パリ協定採択 世界全体で目標を達成しよう

朝日新聞 2015年12月15日

温暖化対策の新合意 危機感共有の第一歩だ

「今日、私たちは人類にとって最大級の試練、気候変動に直面して、ここにいる。ツバルのような国の生き残りはこの会議の決定にかかっている」

こんな悲痛な首脳演説で幕を開けたフランス・パリでの国連気候変動会議(COP21)が、2020年以降の地球温暖化対策に関する新しい国際枠組みでようやく合意に達した。

複雑に絡む利害を反映し、各国が折り合いをつけた結果だけに、不足はいろいろある。

それでも、平均気温の上昇を2度未満に抑えるというこれまでの目標だけでなく、「1・5度未満に抑えるよう努める」と明記した意義は大きい。

二酸化炭素など温室効果ガスの排出をできるだけ早く減少に転じ、今世紀後半には森林や海による吸収以下にする「実質ゼロ」の長期目標も盛り込んだ。

「数カ月前まで考えられなかった」と環境団体も驚く。

2度と1・5度では温暖化による海面上昇で決定的な差が生じるという数値予測がある。国土の水没を恐れるツバルなど小さな島国の懸命な訴えを、大国も軽んじられなかったのだ。

6年前に温暖化交渉は一度決裂した。だがその後、先進国を含む世界各地で記録的な熱波や大雨、干ばつ、強烈な嵐など気象異変が相次ぎ、多くの人々が気候変動への懸念を強めたことが交渉の原動力になった。

■京都議定書を超えて

核兵器による突然の破滅が人類にとって急性疾患とすれば、温暖化はじわじわと苦痛や危機をもたらす慢性疾患といえる。

合意された排出の削減や抑制は自主的な取り組みとはいえ、途上国も参加する。先進国だけに削減を義務づけた京都議定書から大きく前進した。

温暖化への危機感を世界が共有して踏み出す第一歩である。

世界が地球益の下に結束して「共通だが差異ある責任」を果たそうと誓ったのがパリ協定であり、各国は様々な被害軽減などにもこぞって乗り出す。

今回の最大の推進役は、皮肉にも共和党政権下で京都議定書を離脱した米国だった。

オバマ民主党政権は、首脳会談を通じて世界最大の排出国になった中国やインドを巻き込んだ。さらに、削減機運を高めようと島国や欧州連合(EU)などがつくった「野心連合」に電撃的に参加を表明し、合意への流れを確実にした。

来年の大統領選もにらんだ積極的な動きだった。

■後悔しない政策を

米国の共和党支持層には温暖化懐疑論が根強い。

確かに温暖化の研究は進んでいるが、完璧には程遠い。人類の知恵が十分及ばぬほど地球環境システムは複雑だからだ。

だが産業革命以後、石炭や石油などの化石燃料を人類が大量に燃やし始め、大気中の二酸化炭素が急速に増えたことは確かだ。この濃度の急上昇により、近年の温暖化は説明できる。

この先も二酸化炭素濃度が上がれば気温も上がると予想される。しかし、どのぐらいの濃度になると何度気温が上がると正確に予測する精度はない。

さらに言えば、温暖化の原因はほかにあるかも知れない。それでも、国際社会は現時点では温室効果ガスが最も疑わしいと判断し、排出削減で温暖化を抑えようと決意したのである。

温暖化の科学に不確実さがあっても、将来に向けて「後悔しない政策」を選択したのだ。

■日本も決意が要る

そんな決意の乏しい日本政府は、パリでほとんど存在感を示せなかった。米国の野心連合参加も寝耳に水だったという。

会場の展示で各国は競うように自国の立場をアピールした。だが、日本のブースは四方を壁で囲っただけの空間。世界の流れに目や耳をふさぐかのような、象徴的な造りだった。

世界は脱化石燃料・脱炭素社会に大きくかじを切る決意をした。今回、長期目標が従来よりずっと野心的なものになったことで、世界経済の潮流も急速に変わっていくだろう。

国内総生産で世界3位、ガス排出量でも5位の日本が、この変化に受け身のままでいいはずがない。社会や産業の構造を、もっと積極的に脱炭素に切り替えていくべきである。

パリ協定は高い目標を掲げたとはいえ、達成の道筋や仕組みの検討はこれからだ。日本は政府も企業も様子見をやめて、今後の過程で貢献することが重要だ。ここで追いつかなければ、まさに化石になりかねない。

協定が変革を迫っているのは政府や企業だけではない。

家庭や自治体、さらには社会も、従来のエネルギー多消費型から省エネを考えたものに変わっていかなければいけない。

海外に比べて日本で弱いのは、個を超えた共同での省エネ化だ。個人や家庭、企業がつながることで、無理なく、より効率的に省エネが進む。

案じるよりも、みんなで一歩を踏み出す決意を持ちたい。

読売新聞 2015年12月15日

パリ協定採択 世界全体で目標を達成しよう

全ての国が温室効果ガスの排出削減に努める体制に合意できたのは、地球温暖化対策の重要な前進である。

パリで開かれていた国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)が、2020年からの新たな枠組みとなる「パリ協定」を採択した。

1997年採択の京都議定書では、先進国のみが削減義務を負ったが、今回は全締約国が自主目標を基に削減を図る。目標達成を義務づけない緩やかな枠組みとする一方で、各国は5年ごとに目標を見直し、一層の削減を進める。

平均気温の上昇は、産業革命前に比べて「2度を十分下回る」ことを目指す。温暖化の影響が大きい島嶼とうしょ国が求めた「1・5度未満」も努力目標として言及した。いずれも高いハードルだ。

各国が目標をどれだけ達成し、さらに引き上げられるか。パリ協定の実効性が問われる。

世界全体の排出量を減らすカギとなるのは、新興国の取り組みだ。中国やインドなどは「1人当たりのエネルギー消費は少なく、我々は途上国だ」と主張した。

だが、中印両国は既に世界1、3位の排出大国だ。相応の責任を果たすため、自主目標の達成にとどまらず、一層の削減に努力することが求められる。

会議で、途上国は「先進国が化石燃料を大量に消費して豊かになった」として、資金援助や技術移転の強化を求めた。

協定は、途上国支援を先進国の義務としたが、額の明示は見送った。年1000億ドルの支援を20年以降、上積みすることは、拘束力のない別の文書に盛り込まれた。合意を優先した途上国の現実的な判断は評価できる。

大切なのは、支援を温暖化対策に確実につなげることだ。透明性を確保し、効果を検証できるシステムを構築する必要がある。

日本は、途上国の省エネ策を支援し、削減された排出量の一部を自国分に算入できる「2国間クレジット制度」を提唱した。この制度が協定に採用されたのは、日本の外交努力の成果だ。

日本は既に、モンゴル、バングラデシュなど16か国と提携している。途上国の省エネ支援は、国内対策よりも費用対効果が大きい。積極的に拡大するべきだ。

日本の削減目標は、30年度に13年度比で26%減だ。石炭など化石燃料への依存を改めねばならない。原発の再稼働と新増設を進め、再生可能エネルギーの発電コストを下げることが重要である。

産経新聞 2015年12月15日

「パリ協定」採択 日本の知と技術で魂を 実効的な運用が成否の鍵だ

地球温暖化防止を目指し、世界の国々が二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出を減らしていくための目標や道筋などを取りまとめた「パリ協定」が採択された。

国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に集った196カ国・地域の代表による討議と数年来のCOPの積み上げによる歴史的合意への到達だ。

京都議定書の採択から18年ぶりの国際枠組みの誕生である。先進国と途上国の立場の差を乗り越え、すべての国が温室効果ガスの削減に取り組む体制を築いたことが大きな前進だ。

≪必要高まる原発再稼働≫

地球を守る仕組みはできた。実効的な運用で、破局的な気温上昇を回避したい。

パリ協定は、2020年以降、現行の京都議定書に代わって世界のCO2削減に生かされる。

京都議定書の下で、途上国は最大排出国の中国を含めて削減義務を負っていない。米国も離脱しており、一部の先進国のみによる限定的な削減となっていた。

加えて、途上国からの排出が世界の6割まで急増し、効果は著しく低下していた。

これに対し、パリ協定では途上国も米国も削減に参加する。各国は自主的な削減目標の作成義務を負う。京都議定書と異なり、目標達成の義務や未達成に対する罰則をなくしたために、全員参加を可能にしたのだ。

この自主目標方式は、日本の経済界が1990年代後半から実施してきた「自主行動計画」の国際版である。日本の取り組みの先進性に胸を張りたい。

さらに言えば、今回のパリ協定への大きな流れの形成にも日本が関与している。日本は矛盾の目立ち始めた京都議定書の「第2約束期間」に参加しなかった。この不参加こそが新たな枠組み作りへの扉を押し開く力になったのだ。

多くの点で前進したパリ協定だが、強制力が緩やかであるための問題も見えている。

全ての国と地域から提出された削減目標を合わせても、今世紀末までの気温上昇を、2度未満や、さらに望ましい1・5度以内に抑えることは難しい見通しだ。

この点は、これまで削減に背を向けてきた2大排出国の中国と米国に一層の努力を求めたい。

中国の目標は2030年ごろまで排出増加を続けると公言しているのに等しい内容なので、なおさらだ。日本は「13年度比で26%削減」を目標に掲げているが、原発の再稼働や40年を超えての運転延長などが進まなければ、達成は難しい。原子力規制と地球環境との調和が必要だ。

≪厳密な検証欠かせない≫

世界規模での削減促進には、中国やインドなどの大量排出国のエネルギー統計の整備と公表の迅速化が急務である。

両国の統計は10年遅れといわれる。これでは温暖化対策に生かせない。信憑(しんぴょう)性でも懸念がある。今秋、米紙によって報じられた中国のCO2排出量の過少発表は、億トン単位での規模だった。

「測定・報告・検証(MRV)」の徹底という、取り組みの基本部分での改善が不可欠だ。

温暖化問題では、常に途上国への資金援助が合意到達への壁となる。COP21でも「温暖化は先進国の責任」とする主張が途上国側から繰り返された。

またぞろ資金援助要求の大合唱である。これではCO2の削減交渉か、それとも援助額の上積み交渉なのか分からない。

「世界の温室効果ガスの排出を早期に減少させる」こともパリ協定の主要目標だ。CO2の排出を海や森林による吸収可能範囲に抑えることで今世紀後半の大気中での増加ゼロを目指す。

この目標達成には優れた環境技術を途上国に広める一方、CO2削減量の一部を技術提供国の実績とする「二国間クレジット制度(JCM)」の活用が有効だ。

日本生まれの制度だ。定着すれば国境の枠を超え地球規模で大幅削減への道が開ける。今世紀末の気温上昇を産業革命前から1・5度以内に抑えるという目標もJCMの普及と、中国、米国の大幅削減があれば可能性が高まろう。

京都議定書は米国の離脱で骨抜きになった。パリ協定の日本の批准は、米国と中国の実施を確認してからにしたい。国際交渉では、歴史からの学びが重要だ。

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