中国人民元 主要通貨国の責任を

朝日新聞 2015年11月16日

中国人民元 主要通貨国の責任を

貿易決済や外貨準備として広く世界で利用される基軸通貨といえば米ドルだ。それに準ずる主要通貨にユーロ、英ポンド、日本円の3通貨がある。

そこに中国の人民元が仲間入りする見通しになった。国際通貨基金(IMF)が今月末に開く理事会で、仮想通貨「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨のひとつに人民元を加える方針だ。

世界最大の貿易大国となった中国の人民元が主要通貨の仲間に入るのは、当然だろう。

中国政府は国際金融での地位向上やドル依存脱却をめざしている。とはいえ、国家資本主義のもとで政府が市場介入を続けていたのでは実現は難しい。主要通貨にふさわしい制度へと改革する努力が一層求められる。

SDRは、IMFが加盟国に対し出資額に応じて割り当てる仮想通貨だ。通貨危機に直面した国が、SDRと引き換えに必要な外貨を融通してもらえる。

その価値は、複数の主要通貨を一定の構成比で算出して決める。今年はその構成比を見直す5年に1度の機会にあたり、人民元の採用が検討されてきた。

構成通貨となるには条件がある。一つは「輸出額が大きい国の通貨」であること。いまや世界一の貿易大国の中国は、これに文句なく当てはまる。人民元はアジア諸国を中心に貿易決済に使われる取引が増えており、実績を重ね、国際通貨としての実力を蓄えつつある。

問題はもう一つの条件、「自由に利用可能な通貨」であることだ。これを満たすには外国為替市場での人民元の相場操作をやめ、金利や資本取引の規制を撤廃する必要がある。

中国も段階的にこうした規制の廃止や自由化を進めてきた。先月下旬には、預金金利の上限規制の撤廃を発表した。

とはいえ、資本取引はいまだ当局によって制限され、窓口指導や国有商業銀行の影響力のもとで事実上の金利規制が続く可能性もある。これらの一層の改革を含めて自由化路線を着実に進めなければ、本当の国際通貨とは言えない。経済大国となった中国にはそれだけの責任があるはずだ。

中国経済の実力を考えれば人民元の存在感は今後もますます高まるだろう。これを機にドル、ユーロ、ポンド、円に人民元も含む主要5通貨の新しい協調体制を検討したらどうか。国際金融の安定はもはや主要先進7カ国のG7体制だけでは難しい。日本と米欧にとっても政治体制が異なる中国との協調が必要不可欠なものとなっている。

産経新聞 2015年11月18日

人民元の国際化 自由化を貫徹できるのか

国際通貨基金(IMF)がドル、ユーロ、ポンド、円と並ぶ主要通貨として、中国の人民元を加えることになりそうだ。世界2位の経済力を背景に、存在感が高まっているためだ。

だが、中国では金融・資本の自由な取引がなお不十分である。政府の強引な市場介入も相変わらずだ。IMFの「お墨付き」は前のめりに過ぎる感がある。

中国にとっては、ドル基軸体制に対抗する通貨覇権への大きな一歩であろうが、それにふさわしい改革を貫徹できるのか。国際社会は、中国の恣意(しい)的な政策運営を厳しく監視すべきだろう。

通貨危機などに備えたIMFの準備資産「特別引き出し権(SDR)」は、ドルや円など主要4通貨で構成される。ここに人民元を加えることが、近く開かれる理事会で正式に決まる見通しだ。

SDR採用をテコにした人民元の国際化は中国の悲願だろう。米国の経済政策に左右されがちなドル依存から脱却するためだ。貿易決済で人民元が多く使われれば、為替変動のリスクも減らせる。人民元による影響力拡大は、設立を主導したアジアインフラ投資銀行と同様、新たな経済秩序を築くための国家戦略である。

通貨の存在感は、経済力に応じて高まる。欧州を中心に人民元のSDR採用を後押しする動きが強かったのも、中国との経済の緊密化を期待したためだろう。

問題は、今の人民元が真の国際通貨といえるかだ。人民元は今年8月、貿易決済通貨として日本円のシェアを上回った。IMFは、通貨取引の自由度もSDRの条件を満たしているという。

本当にそうだろうか。中国は、海外での人民元決済銀行の拡大などの改革を進めてきた。ただ、人民元相場は変動幅が管理され、国境を越えた資本の自由な出入りなどは規制が残る。

中国は段階的に改革を進める方針だが、政府の思惑で後戻りする懸念が残る。自由化が進めば資本の流出入が増え、投機の懸念も高まろう。上海株が乱高下した今夏、習近平政権が株価に露骨に介入し、人民元の買い支えを繰り返したことを忘れてはならない。

SDR入りすれば、日米欧との連携も不可欠となろう。世界の金融市場の安定に向けて責務を果たすのは当然である。自国の都合を押し通すことは許されまい。

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