軽減税率 円滑導入で増税の備え万全に

朝日新聞 2015年12月16日

軽減税率 「再分配」を考えていく

2017年度から導入される消費税の軽減税率について、詳細が決まった。

発行の回数など一定の条件を満たす新聞が対象に加わった。また、軽減税率が適用される「食料品」と対象外の「外食」の線引きも、具体例に沿った判断基準が示された。

私たち報道機関も、新聞が「日常生活に欠かせない」と位置づけられたことを重く受け止めねばならない。

社説では、軽減税率について、消費税率が10%を超えた時の検討課題にするよう提案してきた。日本の深刻な財政難を踏まえ、高齢化などで膨らみ続ける社会保障の財源の柱として、消費税の税収を有効に活用するべきだとの判断だった。

しかし、10%の段階で新聞も適用対象になった。社会が報道機関に求める使命を強く自覚したい。

軽減税率問題を通じてあらためて浮かび上がったのは、財政の再建と、所得や資産が少ない人への配慮、すなわち「再分配」強化の両方を同時に模索することの重要性だ。消費税をはじめとする税制全体、さらには予算のあり方まで課題が山積している。

10%への増税が控える消費税では、国民が支払った税金の一部が業者の手元にとどまる「益税」の解消が不可欠だ。だが、与党が決めた対策は、益税を増やしかねない危うさをはらむ。

益税対策では、適用される税率や税額を明記したインボイスを導入し、業者が取引時に受け渡しする仕組みがカギとなる。ところがインボイスの導入は増税から4年遅れの21年度とされ、業者の事務負担を減らすためというさまざまな仕組みが温存・拡充される。

移行期間は必要だとしても、こんな手厚い対応が本当にいるのか。税金が行政にも届かないようでは、税制全体への信頼が失われかねない。

国民が広く負担する消費税は税収が安定している一方、所得の少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」がある。その緩和策として軽減税率が導入されるが、高所得者も恩恵を受ける難点がある。税制で再分配を進めるには、所得税や相続税の更なる改革と強化が避けられない。

給付、つまり予算のあり方も再分配を左右する。社会保障や教育分野を中心に、貧しい人や家庭への配分を手厚くしていけるかどうかが問われる。

政府がこうした課題に応えようとしているか。不断に点検していくことが、私たちの責務だと考える。

読売新聞 2015年12月20日

軽減税率 3党合意にも違反していない

2017年4月の消費税率引き上げに合わせた軽減税率導入に対し、民主党が反発している。

政府・与党は、適切に反論するとともに、丁寧な説明に努めねばならない。

民主党の岡田代表は、約1兆円の財源を要することについて「財政再建の旗を降ろすのか。1兆円のバラマキで参院選を乗り切ろうということだ」と決めつけた。

やや性急で、近視眼的な批判だ。医療などの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」の見送りで4000億円の財源は既に確保された。残りについても、たばこ増税案などが浮上している。

将来の社会保障費の増大を考慮すれば、消費税の再増税は不可避だ。これにも備える軽減税率の導入は財政再建に逆行するまい。

民主党は、消費増税の低所得者対策として「給付付き税額控除」の導入を主張している。所得税の課税対象者に減税し、免除者には給付金を支給する制度だ。

しかし、軽減税率に比べて分かりにくく、消費者の痛税感も緩和されないのではないか。

給付付き税額控除は、所得を正確に捕捉できなければ、不正受給の恐れがある。対象の線引きが政治裁量となり、大盤振る舞いになる可能性も指摘される。政権担当時に「子ども手当」などが頓挫した経験を思い起こすべきだ。

枝野幹事長が総合合算制度の見送りについて、消費増税を決めた12年6月の民主、自民、公明の3党合意の「明確な違反だ」と批判しているのも疑問である。

3党合意に基づく社会保障・税一体改革関連法は、総合合算制度や給付付き税額控除を検討するとしているだけで、3党が導入に合意したわけではない。関連法には、軽減税率の検討も盛り込まれている。批判は当たらない。

枝野氏は「3党合意は破棄された」と断じ、10%への引き上げに反対する可能性も示唆した。

民主党と統一会派を組む維新の党も、民主党と歩調を合わせる構えだ。おおさか維新の会、共産党なども反対している。

仮に増税が予定通り実施できなければ、それこそ財政再建が一層遠のいてしまう。民主党はそんな無責任な対応は避けるべきだ。

見過ごせないのは、枝野氏が新聞への軽減税率適用に関して、「新聞よりも水道や電気が必需品だ」と発言していることだ。

民主主義や活字文化を支える重要な公共財である新聞や出版物に対する理解を欠いていると言わざるを得ない。

産経新聞 2015年12月16日

軽減税率 生活守る制度の定着図れ 財源確保に与党は責任もて

消費税の制度が始まって以来の抜本的な改革案がまとまった。

自民、公明両党は、生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入を決め、酒・外食を除くすべての食品を対象とした。消費税率が10%に引き上げられる予定の平成29年4月からスタートする。

軽減税率は、社会保障財源を確保するための消費税増税に伴う国民の痛税感を緩和し、消費の落ち込みを和らげるものだ。

国民生活に直結する食品全般の税率を抑える透明性の高い仕組みとして評価したい。

ただし、1兆円規模の必要な財源は固まっていない。

制度を円滑に運用し、定着させるためにも歳出・歳入全体を見直して、恒久財源を確実に捻出する必要がある。

≪基準明確に混乱回避を≫

軽減税率の導入をめぐっては、生鮮食品に対象を限定したい自民党と、酒・外食を除くすべての食料品に適用すべきだとする公明党との間で、対立が続いてきた。

朝日新聞 2015年12月13日

軽減税率 原点を忘れた政治決着

政策の原点を忘れ、打算と駆け引きに終始した政治決着というほかない。

消費税率を10%に上げる際に導入する軽減税率について、自民、公明両党の協議が、迷走の末に決着した。

生鮮か加工かを問わず食料品全般の税率を8%にすえ置く。税収の目減りは年1兆円に及ぶが、どう穴埋めするか、痛みを伴う具体策は先送りした。

軽減税率論議を主導したのは公明党だった。来夏の参院選で公明党・創価学会の支援を重視する首相官邸が、軽減税率に慎重な自民党税調を押しきる構図で、減税の対象と金額がつぎつぎと積み上がっていった。

深刻な財政難のなか、消費増税に伴う低所得者対策に知恵を絞るという課題を果たしたとはとても言えない。

消費増税を含む「社会保障と税の一体改革」の内容を、改めて思いおこしたい。

国の借金は1千兆円を超え、今年度も財源不足を埋める新規国債を三十数兆円も発行する。高齢化などで社会保障費の増加が止まらないのが主な理由だ。

次世代へのツケを少しでも減らし、今を生きる私たちの社会保障も強化する。その財源の柱として国民全体が担う消費税を増税し、税収はすべて社会保障分野にあてる――。それが一体改革の骨格である。

ただ、消費税には、所得が少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」があり、それをやわらげる対策が欠かせない。

軽減税率は消費者に分かりやすい半面、高所得者まで恩恵を受けるため、税収の目減りが大きい割に効果が乏しい。自公両党はそんな軽減税率の限界を承知していながら、線引きをめぐる攻防に明け暮れた。

生鮮食品だけという自民の当初案に公明が反発し、菓子と飲料を除く加工食品を加えることに。その後、菓子・飲料にも対象は広がり、一時は外食を含む案まで検討された。

税収減の穴埋めに、低所得者に医療や介護の窓口負担で上限を設ける総合合算制度をやめて4千億円を捻出する。低所得者対策の一つを犠牲にするとは驚くが、残る6千億円は手つかずのままだ。

今の世代が直接恩恵を受ける軽減税率の財源を、将来世代への負担の先送りである国債発行に頼ってはならない。

自公両党は「安定的な恒久財源を確保する」とうたった。社会保障を含む給付を削るのか。負担増に踏み切るのか。政権与党としての責任感が残っているかどうかが試される。

読売新聞 2015年12月13日

軽減税率 円滑導入で増税の備え万全に

◆安定財源確保へ検討を深めよ◆

新制度の円滑な導入を図り、増税の備えに万全を期さねばならない。

自民、公明両党が、軽減税率の制度設計で大筋合意した。2017年4月に消費税率を10%へ引き上げる際、同時に導入する。

酒類・外食を除く生鮮食品と加工食品を対象とし、税率は8%に据え置く。軽減規模は年1兆円に上る。軽減税率には、低所得者を中心に痛税感を和らげ、家計を支える効果が期待される。

与党が意見対立を収め、合意にぎ着けたことは評価できる。

◆首相官邸が公明に配慮

消費税の増収分は全額、社会保障費の財源に充てられる。少子高齢化の進行で、予算規模がこれからも増え続けるのは必至だ。

厳しい財政事情を考慮すれば、一層の消費税率の引き上げを視野に入れざるを得ない。軽減税率の導入で、生活必需品を増税から切り離し、将来の再増税に備えられる制度となる意義は大きい。

協議の難航は、対象の線引きを巡る溝が深かったためだ。

当初、生鮮食品に限ると主張していた自民党は、途中から公明党の加工食品を含める案をのんだ。さらに外食も加えるよう求め、混乱が生じた。

外食を含めると、高級飲食店などの利用が多い高所得者への恩恵が手厚くなりすぎるとの異論も出て、外食を除く案で決着した。

最終的に自民党が歩み寄ったのは、来年夏に参院選を控え、公明党との選挙協力を重視する首相官邸の意向が働いたからだ。

加工食品には、パンや麺類など食生活に不可欠な商品が含まれる。日常的に購入する食品を対象とする大筋合意を歓迎したい。

与党は今後、食品以外の対象品目の協議を続ける考えだ。

海外では、軽減税率を採用する大半の国が、食品と並んで新聞や出版物を対象にしている。

新聞と出版物は、民主主義の発展や活字文化の振興に貢献してきた。単なる消費財でなく、豊かな国民生活を維持するのに欠かせない公共財と言える。

こうした社会的役割を踏まえ、日本でも、新聞と出版物に軽減税率を適用すべきである。

与党は、請求書に税額や税率を記入するインボイス(税額票)の採用を、21年度から事業者に義務づける方針も決定した。

◆税額票の採用は当然だ

税率が複数になると、標準税率の売り上げを軽減税率の取引だと偽り、事業者が税金の一部を手元に残す行為が頻発しかねない。

こうした不正を防ぐうえで、インボイスの採用は当然だろう。

与党合意を受けて政府は、軽減税率の導入に向けた準備作業を着実に進める必要がある。

店頭で消費者や事業者が戸惑うことのないよう、対象の線引きや様々な事例への対処法を明示し、周知徹底を図らねばならない。

外食は対象外だが、ファストフード店内での食事と持ち帰りをどう区別するかといった疑問が生じかねない。簡明なガイドラインなどを設けることが大切だ。

レジの改修費補助や新たな会計方式を習得するための研修など、中小・零細店の対応を支援する取り組みも重要になる。

気がかりなのは、軽減税率導入の財源をどのような手段で手当てするか、まだ目処めどが立っていないことだ。

今は、増税時の低所得者対策に回す予定だった4000億円を充てる方針だけが決まっている。

自民党は社会保障費の枠内でのやり繰りを主張してきたが、医療や介護などに過度な影響を及ぼすのは望ましくない。社会保障以外の歳出抑制や他の税収を活用できないか、議論を深めるべきだ。

自民党の谷垣幹事長は「財政健全化目標を堅持する。安定的な恒久財源の確保に責任をもって対応する」と強調した。公明党が提唱する、たばこ増税案などの検討も続けてもらいたい。

◆益税拡大は許されない

消費者が支払った税金が事業者の手元に残る「益税」の取り扱いも、残された課題である。

軽減税率の導入後も、現行の小規模事業者の免税制度や、納税の計算を簡単にする簡易課税制度は存続することが決まった。

現在の益税規模は年6000億円にも上ると試算される。税率引き上げで、さらに規模が膨らむ事態は避けられない。

消費者に増税を強いる以上、益税は縮小するのが筋である。逆に拡大を許してしまうのでは、国民の納得は得られまい。

与党は益税の見直しについて、より真剣に検討すべきだ。

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