辺野古移設訴訟 「公益」を考慮した司法判断を

朝日新聞 2015年12月05日

辺野古とカネ 移設の陰の不透明さ

沖縄・米軍普天間飛行場の辺野古移設工事を受注した建設業者が、昨年の衆院選の前、当選した6人に計90万円を寄付していたことが分かった。

国と契約を結ぶ業者からの国政選挙に関する寄付は、公職選挙法で禁じられた違法行為だ。

受注業者は、首長選でも候補者側への寄付を重ねていた。

辺野古移設という巨大な公共事業をめぐり、選挙支援と引き換えに政治家の利権に期待する建設業者――。そんな癒着が疑われても仕方がない構図だ。

政治家も、業者もきちんと襟を正すのは当然のことだ。

辺野古移設に関して、不透明なカネのやりとりが明るみに出たのはこれだけではない。

移設工事を環境面から監視する専門家委員会の委員3人が、委員就任決定後に受注業者から計1100万円の寄付金を受け、他の1委員も受注業者の関連法人から報酬を受けていたことも先に明らかになっている。

委員会は国が設置。移設事業を科学的に審議し、工事の変更などを国に指導する。その任をゆだねられた専門家が、事業を請け負う業者からカネを受けとっていた構図だ。

政府は「委員会は公平中立な立場で議論が行われている」としているが、カネを出す業者側に何らかの期待がないとは思えない。利害関係者から金品を受けとらないことは、委員の最低限の倫理ではないのか。

政府自身が不透明な公金を支出する例もある。

政府は先月末、名護市の移設先周辺の「久辺(くべ)3区」(久志、辺野古、豊原)に今年度は1区につき最大1300万円の補助金を出すことを決めた。

区といっても東京23区のような自治体ではなく、町内会のようなものだ。移設に反対する県や市の頭越しに、3区だけに公金を出す異例の施策である。

辺野古移設を急ぐあまり、行政としての公正さ、公平さを見失ってはいないか。

沖縄に限らず、公共事業をめぐる不透明なカネが地域に分断を生んできた例はこれまでも数多い。疲弊する地域の建設業者にとって、公共事業が「命綱」である側面もあるだろう。

だとしても、政治家や行政が不透明・不自然なカネのやりとりにかかわることは、住民の不信を広げ、ともに考える土俵を損ね、住民の間に分断を持ち込むだけだ。厳に慎むべきである。

手続きが公正・公平であることは、基地移設への賛否を超えて、この問題を議論する最低限の前提でなければならない。

読売新聞 2015年12月03日

辺野古移設訴訟 「公益」を考慮した司法判断を

米軍普天間飛行場の辺野古移設について、公正で現実的な司法判断が出ることを期待したい。

政府が、沖縄県による埋め立て承認取り消し処分の撤回を求めた「代執行訴訟」の第1回口頭弁論が、福岡高裁那覇支部で開かれた。

法務省の定塚誠訟務局長は「埋め立て承認による不利益は、取り消しによる膨大な不利益を上回るとは到底考えられない」と述べ、県の処分の違法性を指摘した。

取り消しによる不利益として、日米関係の悪化や、普天間飛行場の危険性除去の白紙化、跡地利用計画の頓挫などを挙げた。

この主張は、1968年の最高裁判決が示した行政機関の処分取り消し基準に基づいている。

「取り消す不利益と取り消さない不利益を比較考量」したうえ、「公共の福祉に照らして著しく不当」な場合に限って取り消しができる。これが基準である。

辺野古移設に伴う不利益は、自然環境への影響や騒音被害などが想定される。だが、普天間飛行場の現状が大幅に改善される利益と比べれば、極めて限定的だ。政府の主張には十分根拠があろう。

公共事業の環境保全に関して、2012年に東京高裁は「常に最高水準を講じるべきだとする絶対的基準があるわけではない」との判断を示している。政府は、この判決に基づいて、適正な環境対策を実施したとの立場である。

沖縄県側は、政府の提訴を「代執行手続きの申し立て権の乱用で違法だ」とし、却下を求めた。

翁長雄志知事は、「県民は自由・平等・人権・自己決定権をないがしろにされてきた」と訴えた。「沖縄県に米軍専用施設を集中させ、今また22世紀まで利用可能な基地建設が強行されようとしている」などと政府を批判した。

だが、96年の最高裁判決は、米軍用地の使用に関して、政府の幅広い「政策的、技術的な裁量」を認めている。翁長氏が県民の「人権」を強調するなら、普天間飛行場の早期返還を求める宜野湾市民にも配慮すべきではないか。

疑問なのは、県側が米軍基地建設について、根拠となる国内法がないことを理由に「憲法違反だ」などと主張したことだ。

日本の安全保障にとって極めて重要な日米同盟を否定している、とも受け取れる内容である。

そもそも翁長氏が、仲井真弘多前知事が厳密な審査を経て行った埋め立て承認について、「法的瑕疵かしがある」として取り消したことに無理があると言えよう。

産経新聞 2015年12月04日

辺野古訴訟 「政治闘争」の場ではない

米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が埋め立て承認を取り消した処分は違法として、国が撤回を求めた代執行訴訟の口頭弁論が始まった。

争点は、前知事による承認を、翁長氏が取り消した処分の適法性だ。安全保障政策をめぐる政治闘争の場ではないことを明確にしておきたい。

承認取り消し理由として、翁長知事は「移設の根拠が乏しい」と、安全保障上の判断に踏み込んだ。国がこれに対し、知事には基地の移設といった国の存亡にかかわることを判断できない、と主張したのは当然である。

翁長氏は意見陳述で、「日本に地方自治や民主主義は存在するのか」と語った。だが、外交・安全保障を担うのは、国民の選挙で構成される国会が指名した首相をトップとする内閣である。

地方自治体の長である知事に、それを覆す権限はそもそもない。辺野古移設を、地方自治や民主主義を損なう問題として論じること自体、おかしなことだ。

それを許せば、沖縄を含む日本の安全保障と民主主義の土台が揺らいでしまう。

さらに見過ごせないのは、「県民は自由、平等、人権、自己決定権をないがしろにされてきた」と、知事が再び自己決定権という言葉を持ち出したことだ。

国は、昭和47年の沖縄の本土復帰以来、安全保障の確保と基地負担の軽減、県民生活の向上を図ってきた。

それが十分であるかどうかの評価が分かれる余地はあるとしても、「自由、平等、人権」と結びつけるのは、政治的対立感情を煽(あお)ろうとするものでしかない。

憲法は「自己決定権」のような権限を沖縄に与えていない。他の都道府県と平等の位置づけだ。

政府は、日米合意に基づく辺野古移設を進めることが、沖縄を含む日本の公益と考えている。

それができなければ、日米関係は悪化し、住宅密集地に隣接する普天間の危険性除去も実現できないからだ。

辺野古移設は日米同盟の抑止力を高める。中国が狙う尖閣諸島や南シナ海の問題、北朝鮮の脅威も存在するなかで、移設の成否は県民や国民の安全にかかわる重大問題である。

現実の課題がある中で、公正な司法判断を期待したい。

朝日新聞 2015年12月03日

政府と沖縄県 地方自治は存在するか

「日本には、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか」――。沖縄県の翁長雄志知事が、福岡高裁那覇支部の法廷から問いかけた言葉を、重く受け止めたい。

米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、国土交通相が知事に埋め立て承認取り消しの撤回を求めた、代執行訴訟の初回口頭弁論での意見陳述だ。

国と地方に意見の対立があれば、話し合いで打開するのが本来の姿だ。それを法廷に持ち込んで押し切ろうとする政府の姿勢は、対話による解決を放棄した政治の貧困を物語る。

裁判の主な争点は、前知事による埋め立て承認や、翁長知事の承認取り消しが適法だったか、といった行政手続きの可否になるだろう。

だが、この裁判が、真の意味で問うものはそれにとどまらない。憲法がうたう地方自治の内実が問われている。

自らの地域のことは、自らの判断で考える。地域の自己決定権をできる限り尊重する。それが政府の地方分権推進委員会の議論で打ち出された地方自治の原則である。

その理念に沿って、1999年、地方自治法は大幅改正された。国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと大きく転換したのである。

国と地方が対等となった今、国が県の権限を制限する代執行は極めて限定的であるべきだろう。その意味でも、十分な対話がないままの政府の提訴は地方自治のあるべき姿とは程遠い。

政府は、辺野古移設が実現できなければ米国との信頼関係が崩壊しかねないという。ならばなぜ、米国に理解を求めようとしないのか。外交・防衛は国の役割だとしても、県の意思が無視されていいはずがない。

県は、米軍基地は自治権を直接侵害していると主張する。米軍兵士らによる犯罪や事故、米軍機による騒音被害を引き起こし、日米地位協定による米軍の特権が行政権を妨げる……。

だからこそ県は、国土面積の0・6%の沖縄に米軍専用施設の73・8%も集中させていながら、「さらに新たな基地を造ることは自治権の侵害で違憲だ」と主張しているのだろう。

この訴訟は、ひとり沖縄だけの問題ではない。考えの対立する自治体を政府が高圧的に扱えるとすれば、全国の自治体にとっても切実な問題ではないか。

辺野古移設が問うているのは日本の地方自治、民主主義そのものである。単なる行政手続きの可否を超えた、踏み込んだ判断を司法に求めたい。

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