APEC首脳会議 「南シナ海」日米が先導を

読売新聞 2015年11月26日

TPP政策大綱 輸出と海外展開へ知恵を絞れ

日本の農業や製造業の競争力を強化するため、官民が連携し、本腰を入れなければならない。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を踏まえ、政府が総合政策大綱を策定した。

中小企業の海外進出や農産品の輸出を促す一方、輸入増の影響を受ける農家の保護策も打ち出し、攻守両面の政策を盛り込んだ。

農林水産物の輸出額を2020年に1兆円とする従来の政府目標の達成を前倒しする。インフラ(社会基盤)整備事業の海外受注額を20年に30兆円にする。こうした数値目標も掲げている。

安倍首相は、「TPPを経済再生や地方創生に直結させるのに必要な政策だ」と強調した。

人口減少に伴い、国内市場の縮小は避けられない。TPPをテコに、アジア太平洋地域の成長と活力を取り込む狙いは妥当だ。

ただ、大綱は、中小企業の相談窓口の拡充や農産品の販促強化など、従来の施策の焼き直しが目立つ。肝心な具体策に乏しい。

数値目標にも、「中小企業の海外事業拡大の成功率を6割以上にする」など、達成できたかどうかの判断が難しい項目がある。

15年度補正予算案や16年度予算案に間に合わせようと、急ごしらえとなった印象が否めない。

高いレベルの関税撤廃や透明性あるルールの合意を活用し、域内国への投資と貿易を拡大する具体策にもっと知恵を絞るべきだ。

「守り」の面で気がかりなのは、手厚い農家保護策である。

例えば、牛・豚肉生産者の経営赤字の一部を穴埋めする現行の基金制度について、法制化や補填ほてん割合の引き上げを図る。

外国産品との競争を強いられる農家に対する一時的な支援は必要だが、法制化で赤字補填を永続化すれば、生産者の経営改善意欲が薄れよう。日本農業の構造的な弱点を固定化し、安倍政権の「攻めの農業」にも逆行しかねない。

コメの輸入枠拡大の対策では、政府備蓄米の買い取り量を増やして、米価を安定させる方針だ。

安い農産品が買いやすくなるというTPPの恩恵を、消費者が享受できなくならないか。

大綱は、対策費の予算規模を示さなかった。過度に額が膨らまぬよう注意する必要がある。

自民党内からは、来年夏の参院選をにらみ、土地改良事業など公共工事予算の増額を迫る声が強まっている。対策の費用対効果をよく分析し、適切に予算を配分することが求められよう。

産経新聞 2015年11月26日

TPP政策大綱 攻めの戦略を深化させよ

政府が決めた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)関連の政策大綱には、中小企業の海外進出促進や農業強化策などが幅広く盛り込まれた。

TPPによる域内の関税撤廃や共通ルールを活用し、民間主導の成長を促す基盤を整える。その方向性は妥当だが、大切なのは、確実に効果を挙げるよう具体化することだ。

政府は施策を不断に点検し、見直すという。TPPの影響を詳細に見極め、対策を深化させるよう万全を尽くしてほしい。

その際、予算のばらまきが許されないのは当然だ。関連分野の不安解消を名目に、行き過ぎた「守り」に傾斜するようでは、強い経済の実現など望めまい。

大綱は、支援対象の中小企業の海外事業成功率を6割以上とするほか、30兆円のインフラ受注や1兆円の農業輸出などを掲げた。

「攻め」の数値目標を多く設定したのは当然である。目標の実現に向けて政策の中身をさらに詰め、その効果を検証しながら必要な改善を加える。こうした流れを確実に進めてもらいたい。

読売新聞 2015年11月20日

APEC 自由貿易拡大はTPPを軸に

環太平洋経済連携協定(TPP)をベースにした、高水準の貿易自由化を広げることが世界経済の発展に欠かせない。

アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想」の検討加速を柱とする首脳宣言を採択した。

宣言は、FTAAPに関して、「包括的な自由貿易協定として追求されるべきだ」と強調した。

FTAAPは、日米中露など域内21か国・地域の経済統合を図る試みだ。先進国から途上国まで経済の発展段階が違うAPECメンバーがルールを統一する重要性を確認できたのは、歓迎できる。

TPPで大筋合意した高いレベルの関税撤廃や、公正で透明な貿易ルールの適用がFTAAPでより多くの国々に広がれば、地域の経済活性化に弾みがつこう。

懸念材料は、TPPに参加していない中露がTPPを軸にした経済統合に反発していることだ。

中国の習近平国家主席は講演で「自由貿易の計画が次々と現れ、地域がバラバラになることを懸念している」と警戒感を示した。

ロシアのプーチン大統領も「TPPの秘密交渉スタイルは、地域の成長を促す最良の道ではない」とする論文を発表した。

韓国やフィリピンなどの参加検討表明が相次いでいる。中露は、米国主導の経済秩序に対抗する目論もくろが危うくなったため、新規参入の動きを牽制けんせいしたのだろう。

中国は、日韓やインドなどと交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を基礎に経済統合を目指す考えだ。米国は交渉に参加していない。

だが、RCEPは、TPPに比べ、目標とする関税撤廃率が低い。TPPが締結国の政府や企業に求めた環境や人権、知的財産権などへの配慮についても、議論がまだ進んでいないとされる。

公正で自由な経済活動を確保するには、TPPルールを国際標準とする方が望ましい。

安倍首相が「日本は今後、TPPを広める取り組みに注力する」と語ったのは適切だ。豪州などと連携して、米国不在のRCEP交渉をリードし、自由化の水準をTPPに近づけねばならない。

気がかりなのは、TPPの批准が、米国で難航しそうなことである。野党の共和党に加え、与党・民主党でも、支持層の労働組合が反対を強めている。

米国が批准しないと、TPPは発効しない。米政府は議会対策に精力的に取り組んでほしい。

産経新聞 2015年11月21日

TPPの拡大 質高い基盤を根付かせよ

アジア太平洋経済協力会議(APEC)が首脳宣言で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などに留意し、域内全域の自由貿易圏実現を目指すことを確認した。

域内21カ国・地域のうち日米など12カ国が参加するTPPには、韓国やフィリピン、インドネシアなどが合流への意欲や関心を示している。

安倍晋三首相や他の参加国首脳からは、メンバーの拡大に前向きな声が出ている。地域の経済を底上げするTPPを、より強力で開かれた枠組みとするためにも、その方向性は妥当だ。

その際、大半の関税撤廃など高水準の自由化と、基盤となる先進的なルールを定めた「質」を維持すべきは当然である。法の支配や民主主義など共通の価値観に基づく経済秩序を、新たな国際標準として根付かせることが肝要だ。

APECに合わせて開かれたTPP首脳会合では、協定の早期発効を目指すことが確認された。議会の反発が懸念される米国だけでなく、各国首脳はまず円滑な始動へ指導力を発揮すべきだ。

大筋合意後、合流を検討する参加国以外の機運が高まった背景には、日米主軸の枠組みに加わらなければ、成長から取り残されるという現実的な危機感がある。

TPPは、法の支配が不十分な中国ではなく、日米など自由主義国が新たな経済秩序を構築したことに意味がある。その輪を広げることは、中国の覇権主義的な動きを牽制(けんせい)することにもつながる。

ただ、乗り越えるべきハードルは高い。例えばインドネシアは未加工鉱石の禁輸措置など保護主義の傾向が指摘される。それぞれ国内事情はあろうが、合意内容を後退させることは許されない。

TPPには中国はもちろん、APEC加盟国のロシアも距離を置く。当然、米国への対抗心もあるのだろう。中国が重視するのは、日韓や東南アジア、インドなどを含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)である。この枠組みに米国は入っていない。

APEC首脳宣言がTPPに言及する一方、RCEPの早期妥結を促したのは、中国の存在感の表れだ。ただ、そのRCEPは、自国の都合を優先する中国とインドがブレーキとなり交渉が遅れている。中国が真にRCEPを推進したいのなら、まずは交渉を動かす自らの姿勢が問われよう。

産経新聞 2015年11月19日

APEC首脳会議 「南シナ海」日米が先導を

南シナ海で中国の力による現状変更をやめさせることは、アジア太平洋地域の安全保障上、喫緊の課題である。

日米中の首脳が顔をそろえる国際会議がアジアに舞台を移し、フィリピンでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。

米国の「航行の自由作戦」開始後、初めて当事国の首脳らが議論する重要な機会だ。

日本や東南アジアの近隣諸国が米作戦を明確に支持し、中国による人工島の造成、軍事拠点化は認めないという圧力をどれだけかけられるかが問われる。

テロ対策も議題となろう。アジアでも、イスラム過激派によるテロの危険は高まっている。

だが、そのことで南シナ海の「航行の自由」や「法の支配」が脅かされる現状を打開する必要性が減じることは少しもない。

現地入りしたオバマ米大統領は真っ先にフィリピン海軍を視察し、周辺海域の安全への米国の一層の関与を強調した。南シナ海問題で中国と対峙(たいじ)する決意の表明と受け止めたい。

一方、中国は会議を前に習近平国家主席がベトナム、シンガポール訪問で両国に接近を図り、フィリピンには王毅外相を派遣して、APECで南シナ海を議題としないよう働きかけた。

安倍晋三首相はトルコで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合の際、ドイツのメルケル首相や英国のキャメロン首相との間で南シナ海問題を協議した。

中国外務省報道官は「当事者ではないのに絶え間なく騒ぎ立てている」と、日本への強い不満と反発を表明している。

この問題が国際化するのを避けたいということだろう。

そのために、さまざまな手段を講じてこようが、他の参加国が切り崩しにあわぬよう、日米も外交戦で後れをとってはならない。

安倍首相は、フィリピンなどで2国間会談を重ね、尖閣諸島周辺を含む東シナ海でも中国が活発に活動を繰り返している現状を話し合い、協力して警戒にあたることを確認すべきだ。

何よりも、首相とオバマ氏との首脳会談で「航行の自由」を守る日米同盟の結束を示すことが重要となる。その姿を国際社会はみている。日米が示す価値観を、どれだけ多くの国と共有できるか。そこに注力するときだ。

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