補正予算編成 「緊急性」の説明が足りぬ

朝日新聞 2015年12月01日

予算の見直し 主導するのは政治だ

国の来年度予算案の編成作業が追い込みに入った。とかく新たな施策に注目が集まるが、既存の予算をどう改めるか、とりわけ「むだ」とされた事業を見直せるかは重要な課題だ。

会計検査院は先月、年に1回の決算検査報告をまとめた。予算の支出や税の徴収などで「問題あり」としたのは570件、総額で1600億円に迫る。しかし、その中身は、法律や制度に沿って予算が適切に執行されているかどうかが中心で、政策自体の有効性の判断には及び腰だ。

省庁に予算の点検を迫る政府の「行政事業レビュー」では、有識者をまじえた公開検証が行われ、原子力関連など55事業について問題点が指摘された。これも個々の政策の存廃には踏み込まない。民主党政権の「事業仕分け」が短時間の議論で次々と廃止や予算削減を打ち出したことへの批判を踏まえたルールだという。

ともに物足りなさが募り、制度や仕組みの改善が不可欠だが、ここは「政治」の出番ではないか。

最終的に予算・決算案や個々の制度を支える法案を審議、議決する国会の責任は大きいが、まずは各省庁で官僚を指揮する閣僚や副大臣、政務官に奮起を求めたい。

3日間行われた行政事業の公開検証では、「行政のむだ撲滅」に熱心なことで知られる河野太郎・行革担当相が連日出席し、国民の関心を高めるのにひと役かった。河野氏が原発政策への批判的な立場を含めて本来の厳しい姿勢を抑えがちだったのは残念だが、政治家が先頭に立つことの意義と効果が小さくないことを示した。

むだや非効率を指摘されても多少改善してお茶を濁し、同じような予算を要求して、財務省もそれを認める。そんな状況に目を光らせ、歯止めをかける役割は政治にしか果たせない。

再生可能エネルギーを促進する補助金が今年度、経済産業、農林水産、環境、総務の4省に散らばりながら31もあり、総額は1027億円に達する――。この秋、そんな縦割りの実態が明らかになったが、調査を命じ、役所間の連携を促したのは高市早苗総務相だという。

政治家の権限は強い。やる気次第で官僚を動かせるし、閣僚でなくてもすべての議員に国政調査権がある。予算への疑問をどんどん示し、費用対効果の観点から政策効果を高めていけるかどうか。

政治家一人ひとりが問われていることを肝に銘じてほしい。

産経新聞 2015年11月30日

補正予算編成 「緊急性」の説明が足りぬ

安倍晋三首相が平成27年度補正予算案の編成を指示した。1億総活躍社会の実現に向けた政策や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対策が柱となる。

政権の最重要課題と位置付けたいのだろう。だが、本来は来年度予算で腰を据えて取り組むべきだ。補正で手当てする緊急性がどこまであるのか。

むしろ、来夏の参院選対策として、思い通りに上向かない景気にてこ入れする姿勢を示し、TPPに不満を抱く農業票をつなぎ留める意図がみえる。

ばらまき批判をかわすため、総活躍などの看板を掲げているのでは、よもやあるまい。何のための補正か、首相はもっと丁寧に説明すべきである。

日本経済は消費や国内投資が伸び悩み、2四半期連続のマイナス成長に陥った。中国経済の減速という懸念材料もある。

経済再生に揺らぎが生じたときに、財政出動を含めて柔軟に対応すべきは当然だ。その場合、従来の政策に何が足りなかったのかを真摯(しんし)に検証した上で、対応策を打ち出す必要があろう。

ことさら政権が景気回復を誇示するのも、状況を分かりにくくする。先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、国際通貨基金(IMF)が日本の成長について「やや休止中」と指摘した際、首相は企業収益の改善などを挙げて真っ向から反論した。

ならば、補正は必要なのか。ここを明確にできないようでは、十分な納得は得られまい。

典型的なのが、低所得の年金受給者に3万円を給付する案だ。総活躍実現の目玉施策として補正に盛り込む方向だが、なぜ一時的なばらまきが総活躍社会につながるのか。

給付金が貯蓄に回れば、消費を刺激する効果も限られる。確実に消費につながる手立てを講じなければ、場当たり的な対応と言わざるを得ない。

TPP関連の施策も緊急性を厳格に見極めるべきだ。本予算よりチェックが甘いと考え、少しでも多くの事業を確保しようとする姿勢は許されない。

TPP発効は先のことであり、経済に及ぼす効果の分析結果もまだ公表されていない。この段階から前のめりに対応するようでは、今後のTPP予算の膨張も杞憂(きゆう)ではなくなろう。

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