日本の宇宙産業を発展させる弾みとしたい。
国産ロケット「H2A」が打ち上げられ、初の民間商業衛星を赤道上の軌道近くで切り離した。日本のロケット技術は新たな段階に入ったと言えよう。
H2Aロケットの打ち上げは29回目だ。これまでは、政府が発注し、情報収集衛星や地球観測衛星などを搭載してきた。今回は、カナダのテレサット社の通信放送衛星の軌道投入を請け負った。
受注の決め手となったのは、人工衛星をより遠い宇宙空間にまで運ぶ技術の改良だ。
北緯30度の種子島から打ち上げると、赤道に対して斜めになった軌道を修正しなければならず、早めに切り離された衛星自身が、進路を変える必要があった。
この弱点を克服するため、ロケットエンジンの燃焼時間を長くして、静止軌道の近くまで衛星を運搬した。衛星の燃料消費は抑えられ、軌道上でより長く活動できるようになった。
衛星を運用する企業などにとっては、魅力的な改良だろう。H2Aロケットを開発した宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、打ち上げや市場開拓を担う三菱重工業との連携の成果である。
宇宙産業は成長が見込まれる有望な分野だ。自然災害に対して脆弱な途上国での気象観測、農作物の広域的な作柄のチェック、鉱物資源の探査など、人工衛星の需要は様々な用途で高まっている。
静止衛星の打ち上げは、世界全体で年間20回前後、行われている。民間商業衛星の打ち上げの受注拡大を目指す日本は今後、欧州や米国、ロシアなどのロケットとの激しい競争にさらされよう。
重要なのは、打ち上げコストの削減である。H2Aの打ち上げには約100億円を要し、欧米より割高だ。政府は、半額程度で打ち上げられる新型基幹ロケットH3の開発を進めている。
目標である2020年度の打ち上げを実現するには、JAXAと三菱重工業に加え、コンピューターや機械など幅広い業種のノウハウを結集させることが求められる。ロケットは、日本の安全保障にも欠かせないインフラだ。
政府の宇宙基本計画は、13年に約3000億円だった宇宙機器関連産業の売上高を、今後10年間で計5兆円に増やすことを掲げている。宇宙開発に民間活力を生かすための宇宙活動法案も来年の通常国会に提出する方針だ。
関連企業の技術力を向上させる重要性が一層、高まっている。
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