日露首脳会談 プーチン氏の真意が見えない

朝日新聞 2015年11月21日

南シナ海問題 緊張緩和の努力こそ

南シナ海が「開かれた海」であり続けるために、日米が連携するのは当然だ。そうだとしても、米国は米国の、日本は日本の役割を大事にしたい。

安倍首相がオバマ大統領との首脳会談で、南シナ海で米軍が行っている「航行の自由作戦」への支持を表明した。

中国が埋め立てて造った人工島近くに米軍艦船を派遣し、国際規範に沿った「航行の自由」を示すのが作戦の狙いだ。独断でルール変更をめざす中国の行動は容認できるものではなく、首相の支持表明は理解できる。

一方で、米軍の作戦が南シナ海の緊張を高め、偶発的な軍事衝突を招きかねないことも確かだ。中国に責任ある大国としての自制を促すためには、軍事的な抑止と、外交的な緊張緩和のバランスが求められる。

その意味で懸念されるのは、日米協力の必要性を強調する大統領に対し、首相が南シナ海での自衛隊活動について「(海域の)情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と伝えたことだ。

菅官房長官は「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」と説明したが、首相の発言は将来の自衛隊派遣に含みを残したとも受け止められる。先の国会での安全保障法制の審議では、南シナ海への自衛隊派遣について十分な議論はなかった。

首相の真意は何なのか。やはり早期に国会を開き、きちんと説明してもらう必要がある。

海上自衛隊の艦船は現在も南シナ海を航行しているが、継続的な警戒監視活動は行っていない。法制上、不測の事態への対応が難しく、活動に制約をかけてきた面がある。

だが安保法制が来春に施行されれば、並走する米艦の防護が可能になるなど、米軍と自衛隊の共同行動がやりやすくなる。

かねて米国からは、南シナ海での自衛隊の活動に期待が示されてきた。米軍の負担がそれだけ軽くなるからだろう。

しかし、日本は中国を侵略した歴史があり、隣国でもある。日中が軍事的に衝突すれば、米中の場合以上に事態の収拾が難しいことは想像に難くない。

日米が同じ行動をとることだけが連携ではない。日本として何を、どこまでするのか。国民的な議論が欠かせない。

軍事的な行動を言う前に、東南アジア諸国などと連携しながら、経済や環境、エネルギーなど幅広い分野で中国を対話に巻き込み、同時に国際ルールを守るよう促していく。

緊張緩和に向けた外交努力こそ、日本の役割ではないか。

読売新聞 2015年11月21日

日米首脳会談 中国の海洋進出に連携対処を

アジアの秩序を守るため、日米両国が政治、経済両分野で緊密に連携して、主導的な役割を果たすことが肝要だ。

安倍首相とオバマ米大統領がマニラで会談し、南シナ海での中国の人工島造成問題で、協力を強化することで一致した。

オバマ氏は、米軍艦船が人工島の12カイリ内を巡視する作戦について「日常の行動として実行したい」と述べ、継続を表明した。

首相は、作戦を支持し、南シナ海での自衛隊の活動に関して「日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と述べた。

中国が国際法に反する独善的な論理を用い、大規模な埋め立てや軍事拠点化を進めることは阻止せねばならない。日米が東南アジア各国とも連携し、中国に粘り強く自制と改善を促す必要がある。

中国の一方的な現状変更を既成事実化させないため、米軍の作戦は重要だ。日本も、作戦に参加しないまでも、側面支援はしたい。海上自衛隊と米海軍は長年、共同訓練や共同の警戒監視活動を通じて、強い信頼を築いてきた。

政府開発援助(ODA)も活用し、フィリピンなど周辺国の海軍や海上保安機関の能力構築支援にも力を入れねばなるまい。

米軍普天間飛行場の辺野古移設について、首相は「確固たる決意で進める」と表明した。オバマ氏は謝意を表し、米軍施設の返還などに協力する考えを示した。

大切なのは、安倍政権が移設を着実に進める姿勢を堅持することだ。新たな解決策を探ることは、問題を複雑にし、普天間飛行場の危険性除去を遅らせるだけだ。

オバマ氏は、安全保障関連法の成立について「歴史的業績だ」と高く評価した。日韓首脳会談の実現についても「強く支持する」と語った。首相は、北朝鮮の核・ミサイル問題を踏まえ、日米韓の協力を強化する考えを示した。

北東アジアの安全保障にとって日米韓の連携は不可欠だ。日米が韓国に前向きな対応を継続的に働きかけることが求められる。

環太平洋経済連携協定(TPP)について首相は「日米が主導したからこそ、大筋合意ができた」と指摘した。オバマ氏は「TPPはグローバル環境を一変させる。課題は、協定の発効と実施の段階に持っていくことだ」と語った。

日米が、アジア太平洋地域の自由、公正で透明性のある貿易・投資ルールの確立を牽引けんいんした意義は大きい。参加国の拡大も視野に入れて、できるだけ早期の批准・発効を目指すことが重要だ。

産経新聞 2015年11月20日

日米首脳会談 航行の自由さらに連携を

安倍晋三首相とオバマ米大統領との首脳会談は、南シナ海で人工島造成や軍事拠点化を進める中国への対処が重要なテーマとなった。

「航行の自由」と「法の支配」を守る日米同盟の結束を示し、ともに中国に対処する方針を確認した意義は大きい。

人工島周辺での米艦船の通過など「航行の自由」作戦について、オバマ大統領は「日常の行動として実行していきたい」と継続する姿勢を強調した。

これに対し、安倍首相が「現状を変更する一方的行為は全てに反対」と、作戦への明確な支持を表明したのは極めて妥当だ。

中国の人工島の総面積は、昨年暮れからの1年弱で6倍以上になった。力による現状変更の阻止は急務である。

尖閣諸島を含む東シナ海の平和と安定を図ることと併せ、日本は自らの安全保障の問題としてより積極的に取り組む必要がある。

この問題では、安倍政権の積極的平和主義と、オバマ政権のアジア重視政策とをいかに調和させるかが問われているといえよう。実効性のある方策が求められる。

日米首脳会談は、中国や東南アジア諸国を交え、フィリピンで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で行われた。

不可解なのは、南シナ海問題の関係国ともいえる首脳らが顔をそろえた会議で、この問題が提起されなかったことだ。

フィリピン外務省によると、会議ではどの首脳も南シナ海問題について発言しなかったという。

人工島建設は海上交通路(シーレーン)を脅かし、経済活動にも重大な影響を及ぼすことは明らかであるにもかかわらずだ。

首脳会議に合わせて、日米首脳はそれぞれ、フィリピンのアキノ大統領と会談するなど、南シナ海問題での協調を働きかけた。

この問題の議題化回避を図った中国による事前の外交攻勢が、日米を上回ったと厳しく受け止めるべきだろう。

22日にマレーシアで開かれる東アジア首脳会議は、政治・安全保障を含む討議の場だ。日米は議論を主導することを目指し、中国の南シナ海支配は許さないという議論の流れをつくるべきだ。

安倍首相とオバマ大統領は、さらに2国間会談などを重ね、巻き返しを図ってもらいたい。

読売新聞 2015年11月18日

日露首脳会談 プーチン氏の真意が見えない

日露首脳間の対話を重ねる中で、北方領土問題の着地点をじっくりと探るしかあるまい。

安倍首相はトルコで、ロシアのプーチン大統領と会談した。第1次内閣を含めると、両氏の会談は12回目だが、成果に乏しかったのではないか。

焦点のプーチン氏の来日については、「最も適切な時期」を目指すことで一致した。当初は、今年中の予定だったが、事実上、年明け以降に先送りしたものだ。

ロシアの一方的なクリミア併合などに対して、米欧の反発は根強い。特に米国は、プーチン氏来日に否定的な立場だ。

現時点で、北方領土問題が進展する見通しも立たない。

国際情勢も、2国間関係も、来日の環境が整っていない以上、延期するのはやむを得まい。

日本は来年、先進7か国(G7)の議長国となる。G7の協調を大切にし、シリア情勢などの行方をにらみながら、来日時期を適切に判断することが求められる。

会談では領土問題について、2013年の日露共同声明に基づき「双方に受け入れ可能な解決策」を目指す方針を改めて確認した。

安倍首相は、「ロシアとは戦後70年を経ても、平和条約を締結できていない異常な状態が続いている」として、領土問題の解決に強い意欲を示している。

日露関係の強化は、中国を牽制けんせいする戦略的な狙いもある。焦らず、腰を据えて取り組みたい。

ロシアは、日本の出方を試すような揺さぶりを強めている。

ラブロフ外相らは、領土問題について一切譲歩しない考えを繰り返す。先月中旬には、シベリア抑留に関する資料の世界記憶遺産への登録に対し、突然、登録申請の取り下げを求めた。

ロシアで領土問題に関して重大な決断を下せるのはプーチン氏しかいない。首相が会談で「重要なことは、こうした形で2人で話し合うことだ」と指摘したのは、そうした認識に基づいている。

中国などとの国境を画定したプーチン氏は、日本との領土問題解決を政治的遺産にしたいはず。そう分析する外務省幹部もいる。

ただ、プーチン氏の真意はなお見えない。今回の会談でも、「ロシアの地方で会えればうれしい」と語り、首相の訪露を要請した。地方視察を通じて日本の投資に期待する、経済協力優先路線の一環とも解される。

首相の訪露を含め、首脳外交をどう進めるのが効果的か、慎重な見極めが必要だ。

産経新聞 2015年11月19日

APEC首脳会議 「南シナ海」日米が先導を

南シナ海で中国の力による現状変更をやめさせることは、アジア太平洋地域の安全保障上、喫緊の課題である。

日米中の首脳が顔をそろえる国際会議がアジアに舞台を移し、フィリピンでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。

米国の「航行の自由作戦」開始後、初めて当事国の首脳らが議論する重要な機会だ。

日本や東南アジアの近隣諸国が米作戦を明確に支持し、中国による人工島の造成、軍事拠点化は認めないという圧力をどれだけかけられるかが問われる。

テロ対策も議題となろう。アジアでも、イスラム過激派によるテロの危険は高まっている。

だが、そのことで南シナ海の「航行の自由」や「法の支配」が脅かされる現状を打開する必要性が減じることは少しもない。

現地入りしたオバマ米大統領は真っ先にフィリピン海軍を視察し、周辺海域の安全への米国の一層の関与を強調した。南シナ海問題で中国と対峙(たいじ)する決意の表明と受け止めたい。

一方、中国は会議を前に習近平国家主席がベトナム、シンガポール訪問で両国に接近を図り、フィリピンには王毅外相を派遣して、APECで南シナ海を議題としないよう働きかけた。

安倍晋三首相はトルコで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合の際、ドイツのメルケル首相や英国のキャメロン首相との間で南シナ海問題を協議した。

中国外務省報道官は「当事者ではないのに絶え間なく騒ぎ立てている」と、日本への強い不満と反発を表明している。

この問題が国際化するのを避けたいということだろう。

そのために、さまざまな手段を講じてこようが、他の参加国が切り崩しにあわぬよう、日米も外交戦で後れをとってはならない。

安倍首相は、フィリピンなどで2国間会談を重ね、尖閣諸島周辺を含む東シナ海でも中国が活発に活動を繰り返している現状を話し合い、協力して警戒にあたることを確認すべきだ。

何よりも、首相とオバマ氏との首脳会談で「航行の自由」を守る日米同盟の結束を示すことが重要となる。その姿を国際社会はみている。日米が示す価値観を、どれだけ多くの国と共有できるか。そこに注力するときだ。

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