国際通貨の名にふさわしい自由な取引が可能となるよう、中国政府は金融制度改革を着実に進めねばならない。
国際通貨基金(IMF)が、中国通貨・人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えることを決定した。来年10月から実施する。
SDRは、IMFが出資比率に応じて加盟国に配分する「仮想通貨」だ。米ドル、ユーロ、円、英ポンドで構成され、通貨危機に陥った国は、SDRと引き換えに必要な外貨を融通してもらえる。
中国は世界最大の貿易国だ。IMFは、人民元が広く使われている点を評価したのだろう。
人民元は国際通貨としてのお墨付きを得ることになる。市場からの信用が高まることで、決済や外貨準備での利用が促され、中国企業にとっては、為替変動のリスクを軽減できるメリットがある。
中国人民銀行(中央銀行)は「中国の経済発展と改革・開放の成果が認められた。中国と世界の双方にとって利益になる」との声明を発表した。
だが、人民元のSDRへの採用には、疑問が拭えない。人民元の為替相場は、人民銀行が介入することで、一定の変動幅に収まるように管理されており、金融市場の需給だけでは決まらない。
中国の国内市場では、外国人投資家による人民元の取引も、依然として制限されている。
人民元を取り巻く現状は、IMFがSDRの条件として掲げる「自由な国際取引」には、ほど遠いのではないか。
今年8月に起きた世界同時株安は、人民元の突然の切り下げが一因だった。人民元の利用がさらに広がれば、こうした危険性がより高まりかねない。
IMFのラガルド専務理事は、今回の決定について、「中国経済を国際金融システムに組み込む重要な節目になる」と強調した。
人民元を国際通貨として認めることと引き換えに、中国政府に為替や資本取引の制度改革を迫る狙いがうかがえる。
中国の独善的な政策運営が、国際金融市場を混乱させてきたことを忘れてはなるまい。
各国が人民元を安心して使えるよう、中国政府には、経済政策の透明性向上が求められる。
人民元の国際化が進むと、円の存在感が相対的に低下する恐れがある。円の魅力を高めるためには、日本経済の再生を急がねばならない。成長戦略をしっかりと進め、対日投資の拡大を図るべきだ。
この記事へのコメントはありません。