事実を正確に伝える。視聴者の信頼を回復するには、報道の基本に立ち返るしかない。
NHKの報道番組「クローズアップ現代」を巡り、放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会が、「報道番組で許容される範囲を逸脱し、重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。
BPOはNHKと民放が設立した第三者機関だ。番組内容に問題がある場合に調査し、自主的な解決を促す。その機関が、倫理違反とまで認定した意味は重い。
NHKは「職員向け研修の実施など、再発防止策を着実に実行する」とのコメントを出した。取材から番組制作に至るまで、全ての過程の適正化が急務である。
調査対象となったのは、昨年5月の「出家詐欺」に関する番組だ。BPOは、ブローカーとされる男性を多重債務者の男性が訪ね、相談する場面を問題視した。
番組では、2人が初対面のようにやりとりする様子を隠し撮り風に放映した。ところが、2人は旧知の仲で、相談場所は多重債務者の男性が事前に準備した部屋だった。撮影後、取材記者は2人と居酒屋で打ち上げまでしていた。
「事実を歪曲した」とBPOが批判したのはもっともである。
NHKは今年4月末の最終報告で、「過剰演出」を認める一方、事実の捏造につながる「やらせ」を否定した。これに対し、BPOは「NHKのやらせの概念は、視聴者の一般的な感覚とは距離がある」と疑問を呈した。
「深刻な問題を演出や編集の不適切さに矮小化してはいないか」というBPOの指摘を、NHKは深刻に受け止める必要がある。
BPOは、この問題で自民党が4月中旬にNHK幹部から聴取したことについて、「放送の自由と自律に対する政権党の圧力だ」と非難した。法的権限もないのに放送局幹部を呼び出した行為は、明らかに行き過ぎだった。
NHKが最終報告を出した直後に、総務省が文書で厳重注意した点に関しても、BPOは「行政指導で政府が介入するのは、放送法が保障する自律を侵害する行為そのもの」と異例の批判をした。
これに対し、高市総務相は「放送法を所管する立場から必要な対応を行った」と反論している。
NHKの正確性に欠けた報道が、今回の事態を招いた。政治や行政の介入や干渉を排除し、表現の自由を確保するためには、放送事業者が、事実に基づく報道に徹することが求められよう。
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