沖縄米軍施設 目に見える負担減に努めたい

朝日新聞 2015年12月08日

沖縄基地返還 危険性は取り除けない

沖縄の米軍基地の返還が進むことは歓迎したい。だからといって、県民の意思に反して、普天間飛行場の辺野古移設を強行する理由にはならない。

菅官房長官とケネディ駐日米大使が先週、米軍普天間飛行場の一部などを2017年度中に返還することで合意した。

合意したのは、普天間飛行場東側沿いの土地4ヘクタールと、米軍牧港補給地区の国道58号に隣接する土地約3ヘクタールなどだ。

この土地はともに20年ほど前に返還が合意されていた。返還されれば、宜野湾市の市道の整備や国道の拡幅に使われ、市民の利便性は高まるだろう。

だとしても、今回の基地返還は普天間飛行場の危険性の除去につながらない。国土交通相が翁長雄志知事を訴えた代執行訴訟など、安倍政権の沖縄に対する強圧的な姿勢を正当化することはできない。

今回返還される飛行場東側の4ヘクタールは飛行場全体の0・8%。牧港補給地区の3ヘクタールを合わせても、県内の米軍専用施設の0・03%と、ささやかな規模だ。

普天間が辺野古に移り、嘉手納基地より南の米軍基地がすべて返還されるという前知事時代の2年前の日米合意がすべて実現したとしても、沖縄の米軍専用施設の割合は全国の73・8%から73・1%へと、わずか0・7ポイント減るだけである。

なのになぜ、普天間飛行場の代替施設は、同じ沖縄県内でたらい回しすることが前提になっているのか。沖縄県が辺野古移設に同意しない根本的な理由はそこにある。

沖縄では来年1月、普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長選がある。6月以降は県議選や参院選も控えている。

市長選は、辺野古移設容認の現職と反対派の新顔がぶつかる公算が大きい。政府としては、長年進まなかった基地返還を実現することで、現職を側面支援する狙いもあるのだろう。

その意図はともかく、政府がさらに基地の早期返還に努めるのは当然のことである。

同時に、政府にはもっと大きな視野をもってもらいたい。

民意に背いて移設を強行すれば、円滑な工事も、移設後の基地の安定的な運営も望めないだろう。長期的にみれば日本の安保環境を損ねる恐れがある。

普天間の危険性を取り除くには結局、「普天間か辺野古か」の二者択一を脱し、日米両政府も、沖縄県民も納得できる「第三の道」を探るしかない。

辺野古に固執する姿勢は問題解決を遠ざける。日米両政府はそのことに早く気づくべきだ。

読売新聞 2015年12月06日

沖縄米軍施設 目に見える負担減に努めたい

沖縄の米軍駐留への理解を深めるには、基地負担軽減を目に見える形で進めることが大切だ。

菅官房長官がキャロライン・ケネディ駐日米大使と会談し、沖縄県南部の米軍施設の返還計画について、一部を前倒し実施することで合意した。

菅氏は「沖縄の人々の生活に資する大きな意義を有する。米国との様々な話し合いが実を結んだ」と強調した。ケネディ氏は「米軍は『良き隣人』になろうと懸命に努力している」と応じた。

米軍普天間飛行場東側の土地約4ヘクタールは、計画より5年間前倒しし、2017年度中の返還を目指す。宜野湾市の市道が整備される。

牧港補給地区の国道に隣接する土地約3ヘクタールは、7~8年間の前倒しで17年度中に返還される。国道の拡幅用地に充てる予定だ。

いずれも、地元の要望を踏まえたものだ。返還される土地はごく一部だが、交通渋滞の緩和や住民の利便性向上が期待される。

県北部にある県内最大の米軍北部訓練場のうち約4000ヘクタールを返還する計画について、「緊急性」を確認したことも重要だ。

ヘリコプター着陸帯の移設が返還の条件なのに、反対派の妨害で工事が停滞している。政府は、関係者の理解と協力を得て、着実に移設を進める必要がある。

今回の合意は、「負担軽減でやれることは全てやる」という菅氏の意向を受けて、外務、防衛両省が米側と交渉した成果だ。

沖縄では来年、1月の宜野湾市長選を手始めに、6月以降は県議選や参院選が控えており、「選挙対策」との見方もある。

だが、人口密集地の県南部で施設返還を前倒しすることの波及効果は大きい。より多くの県民が負担軽減を実感できるよう、日米両政府は、地元の意見にも耳を傾け、先行返還に努力すべきだ。

13年4月に決定したばかりの返還計画全体の見直しは簡単でないが、今後も、前倒し対象を絞り込むことで実現を図りたい。

忘れてならないのは、普天間飛行場の辺野古移設が、返還計画の中核であることだ。

宜野湾市長や市議会議長、商工会長らが、「返還合意の原点に立ち返るべきだ」として、早期返還を求める共同声明を発表した。翁長雄志知事が普天間飛行場の危険性除去を「原点」とみなさないことなどに不満があるのだろう。

辺野古の陸上部では工事が本格化している。移設を巡る政府と県の法廷闘争と並行して、移設作業を着実に進めねばならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2360/