企業の利益にかかる法人実効税率が予定を早めて引き下げられ、来年度に30%を切る見通しとなった。財務省などの関係省庁と経団連は、今は32%強の実効税率を段階的に下げ、17年度に20%台とすることで一致していた。それを法人税改革に熱心な首相官邸が前倒しした。第2次安倍政権の発足以来、計7%幅の引き下げになる。
改革の目的は、賃上げや設備投資の回復につなげて経済を元気にすることだ。しかし、賃金、投資とも改善の傾向にはあるものの力強さを欠き、企業は手元資金を積み上げている。
これまでの取り組みを加速すれば効果が期待できるのか。企業のおカネを動かすために、もっと的を絞った対策はないのか。詰めるべき論点を素通りしたと言わざるをえない。
今回の検討の過程を振り返ると、疑問はいっそう膨らむ。
最終的には個々の企業が決める賃上げや投資増について、政権は「官民対話」の場で要求を繰り返し、経済界は「それには法人減税などが不可欠」と切り返してきた。
結局、賃上げについて「収益拡大企業への、今年を上回る引き上げへの期待」を、設備投資では「今年度と比べて10兆円増の81兆円強に増えるとの見通し」を経団連が表明し、政権が「重く受け止める」と応じて、税率下げの前倒しが固まった。
官民対話では、たとえば租税特別措置(租特)の功罪について議論を深めてもよかった。
租特には、既得権の温床になりかねないマイナス面の一方、即効性がある。今も設備・研究開発投資の促進や雇用増、賃上げを狙った特別措置が実施されているが、改善と工夫の余地はないだろうか。
実効税率の引き下げにしても、「日本は国際的に高く、だから海外の企業が日本に来ない」とされるが、対日投資が伸びないのは税制が主因なのか。
政府・与党は、法人実効税率を下げる一方で地方税の法人事業税を見直し、税収減を防ぐ考えだ。資本金1億円超の大企業を対象に、利益ではなく人件費や利払い額を基準に課税している「外形標準課税」を広げ、赤字企業への課税を強める。
外形標準課税などで課税ベースを広げつつ税率を下げる方向性は、最近の国際的な傾向に沿う。ただ、赤字が多い中小企業が対象外のままでよいのか。
国民は消費増税に向き合っている。法人税改革の成果が見通せないと、税制全体への疑問や不満が高まりかねない。政権は自覚してほしい。
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