子育てと介護 人手と財源をどうする

朝日新聞 2015年11月28日

1億総活躍 分配とバラマキは違う

政策展開の柱の一つとして「分配」をしっかりと位置づけたことは歓迎する。しかし、税・財政政策を通じて政府が目指すべき分配は、けっしてバラマキではない。

安倍政権が打ち出した「1億総活躍社会」の緊急対策と、それに盛り込まれそうな低年金者への給付金のことだ。

緊急対策の副題は「成長と分配の好循環の形成に向けて」。法人減税や規制緩和による経済成長を重視してきた政権が、視野を広げて「分配」を掲げた点が目を引く。

その具体策ということなのか、公的年金受給者の4人に1人、約1千万人を対象に、一人あたり3万円を配るようだ。

年金が少ない人は、確かに助かるだろう。ただ、そうした人が皆、貧しいとは限らない。不動産や金融資産を持つなど、所得や資産を巡る状況は一人ひとり異なるからだ。

そうした事情にできるだけきめ細かく対応し、社会保障を中心とする予算や税制を工夫して、生活が苦しい人を支える。そんな仕組み作りこそが、政府が考えるべき分配政策である。

深刻な財政難のなかで、総額3千億円は貴重な財源だ。今年度の税収が見込みより増えそうな分を充て、国債の追加発行は避けつつ補正予算に計上できるとの算段のようだが、なぜ一時金の配布なのか。現役組にも無業や非正規の人など支援が必要な人は少なくないのに、なぜ年金の受給者なのか。

足元の景気は2四半期続けてマイナス成長とさえない。来年夏には参院選がある。お年寄りは投票率が高い……。そう勘ぐられても仕方あるまい。

緊急対策の副題は、安倍首相の思いを踏まえたという。

確かに、分配のゆがみは成長の足かせとなる。国内総生産の6割をしめる個人消費にしても、一部の高所得層だけで引っ張るのは難しく、中堅・低所得層の財布のひもがゆるんで初めて盛り上がる。

政権も「分配」にかかわる政策が手つかずだったわけではない。本来は労使で決めるべき賃金交渉に口を出し、賃上げを後押ししてきたのも、労働者への分配促進とは言えるだろう。

ただ、デフレ脱却と経済成長に向けた政策総動員をうたう中で、場当たり的な対応が目についたのも否定できまい。

「分配がうまくいっていない社会は成長も難しい」「成長の成果を配分し、次の成長につなげる」。緊急対策の副題に込めたというそんな考えにふさわしい、本格的な対策を求める。

読売新聞 2015年11月27日

1億総活躍対策 財源と人材をどう確保する

政府が、「1億総活躍社会」へ向けた緊急対策を決定した。主要目標として掲げる「出生率1・8」と「介護離職ゼロ」を実現するための施策に重点を置いている。

子育てや介護への支援を強化し、女性や若者、高齢者の働き手を増やす。中長期的には人口減に歯止めをかける。それにより、日本経済の成長につなげる。方向性としては妥当である。

安倍首相は「1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出していく新たな経済社会システムの提案だ」と強調した。

緊急対策では、出生率向上策として、保育の受け皿のさらなる拡充を打ち出した。2017年度末までに40万人分増やす従来の計画を、50万人分に引き上げた。

子育て期の経済的負担を軽減するため、幼児教育の無償化の拡大や奨学金の充実も掲げた。

介護離職対策の柱は、介護サービス整備計画の前倒しと上乗せだ。そのために、施設用地として都市部の国有地を安く貸し出す。介護休業の分割取得や休業中の給付金の増額も検討する。

緊急対策の多くは、以前から必要性が指摘されながら、財源不足などから先送りされてきた。政府は、優先度の高い施策について、今年度補正予算案に盛り込む方針だ。着実に実施してほしい。

問題は、来年度以降の財源である。「1億総活躍」がスローガン倒れにならないよう、政府は来春にまとめる中長期プランで、具体的な目標と工程表に加え、実現可能な財源確保策を示すべきだ。

保育・介護サービスを担う人材の確保も大きな課題である。人手不足が深刻化し、十分なサービスを提供できない事業者も目立つ。現状の打開には、賃金などの処遇改善が不可欠だが、やはり財源の見通しは立っていない。

「103万円の壁」「130万円の壁」など、女性が働くより配偶者に扶養される方が有利になるような税制や社会保険制度の見直しは、検討課題とした。

女性の就労を抑制し、非正規雇用を増やす要因とされるだけに、引き続き議論を深めたい。

長時間労働を前提とした働き方の見直しも忘れてはならない。育児・介護と仕事の二者択一を迫られる状況では、出生率の向上や介護離職の減少は望めまい。

それぞれの事情に合った柔軟な勤務形態を広げ、短時間で効率的に働くことを促す。高齢者や障害者ら多様な人材が活躍するためにも大切なことだ。

産経新聞 2015年11月27日

総活躍と社会保障 政策阻む原因に向き合え

実現可能性を考えると、いささか乱暴な印象が拭えない。

政府の1億総活躍国民会議の緊急対策は「希望出生率1・8」と「介護離職ゼロ」への政策に特に重点が置かれた。

保育の受け皿拡充や介護休業給付金の引き上げなど、高齢者に偏りがちな社会保障のあり方の是正に向けた姿勢は評価できる。

だが、個々の政策には長年検討しながら果たせなかったものも多い。実現が阻まれてきたのは、さまざまな要因があるためで、安倍晋三首相が旗を振ったからといって、ただちに解決するわけではあるまい。

最大の課題は財源だ。財務省は来年度予算で社会保障費の伸びを1700億円抑制する方針だ。一方で緊急対策による予算の上乗せに動くのでは、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものだ。

企業や関係団体の理解や協力がなければできない政策もある。財源確保策を含め加藤勝信担当相は具体的手順を示してほしい。

気がかりなのは、政策目的について「消費や投資が進まない根本的な隘路(あいろ)を取り除く」ためとしていることだ。これでは長期的な社会保障制度改革なのか、短期的な景気対策なのかわからない。

政府は両者を結びつけて「景気回復による税収増分を財源に充てる」などとしているが、これも心もとない。後々、保険料アップなど国民の負担増につながらないか、明確に説明すべきである。

介護施設整備での従来政策との整合性も不明瞭なままだ。首相は塩崎恭久厚生労働相に整備計画の上方修正を指示したが、厚労相は、在宅介護を重視し施設新設を抑える政策目標は「何も変わっていない」という。閣内の足並みがそろっているとは思えない。

「アベノミクスによる賃金引き上げの恩恵が及びにくい」として低所得の年金受給者に支援を行うことも決まった。給付金3万円で調整しているが、年金をめぐっては支給額を抑制する「マクロ経済スライド」を発動させたばかりであり、チグハグな対応と言わざるを得ない。

社会保障は長期かつ継続的に取り組むべき政策である。一つの改革が他の制度に波及することも少なくない。新たな政策を始めるからには、当面の景気浮揚策や参院選対策といった一過性のものであってはならない。

朝日新聞 2015年11月20日

子育てと介護 人手と財源をどうする

安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」実現に向けた、関係省庁案と自民党の提言が出そろった。政府はこの中から子育て支援や介護に絞って緊急対策をまとめ、今年度補正予算案や来年度予算案に反映させる考えだ。

「希望出生率1・8」と「介護離職ゼロ」を優先する安倍首相の意向を受けたものだ。子育て支援や介護に重点を置くことは大歓迎だが、検討中の緊急対策には「大きな穴」がある。保育や介護の人手不足の問題と財源の問題である。重点分野であると言うなら、この問題への対応も示すべきだ。

緊急対策の「目玉政策」になりそうなのが、保育所や介護施設の整備だ。「保育の受け皿」は2017年度末までに40万人分を整備する計画だったのを50万人分に上積み。介護も特別養護老人ホームなどを2020年度までに34万人分増やす計画だったのを、2020年代初頭までに40万人分整備するという。

保育にしろ、介護にしろ、いまの一番の課題は人手が足りないことだ。いくらハコモノを作っても、そこで働く人がいなければ役に立たない。

実際、東京都社会福祉協議会が昨年行った調査では、都内の特養の約半数が職員不足で、人手が足りないために利用者の受け入れを制限している施設もあった。

厚生労働省の案などでも、人材確保策に触れてはいるが、介護職をめざす学生への支援の拡充など限定的で、抜本的な対策は見当たらない。

おひざもとの自民党の会合でさえ「職員の待遇改善をしなければ人材難は解決しない。介護報酬も引き上げますと言うべきだ」といった声が出ている。

その財源は、こころもとないのが実情だ。子育て支援は、税と社会保障の一体改革で、充実させることになった。保育士の増加や処遇の改善などに1兆円を充てることになっているものの、消費税が10%になっても3千億円が不足、穴があいたままになっている。

さらに、6月に決まった「骨太の方針」では、社会保障費の伸びを抑える方針も掲げている。この中で、どう子育て支援や介護を充実させるのか。

予算全体を見直して、子育て支援や介護を厚くしようとするのか。あるいは、社会保障充実のために増税などで必要な財源を確保するのか。そうしたことも含めて語るべきではないか。

ゆめゆめ来年の参院選挙までの間の一時の「打ち上げ花火」に終わらせることのないようにしてほしい。

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