安倍晋三首相が平成27年度補正予算案の編成を指示した。1億総活躍社会の実現に向けた政策や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対策が柱となる。
政権の最重要課題と位置付けたいのだろう。だが、本来は来年度予算で腰を据えて取り組むべきだ。補正で手当てする緊急性がどこまであるのか。
むしろ、来夏の参院選対策として、思い通りに上向かない景気にてこ入れする姿勢を示し、TPPに不満を抱く農業票をつなぎ留める意図がみえる。
ばらまき批判をかわすため、総活躍などの看板を掲げているのでは、よもやあるまい。何のための補正か、首相はもっと丁寧に説明すべきである。
日本経済は消費や国内投資が伸び悩み、2四半期連続のマイナス成長に陥った。中国経済の減速という懸念材料もある。
経済再生に揺らぎが生じたときに、財政出動を含めて柔軟に対応すべきは当然だ。その場合、従来の政策に何が足りなかったのかを真摯(しんし)に検証した上で、対応策を打ち出す必要があろう。
ことさら政権が景気回復を誇示するのも、状況を分かりにくくする。先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、国際通貨基金(IMF)が日本の成長について「やや休止中」と指摘した際、首相は企業収益の改善などを挙げて真っ向から反論した。
ならば、補正は必要なのか。ここを明確にできないようでは、十分な納得は得られまい。
典型的なのが、低所得の年金受給者に3万円を給付する案だ。総活躍実現の目玉施策として補正に盛り込む方向だが、なぜ一時的なばらまきが総活躍社会につながるのか。
給付金が貯蓄に回れば、消費を刺激する効果も限られる。確実に消費につながる手立てを講じなければ、場当たり的な対応と言わざるを得ない。
TPP関連の施策も緊急性を厳格に見極めるべきだ。本予算よりチェックが甘いと考え、少しでも多くの事業を確保しようとする姿勢は許されない。
TPP発効は先のことであり、経済に及ぼす効果の分析結果もまだ公表されていない。この段階から前のめりに対応するようでは、今後のTPP予算の膨張も杞憂(きゆう)ではなくなろう。
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