「今日、私たちは人類にとって最大級の試練、気候変動に直面して、ここにいる。ツバルのような国の生き残りはこの会議の決定にかかっている」
こんな悲痛な首脳演説で幕を開けたフランス・パリでの国連気候変動会議(COP21)が、2020年以降の地球温暖化対策に関する新しい国際枠組みでようやく合意に達した。
複雑に絡む利害を反映し、各国が折り合いをつけた結果だけに、不足はいろいろある。
それでも、平均気温の上昇を2度未満に抑えるというこれまでの目標だけでなく、「1・5度未満に抑えるよう努める」と明記した意義は大きい。
二酸化炭素など温室効果ガスの排出をできるだけ早く減少に転じ、今世紀後半には森林や海による吸収以下にする「実質ゼロ」の長期目標も盛り込んだ。
「数カ月前まで考えられなかった」と環境団体も驚く。
2度と1・5度では温暖化による海面上昇で決定的な差が生じるという数値予測がある。国土の水没を恐れるツバルなど小さな島国の懸命な訴えを、大国も軽んじられなかったのだ。
6年前に温暖化交渉は一度決裂した。だがその後、先進国を含む世界各地で記録的な熱波や大雨、干ばつ、強烈な嵐など気象異変が相次ぎ、多くの人々が気候変動への懸念を強めたことが交渉の原動力になった。
■京都議定書を超えて
核兵器による突然の破滅が人類にとって急性疾患とすれば、温暖化はじわじわと苦痛や危機をもたらす慢性疾患といえる。
合意された排出の削減や抑制は自主的な取り組みとはいえ、途上国も参加する。先進国だけに削減を義務づけた京都議定書から大きく前進した。
温暖化への危機感を世界が共有して踏み出す第一歩である。
世界が地球益の下に結束して「共通だが差異ある責任」を果たそうと誓ったのがパリ協定であり、各国は様々な被害軽減などにもこぞって乗り出す。
今回の最大の推進役は、皮肉にも共和党政権下で京都議定書を離脱した米国だった。
オバマ民主党政権は、首脳会談を通じて世界最大の排出国になった中国やインドを巻き込んだ。さらに、削減機運を高めようと島国や欧州連合(EU)などがつくった「野心連合」に電撃的に参加を表明し、合意への流れを確実にした。
来年の大統領選もにらんだ積極的な動きだった。
■後悔しない政策を
米国の共和党支持層には温暖化懐疑論が根強い。
確かに温暖化の研究は進んでいるが、完璧には程遠い。人類の知恵が十分及ばぬほど地球環境システムは複雑だからだ。
だが産業革命以後、石炭や石油などの化石燃料を人類が大量に燃やし始め、大気中の二酸化炭素が急速に増えたことは確かだ。この濃度の急上昇により、近年の温暖化は説明できる。
この先も二酸化炭素濃度が上がれば気温も上がると予想される。しかし、どのぐらいの濃度になると何度気温が上がると正確に予測する精度はない。
さらに言えば、温暖化の原因はほかにあるかも知れない。それでも、国際社会は現時点では温室効果ガスが最も疑わしいと判断し、排出削減で温暖化を抑えようと決意したのである。
温暖化の科学に不確実さがあっても、将来に向けて「後悔しない政策」を選択したのだ。
■日本も決意が要る
そんな決意の乏しい日本政府は、パリでほとんど存在感を示せなかった。米国の野心連合参加も寝耳に水だったという。
会場の展示で各国は競うように自国の立場をアピールした。だが、日本のブースは四方を壁で囲っただけの空間。世界の流れに目や耳をふさぐかのような、象徴的な造りだった。
世界は脱化石燃料・脱炭素社会に大きくかじを切る決意をした。今回、長期目標が従来よりずっと野心的なものになったことで、世界経済の潮流も急速に変わっていくだろう。
国内総生産で世界3位、ガス排出量でも5位の日本が、この変化に受け身のままでいいはずがない。社会や産業の構造を、もっと積極的に脱炭素に切り替えていくべきである。
パリ協定は高い目標を掲げたとはいえ、達成の道筋や仕組みの検討はこれからだ。日本は政府も企業も様子見をやめて、今後の過程で貢献することが重要だ。ここで追いつかなければ、まさに化石になりかねない。
協定が変革を迫っているのは政府や企業だけではない。
家庭や自治体、さらには社会も、従来のエネルギー多消費型から省エネを考えたものに変わっていかなければいけない。
海外に比べて日本で弱いのは、個を超えた共同での省エネ化だ。個人や家庭、企業がつながることで、無理なく、より効率的に省エネが進む。
案じるよりも、みんなで一歩を踏み出す決意を持ちたい。
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