ロシアにはびこるドーピングの驚くべき実態が暴かれつつある。
世界反ドーピング機関(WADA)の独立委員会が、ロシア陸上界に関する報告書を公表した。禁止薬物を恒常的、組織的に使用していたとする内容である。
コーチらが選手にドーピングを指南していた。違反行為を摘発すべき公認検査機関のトップが、陽性反応を隠蔽する見返りに、賄賂を要求した。検体のすり替えも横行していたという。
WADAは、ドーピング撲滅を掲げる国際オリンピック委員会(IOC)が1999年に設立した独立機関だ。その権威ある組織から委託された専門家が、関連書類や証言を分析した結果であり、信ぴょう性は高いだろう。
「これほどの規模の違反が、政府が関わることなく起きたと結論づけるのは単純過ぎる」との報告書の指摘は、うなずける。
独立委は、国際陸上競技連盟がロシア陸連を資格停止処分とするよう勧告した。ロンドン五輪金メダリストの女子選手らを永久資格停止とすることも求めた。国際陸連は近く対応を協議する。
こうした動きに対し、プーチン露大統領は、ドーピング対策の強化を指示しつつ、「責任は個人が取るべきだ」と反発している。来年のリオデジャネイロ五輪に、ロシアの陸上選手全員が出場できなくなることにも反対した。
プーチン氏は、報告書の指摘をきちんと受け止めていないのではないか。ロシア政府は、スポーツ省の関与は否定しながら、検査機関のトップを解任した。
ドーピング検査をWADAが監視するという独立委の提案を受け入れ、改革を進めるべきだ。
薬物の力を借りて記録を伸ばすことは、フェアプレー精神に反する。競技への冒涜でもある。ドーピングは選手の肉体を蝕む。世界のスポーツ界はドーピングの追放に注力している。ロシアの不正はその取り組みに逆らうものだ。
ソ連や東ドイツなど旧共産圏は五輪を国威発揚の場と位置づけ、国ぐるみで選手を強化した。
勝利のためにはドーピングを厭わない土壌が、ロシアには今なお残っているのだろう。今回の報告書も、選手がドーピングを拒否すれば、代表チームに入れないことを問題視している。
この問題では、国際陸連幹部の収賄疑惑も浮上している。独立委は、国際刑事警察機構(ICPO)に証拠の一部を提供した。全容解明を求めたい。
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