貿易決済や外貨準備として広く世界で利用される基軸通貨といえば米ドルだ。それに準ずる主要通貨にユーロ、英ポンド、日本円の3通貨がある。
そこに中国の人民元が仲間入りする見通しになった。国際通貨基金(IMF)が今月末に開く理事会で、仮想通貨「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨のひとつに人民元を加える方針だ。
世界最大の貿易大国となった中国の人民元が主要通貨の仲間に入るのは、当然だろう。
中国政府は国際金融での地位向上やドル依存脱却をめざしている。とはいえ、国家資本主義のもとで政府が市場介入を続けていたのでは実現は難しい。主要通貨にふさわしい制度へと改革する努力が一層求められる。
SDRは、IMFが加盟国に対し出資額に応じて割り当てる仮想通貨だ。通貨危機に直面した国が、SDRと引き換えに必要な外貨を融通してもらえる。
その価値は、複数の主要通貨を一定の構成比で算出して決める。今年はその構成比を見直す5年に1度の機会にあたり、人民元の採用が検討されてきた。
構成通貨となるには条件がある。一つは「輸出額が大きい国の通貨」であること。いまや世界一の貿易大国の中国は、これに文句なく当てはまる。人民元はアジア諸国を中心に貿易決済に使われる取引が増えており、実績を重ね、国際通貨としての実力を蓄えつつある。
問題はもう一つの条件、「自由に利用可能な通貨」であることだ。これを満たすには外国為替市場での人民元の相場操作をやめ、金利や資本取引の規制を撤廃する必要がある。
中国も段階的にこうした規制の廃止や自由化を進めてきた。先月下旬には、預金金利の上限規制の撤廃を発表した。
とはいえ、資本取引はいまだ当局によって制限され、窓口指導や国有商業銀行の影響力のもとで事実上の金利規制が続く可能性もある。これらの一層の改革を含めて自由化路線を着実に進めなければ、本当の国際通貨とは言えない。経済大国となった中国にはそれだけの責任があるはずだ。
中国経済の実力を考えれば人民元の存在感は今後もますます高まるだろう。これを機にドル、ユーロ、ポンド、円に人民元も含む主要5通貨の新しい協調体制を検討したらどうか。国際金融の安定はもはや主要先進7カ国のG7体制だけでは難しい。日本と米欧にとっても政治体制が異なる中国との協調が必要不可欠なものとなっている。
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