法人減税前倒し 成長を促す投資に充てよ

朝日新聞 2015年12月03日

法人減税加速 効果が見通せない

企業の利益にかかる法人実効税率が予定を早めて引き下げられ、来年度に30%を切る見通しとなった。財務省などの関係省庁と経団連は、今は32%強の実効税率を段階的に下げ、17年度に20%台とすることで一致していた。それを法人税改革に熱心な首相官邸が前倒しした。第2次安倍政権の発足以来、計7%幅の引き下げになる。

改革の目的は、賃上げや設備投資の回復につなげて経済を元気にすることだ。しかし、賃金、投資とも改善の傾向にはあるものの力強さを欠き、企業は手元資金を積み上げている。

これまでの取り組みを加速すれば効果が期待できるのか。企業のおカネを動かすために、もっと的を絞った対策はないのか。詰めるべき論点を素通りしたと言わざるをえない。

今回の検討の過程を振り返ると、疑問はいっそう膨らむ。

最終的には個々の企業が決める賃上げや投資増について、政権は「官民対話」の場で要求を繰り返し、経済界は「それには法人減税などが不可欠」と切り返してきた。

結局、賃上げについて「収益拡大企業への、今年を上回る引き上げへの期待」を、設備投資では「今年度と比べて10兆円増の81兆円強に増えるとの見通し」を経団連が表明し、政権が「重く受け止める」と応じて、税率下げの前倒しが固まった。

官民対話では、たとえば租税特別措置(租特)の功罪について議論を深めてもよかった。

租特には、既得権の温床になりかねないマイナス面の一方、即効性がある。今も設備・研究開発投資の促進や雇用増、賃上げを狙った特別措置が実施されているが、改善と工夫の余地はないだろうか。

実効税率の引き下げにしても、「日本は国際的に高く、だから海外の企業が日本に来ない」とされるが、対日投資が伸びないのは税制が主因なのか。

政府・与党は、法人実効税率を下げる一方で地方税の法人事業税を見直し、税収減を防ぐ考えだ。資本金1億円超の大企業を対象に、利益ではなく人件費や利払い額を基準に課税している「外形標準課税」を広げ、赤字企業への課税を強める。

外形標準課税などで課税ベースを広げつつ税率を下げる方向性は、最近の国際的な傾向に沿う。ただ、赤字が多い中小企業が対象外のままでよいのか。

国民は消費増税に向き合っている。法人税改革の成果が見通せないと、税制全体への疑問や不満が高まりかねない。政権は自覚してほしい。

産経新聞 2015年12月02日

法人減税前倒し 成長を促す投資に充てよ

安倍晋三政権が来年度の税制改正で、法人税減税の内容を固めた。法人税の実効税率を予定より1年早く20%台に引き下げ、赤字企業にも適用する外形標準課税の対象拡大などで減税財源を捻出するという。

日本経済の成長を促すには、企業が着実に賃上げや設備投資に取り組む必要がある。そうした経営環境を整え、国際競争力を強化するためにも法人税の実効税率をいち早く引き下げるのは妥当だ。

問題は税負担が軽減された企業の資金の使い方だ。恩恵を受ける企業は、将来を見据えた自主的な判断で、新規投資や賃上げなど「攻めの経営」に資金を振り向けてほしい。

減税分がそのまま現預金などの内部留保に回るようでは、経済活性化にはつながらない。

国と地方を合わせた法人税の実効税率は、現行の32・11%を再来年度までに29%台とする方針だった。安倍首相はこれを1年早めて下げるように指示した。これを受けた与党協議でも前倒し減税の実施が決まった。

政府が産業界に賃上げや設備投資を求めた官民対話では、経団連が法人税減税の拡大を求めた。今回の実効税率引き下げは、政府・与党が要請に前向きに応えたものだ。今後は税負担が軽減される企業側の取り組みが問われよう。

与党の一部には、企業の内部留保に課税を求める意見がある。背景には業績好調な企業も投資などを手控え、内部留保を積み上げている消極姿勢へのいらだちがある。麻生太郎財務相も「減税しても内部留保が増えるだけなら意味がない」と繰り返している。

法人税を支払った後の内部留保に対する課税は、二重課税との指摘がある。ただ、減税される企業はそうした批判があることも踏まえ、経済の好循環実現に向け、手元資金の有効活用を独自に判断してほしい。

減税に必要な約4千億円は、外形標準課税などで確保するが、適用対象を資本金1億円超の大手企業に限定するのは当然だ。中小・零細企業の7割は赤字だ。そうした企業の税負担を重くすれば、賃上げにも影響しかねない。

最近では大手企業が意図的に資本金を減らし、中小企業として外形標準課税の適用などを免れる事例もみられる。資本金による法人区分の見直しも検討すべきだ。

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