ミャンマー選挙 経済発展路線の継承が課題だ

朝日新聞 2015年11月13日

ミャンマー 民主化の新たな一章

ミャンマーの総選挙で野党・国民民主連盟(NLD)が勝利した。与党・連邦団結発展党(USDP)の党首でもあるテインセイン大統領は平穏な政権移譲を約束した。

軍事政権下で自由を求めて闘った人たちにとって歴史的な勝利であり、アジアの民主主義にとっても重要な節目である。

上下両院664議席のうち憲法に基づく軍人枠などを除く491議席を争った。NLDは3分の2超を得て議会の過半数を制し、政権交代が実現する。

投票は紛争地の7選挙区で実施されず、少数派イスラム教徒ロヒンギャの参加は拒まれた。有権者名簿に不備もあった。

それでも投開票はおおむね公正に行われた。内外の監視団約1万2千人の存在は大きかった。国際社会の関心が自由な選挙の実現に役立ったといえる。

各投票所には早朝の開場前から長い列ができ、一票にかける人々の思いや熱気が伝わった。

政策はほとんど論争にならず、体制選択が争点だった。

国民は変化を熱望し、NLDのアウンサンスーチー党首への期待、軍政とそれを引き継いだUSDPへの嫌悪を示した。

来年1月末に招集される新国会で大統領が選出され、3月末に新政権が誕生する。軍と与党は、大統領が言うように着実な政権移譲を行わねばならない。

外国籍の息子を持つスーチー氏は、軍政の制定した憲法の規定で大統領になれない。

このためスーチー氏は「大統領の上にたって国政を運営する」というが、権力の二重構造は民主的に機能するか、行政経験のない党員が官僚を使いこなせるかといった疑問は残る。

NLDには、政府・党運営の透明性と、旧体制に属した人も含む外部の人材を積極登用する柔軟性を期待したい。開放的な経済政策も継続して欲しい。

難題が目白押しだ。現政権が進めた少数民族との停戦交渉、多数派仏教徒とイスラム教徒ら宗教的少数者の対立の解消などは一筋縄ではいかない。

さらに憲法改正にどう取り組むか。国会の軍人枠に加え、軍が国防、内務、国境の各大臣を指名する。非常事態には軍が全権を握る。こうした規定が続く限り民主化は進まないが、改正は憲法上、軍の同意が必要だ。

政権運営は綱渡りが予想され、軍の協力は欠かせない。だが民主化に踏み出さなければ、国民や国際社会の失望を招く。

日本を含む国際社会は民主化への支援を惜しんではならず、一方で状況を慎重に見守る忍耐も必要となるだろう。

読売新聞 2015年11月12日

ミャンマー選挙 経済発展路線の継承が課題だ

テイン・セイン政権が道筋をつけた経済発展路線を継承し、ミャンマーの国造りを着実に軌道に乗せることが重要だ。

ミャンマーで、2011年の民政移管後、初めてとなる総選挙が行われた。

民主化運動を主導してきたアウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党の国民民主連盟(NLD)が、軍人枠を除く改選枠の3分の2超の議席を獲得し、国会の過半数を確保する見通しだ。

軍政の流れをくむ与党・連邦団結発展党(USDP)も敗北を認めた。来年2月に国会で大統領が選出されるが、政権交代の可能性が大きくなったと言える。

テイン・セイン政権は中国への過度の依存から脱却し、投資環境の改善で外資を呼び込み、高い成長率を実現してきた。それでも大敗したのは、軍に不信を抱く国民が変革を求めたためだろう。

NLDが圧勝した1990年の総選挙では、軍政が結果を受け入れず、政権移譲を拒んだ。10年の総選挙は、軍政に反発するNLDが参加をボイコットしている。

今回は、有権者名簿に登録漏れなどの不備があったが、大きな混乱もなく実施された。民主化の進展を示すものと評価できる。

憲法は外国籍の親族がいる人物の大統領就任を禁じる条項を設けており、英国籍の子息をもつスー・チー氏には、その資格がない。

理解し難いのは、選挙前、スー・チー氏が「我々が勝利すれば、私は大統領よりも上に立つ」と語ったことである。自ら民主化を掲げながら、傀儡かいらい政権を作るつもりなのだろうか。

選挙遊説では、政権構想を語らず、具体的な政策も見えない。政治手腕は疑問視されている。

課題は山積している。少数民族の武装勢力との和平も容易でない。宗教対立の緩和など国民和解は急務となっている。

NLDは国政を担える人材を欠く。政権交代を実現しても、軍やUSDPの協力なしには、早晩、立ち行かなくなるだろう。

インド洋と南シナ海を結ぶ要衝にあるミャンマーの戦略的価値は高い。一方的な海洋進出で緊張を高める中国を牽制けんせいするためにも、日米や周辺国は、ミャンマーとの関係を強化せねばならない。

日本はテイン・セイン政権の路線を歓迎し、政府開発援助(ODA)と民間投資の両面で積極的に支援している。政治の安定は日本の進出企業にも欠かせない。官民が連携し、ミャンマーの改革を引き続き後押しすべきだ。

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