イラン核開発 警告無視なら制裁強化を

毎日新聞 2010年02月24日

イランの核 疑惑を晴らす努力こそ

昨年12月に天野之弥事務局長が就任したばかりの国際原子力機関(IAEA)が、イランの核開発について衝撃的な報告書を公表した。「ミサイル搭載用の核弾頭」開発に関連して、未申告の活動が存在する懸念がある--。つまり、秘密裏に核弾頭を作ろうとしているか、作ろうとした可能性があるというのだ。

エジプト出身のエルバラダイ前事務局長時代のIAEAも、イランの不透明な核関連活動に懸念を表明していたが、核兵器開発疑惑の「信ぴょう性が証明されていない」と慎重な立場だった。これに比べて天野体制のIAEAは、かなり踏み込んだ見解を示したことになる。

核弾頭開発が事実なら由々しき問題である。だが、まず頭に浮かぶのは、同じIAEAなのに、なぜ認識がこうも違うのかという疑問だ。エルバラダイ氏はイラク戦争前、イラクの核兵器開発の可能性に否定的だったため米国に煙たがられた。今度はイランが核兵器にまつわる疑惑を否定し、天野氏について「米国の圧力」下にあると批判している。

国際機関の中立性を考えさせる出来事だ。米情報機関の報告書は07年、イランが03年に核兵器開発を中断し、その後再開していないと結論付けて話題を呼んだ。今回のIAEA報告は米国の報告書と矛盾するのか関連するのか、即断は難しい。IAEAは自身の公正中立を実証するためにも、ぜひ、疑惑に関する客観的な判断材料を示してほしい。

無論、最大の問題はイランの言動である。再三の国連安保理決議にもかかわらず、国際社会の懸念を解消しようとしない。昨年以降、イスラエルや欧州を射程に収めるミサイルの発射実験を行い、「初の国産人工衛星」も打ち上げた。アフマディネジャド大統領は、核燃料となるウランの濃縮率を3・5%から20%に引き上げるよう指示した。

いずれも目に余る行動である。イランは北朝鮮と同様、国際社会が強い手段を取れないと踏んで、かさにかかっているように見える。昨年の大統領選をめぐる市民の不満も尾を引き、内外でイラン指導部の信用は著しく低下している。

これでは米英などが新たな安保理決議を検討するのもやむを得まい。昨秋、安保理常任理事国など6カ国は、イランの低濃縮ウランを国外で濃縮し、研究用原子炉の核燃料として戻す国外加工方式で、イランと合意したかに見えた。しかし、その後イランが種々の条件をつけたため協議は暗礁に乗り上げてしまった。

本当に疑惑に根拠がなければ、イランはもっと協力的であってもいい。挑発的な言動を続ければ疑念は深まるばかりである。

産経新聞 2010年02月21日

イラン核開発 警告無視なら制裁強化を

国際原子力機関(IAEA)の天野之弥(ゆきや)事務局長が、昨年12月の就任後初めてイラン核問題の報告書を公表し、イランが繰り返し否定している核兵器開発の可能性に正面から言及した。

「ミサイル搭載用の核弾頭開発につながる活動を秘密裏に行っている可能性がある」

IAEAによるこうした強い警告は異例だ。イランはこの際、自らに向けられた疑惑について、国際社会が納得できる説明はもちろん、それを裏付ける行動を取ってもらいたい。

イランのアフマディネジャド大統領は先に「濃縮度20%のウランの製造に成功した。80%以上に濃縮する能力もある」と表明した。従来の3・5%から20%超まで濃縮技術を飛躍させれば、核爆弾(濃縮度90%超)の製造に大きく近づくとの見方もある。

挑発的な姿勢が非難されるのは当然だ。米国は単独で、イラン革命防衛隊の資金源とされる関連企業4社などを金融制裁の対象に追加指定する措置をとった。米英仏独の4カ国は国連安全保障理事会での新たな制裁決議案作りを急いでいる。

イランはIAEAに加盟し、核拡散防止条約(NPT)に調印しているから、核の平和利用の権利をもつ。しかし、2006年以降で3度も国連安保理の制裁を受けたのは、イラン自身に疑わしい行動があったからだ。

5常任理事国とドイツは昨年10月、イランが保有する低濃縮ウランを国外に搬送し、軍事転用が難しい研究炉用の核燃料に加工して戻す計画でいったんはイランと合意した。しかし、イランは時間を稼いで拒否に転じ、今回の「20%濃縮」に至った。

イランは昨年12月にはイスラエルや湾岸諸国を射程に収める中距離弾道ミサイルの試射を実施し、今月3日には弾道ミサイルへの転用が可能な衛星用ロケットの打ち上げに成功した。これに対し、米国が地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を湾岸諸国に実戦配備したという。

軍事シナリオは最後の選択肢である。平和利用を証明してこそ国際支援も得られるとイランが自覚するまで、当面は制裁圧力を強めるしかない。安保理の協議では中国の制裁反対も予想される。日本はイランを説得する外交力を発揮してほしい。でないと安保理非常任理事国の資格を問われよう。

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