東芝課徴金勧告 投資家を欺いたツケは大きい

朝日新聞 2015年12月09日

東芝に課徴金 監査の実態を明らかに

不正会計問題に揺れる東芝に対し、過去最高額となる73億円余の課徴金納付を命じるよう、証券取引等監視委員会が金融庁に勧告した。東芝は、命令が出れば納める方針だ。

巨額の不正を第三者委員会が報告してから5カ月近く。総額は7年間で2200億円を超える。過去の決算の訂正と経営陣の刷新、別の第三者委員会による元経営幹部の責任調査とそれに続く損害賠償請求など、事態はめまぐるしく動いてきた。

東芝は、半導体事業の一部やパソコン分野など不採算部門の対策に注力しつつあり、経営の正常化を急いでいる。

ただ、会社を根本から立て直すには過去のウミを出し切ることが欠かせない。ほぼ手つかずのまま残されているのが、監査法人による会計監査がきちんと行われていたのか、という問題である。

企業がまとめた決算を、国家試験に合格したプロである公認会計士やその集団である監査法人が外部からチェックする。財務書類にお墨付きを与え、投資家の判断材料にしてもらう。それが会計監査の骨格だ。

監査法人によるチェックが不十分では、経済の基本的な仕組みそのものが揺らぎかねない。

だが、東芝の経営再建への起点となった第三者委の報告書は、監査を担ってきた新日本監査法人と東芝の関係に踏み込んでいない。第三者委は、有価証券報告書の訂正を急ぐ東芝から委嘱され、2カ月という期間の中で限られたテーマと分野を検証したにすぎないからだ。

ここは、自主規制機関である日本公認会計士協会や、金融庁とその傘下の公認会計士・監査審査会の出番である。

東芝が新日本に虚偽の情報を示していたことが不正の本質なのか。新日本の仕事ぶりに問題はなかったか。調査はすでに進んでいるようだが、会計監査のあり方や金融行政への信認が問われていることを自覚し、徹底的に調べるべきだ。

企業の会計不祥事をめぐり、監査法人の責任が問われた例は決して珍しくない。カネボウやオリンパスの粉飾決算事件では、監査法人に業務の停止や改善が命ぜられた。そのたびに対策が講じられてきたが、不祥事は後を絶たない。

チェックする企業から監査法人が報酬を受け取るという構図や、同じ監査法人が長年にわたり業務を続けがちな傾向など、構造的な問題も指摘される。どこをどう改めれば監査を強化できるのか、改めて考える機会として東芝問題を位置づけたい。

読売新聞 2015年12月09日

東芝課徴金勧告 投資家を欺いたツケは大きい

日本を代表する企業としてあるまじき不祥事を起こした経営陣の責任は重大である。

東芝の不適切会計問題で、証券取引等監視委員会が、73億円超の課徴金を科すよう金融庁に勧告した。

会計不祥事に対する課徴金としては、IHIの16億円を大きく上回る過去最高額だ。虚偽の決算を基に3200億円もの社債を発行して資金調達するなど、長年にわたって投資家を欺いてきたことを問題視した。

原因について、監視委は「歴代社長が利益至上主義の下で、予算の達成や実績の上積みを強く求めた」と指摘した。監視委が不祥事の背景にまで言及するのは異例のことだ。今後、歴代社長の刑事告発も検討するという。

室町正志社長は記者会見で、「二度とこのような問題を起こさないようにする」と述べ、再生への決意を示した。だが、前途は多難だと言わざるを得ない。

前社長らが7月に引責辞任した東芝は、先月になって、子会社の米原子力発電大手、ウェスチングハウスが1000億円超の損失を計上していたと発表した。当初は開示に消極的だったが、東京証券取引所に促された結果だ。

都合の悪い情報は表に出さないという悪弊は一掃しなければならない。形骸化した社外取締役や監査委員会など、企業統治の仕組みが適正に機能するように改革する必要がある。

不適切会計が発覚した結果、東芝の株価が下落して損害を受けたとして、株主代表訴訟が相次いで提起される見通しだ。

業績の見通しも不透明だ。中間決算で営業赤字に転落した業績の回復が急務である。白物家電やパソコン事業などのリストラ策が立て直しのカギとなろう。

今回の問題では、有価証券報告書などへの虚偽記載を見抜けなかった監査法人の責任も重い。

監査法人は、企業から指名を受けて会計監査を行い、報酬を受け取る。このため、顧客である企業の損失が膨らむような対応を求めにくいとの指摘がある。

オリンパスやライブドアなど、過去の粉飾決算でも、監査法人が企業の不正会計を見過ごしたことが問題となった。

同様の事例が繰り返されたことで、監査法人に対する不信感が一段と高まったことは否めまい。

監査法人を監督する金融庁は、会計監査の実効性を上げるための方策の検討を急ぎ、再発防止に努めてもらいたい。

産経新聞 2015年12月09日

東芝に課徴金 信頼の回復はこれからだ

東芝の利益水増し問題で、証券取引等監視委員会が過去最高となる約74億円の課徴金を科すよう金融庁に勧告した。

同社は目先の利益確保を優先して損失の先送りを繰り返し、利益の水増しは7年で総額2200億円余りに達していたことが分かっている。

不正な会計操作に基づいた虚偽の情報開示について、監視委が厳しい処分を求めたのは当然である。室町正志社長も受け入れる考えを表明した。

だが処分は、深刻な事態の収拾を意味しない。

市場を裏切った東芝の信頼回復に向けた取り組みは、これから始まる。実効性のある企業統治を確立するため、何よりも不正を許した企業体質の抜本的な改革を急がなくてはならない。

監視委は同社の不正会計について、「歴代の社長が利益至上主義のもとで予算の達成を強く要求したのが原因だ」と断じた。経営陣から実現できない高い目標を提示された部下たちは、会計処理を偽って利益をかさ上げした。

この問題で引責辞任した歴代3社長らに対して会社側は損害賠償請求に踏み切り、課徴金を受けて請求額の拡大も検討する。

企業経営の経験が豊富な社外取締役を招くなど、経営の透明性を高めるという。

これだけでは、不信感は拭えない。子会社の米原子力事業会社の損失についても開示せず、東京証券取引所の指摘を受けてようやく公表した。新経営陣が発足した直後なのに、情報開示に対する意識が徹底も改善もされていなかったことになる。

こうした甘い認識では、失墜した市場の信頼を取り戻すことはできない。不正会計問題による株価下落で損害を受けたとする株主の集団提訴も起きている。過去とは決別する姿勢を内外に明確に示す方策が問われている。

行政処分を勧告した監視委は今後、歴代経営陣の刑事告発が可能かどうかの本格検討に入る。日本を代表する大手企業が本当の意味で出直すためにも、徹底した調査は欠かせない。

東芝の監査を担当する新日本監査法人は、長年にわたる不正を見抜けなかった。同法人は、オリンパスの損失隠し事件でも、平成24年に業務改善命令を受けたばかりである。監査の信用を失墜させた責任は極めて重い。

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