日本の農業や製造業の競争力を強化するため、官民が連携し、本腰を入れなければならない。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を踏まえ、政府が総合政策大綱を策定した。
中小企業の海外進出や農産品の輸出を促す一方、輸入増の影響を受ける農家の保護策も打ち出し、攻守両面の政策を盛り込んだ。
農林水産物の輸出額を2020年に1兆円とする従来の政府目標の達成を前倒しする。インフラ(社会基盤)整備事業の海外受注額を20年に30兆円にする。こうした数値目標も掲げている。
安倍首相は、「TPPを経済再生や地方創生に直結させるのに必要な政策だ」と強調した。
人口減少に伴い、国内市場の縮小は避けられない。TPPをテコに、アジア太平洋地域の成長と活力を取り込む狙いは妥当だ。
ただ、大綱は、中小企業の相談窓口の拡充や農産品の販促強化など、従来の施策の焼き直しが目立つ。肝心な具体策に乏しい。
数値目標にも、「中小企業の海外事業拡大の成功率を6割以上にする」など、達成できたかどうかの判断が難しい項目がある。
15年度補正予算案や16年度予算案に間に合わせようと、急ごしらえとなった印象が否めない。
高いレベルの関税撤廃や透明性あるルールの合意を活用し、域内国への投資と貿易を拡大する具体策にもっと知恵を絞るべきだ。
「守り」の面で気がかりなのは、手厚い農家保護策である。
例えば、牛・豚肉生産者の経営赤字の一部を穴埋めする現行の基金制度について、法制化や補填割合の引き上げを図る。
外国産品との競争を強いられる農家に対する一時的な支援は必要だが、法制化で赤字補填を永続化すれば、生産者の経営改善意欲が薄れよう。日本農業の構造的な弱点を固定化し、安倍政権の「攻めの農業」にも逆行しかねない。
コメの輸入枠拡大の対策では、政府備蓄米の買い取り量を増やして、米価を安定させる方針だ。
安い農産品が買いやすくなるというTPPの恩恵を、消費者が享受できなくならないか。
大綱は、対策費の予算規模を示さなかった。過度に額が膨らまぬよう注意する必要がある。
自民党内からは、来年夏の参院選をにらみ、土地改良事業など公共工事予算の増額を迫る声が強まっている。対策の費用対効果をよく分析し、適切に予算を配分することが求められよう。
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