企業の投資は飛躍的に前進するだろう」と語った。

特筆すべきは、日本からインドに原子力関連の資機材や技術を輸出する前提となる原子力協定の原則合意だ。インドは、米仏露や韓国などと協定を締結している。

インドは、深刻な電力不足の解消のため、原子力発電所の大幅な増設を計画中だ。日本の協力は、インドのエネルギー戦略にも合致し、日印関係をより高い次元に引き上げる重要な基盤となる。

インドは、核拡散防止条約(NPT)に未加盟の核保有国だ。2008年に核実験凍結の継続などを対外的に表明している。

安倍首相は会談で、核実験が行われた場合、協力を停止する方針を伝えた。協定は、平和目的の協力に限り、軍事転用に明確な歯止めをかける内容にすべきだ。

政府はインドに対し、核不拡散の国際的な枠組みに参加し、核軍縮を進めるよう、粘り強く促し続けることが重要である。

両首脳は、インド西部ムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道計画に、新幹線方式を採用することで一致した。総事業費は1兆8000億円で、その約8割を上限に、日本は円借款を供与する。

海外での新幹線の採用は台湾に次ぐ2例目だ。インドネシアの高速鉄道受注競争で中国に敗れたことを踏まえ、資金支援を強化したことなどが奏功したのだろう。

原発や交通インフラの輸出拡大は、安倍政権の成長戦略の柱だ。官民が中長期的な視点を持ち、緊密に連携しなければなるまい。

共同声明は、南シナ海情勢に関し、「一方的な行動」の回避を関係国に呼び掛けた。人工島造成を進める中国が念頭にある。

中東とアジアを結ぶ海上交通路の安全確保は、自由な経済活動に不可欠だ。中国の強引な海洋進出には、様々な機会を通じて、異論や注文を唱える必要がある。

日印両国は、防衛装備品・技術移転協定と、軍事に関する情報保護協定に署名した。米印両海軍の共同訓練に、海上自衛隊が定期的に参加することも確認した。

日印の防衛協力の実効性を高めるため、米国や豪州などを交えた重層的な連携を強めたい。

産経新聞 2015年12月13日

日印首脳会談 協力強化への弾みつけた

同じアジアの民主主義国家として、経済、安全保障両分野での協力関係の強化に大きな弾みがついた。

インドを訪問した安倍晋三首相がモディ首相との会談で、インド初となる高速鉄道に日本の新幹線システムを導入することを決めた。

日本の原発輸出の前提となる原子力協定の締結にも原則合意した。インフラ輸出は安倍政権の成長戦略の柱である。「トップセールス」の大きな成果といえよう。

高速鉄道はインド国内で他に6路線の計画があり、米テキサス州やタイでも新幹線の採用が検討されている。

海外での日本の新幹線導入は台湾に次いで2例目だ。インドネシアでは、中国に競り負けたばかりだ。今回の日印合意をバネに受注機会を広げてもらいたい。

原発輸出は、日本国内で新設が難しい状況から技術、人材を維持していく上でも重要といえる。

ただ、原子力協定についてはインドが核拡散防止条約(NPT)に未加盟であることが、締結のネックになっていた。

今回、インド側に対し軍事転用への歯止めを明確にするよう求めたのは当然である。包括的核実験禁止条約(CTBT)への参加なども、引き続き呼びかけていく必要があろう。

安全保障分野では、日本から防衛装備品、技術移転を可能にする協定と防衛関連情報を交換するための情報保護協定に署名し、連携を一層強化することにした。

インドが関心を示す海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の輸出交渉の加速にもつなげたい。

南シナ海で中国が人工島を造成し、軍事拠点化を進めている問題への警戒感を両首脳が共有した点も大きい。共同声明では「航行の自由」をうたった。

すでに中国は、インド洋の沿岸国の港湾を整備し、潜水艦の活動を活発化させるなどしている。石油を中東に依存する日本にとり、インド洋は重要な海上交通路(シーレーン)であることを忘れてはならない。

インド海軍と米海軍による海上共同訓練に、海上自衛隊が恒常的に参加するなど、地域の安定に資する具体的な行動も必要だ。

日印緊密化を米国やオーストラリアなどインド洋や太平洋地域の海洋国家の結束につなげたい。

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