BPO意見書 NHKはやらせを認めよ

朝日新聞 2015年11月12日

BPOと政権 放送の「自律」を守れ

放送番組に対する政治介入はあってはならない。安倍政権は放送の自律という原則を軽視する姿勢を改めるべきだ。

NHKと民放がつくる第三者組織「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が、NHKの「クローズアップ現代」の報道をめぐる意見書を出した。

報道に「重大な倫理違反」があったと戒める一方、高市総務相が春にNHKを厳重注意し、自民党の調査会がNHK幹部を聴取したことを批判した。

「報道は事実を曲げないでする」との放送法4条などを総務相は根拠にあげた。だがBPOの意見書は「4条は放送事業者が自らを律する『倫理規範』。総務相が個々の番組に介入する根拠ではない」とした。

学説でも4条は倫理規定と見るのが一般的だ。そもそも放送法は、国民の知る権利や表現の自由に放送を役立てることを主眼とする法である。放送局を取り締まるためのものではない。

4条には「公安、善良な風俗を害しない」「政治的に公平」などと多様な解釈が可能な項目も並ぶ。これを根拠にする行政指導は公権力の裁量幅を広げ、放送を萎縮させる危険がある。

ところが総務相は、放送法違反の場合は業務停止命令を出す権限があることなどから4条は「倫理規範ではない」とし、放送局への指導は必要だったとの見解を10日の国会で示した。

2010年の総務相だった片山善博氏の答弁は慎重だった。「権限はあるが、表現の自由、基本的人権に関わること。こちら側の態度は至って謙抑的でなければいけない」と述べた。

一方、安倍首相は自民党の調査会について「NHK予算を国会で承認する。事実確認は当然」と答弁し、擁護した。だが、この会合では民放のテレビ朝日からも聴取をした。筋の通らない理屈である。

見過ごせないのは、BPOについて「放送局がお金を出し合って、謝礼等を出してつくっている組織」「法定の機関ではない」と、存在意義を軽んじるような姿勢を示したことだ。

公権力の介入を避け、放送の自律を担保する仕組みとしてBPOが存在し、機能している。政権政党が表現の自由の領域に立ち入ることで民主主義がいかに脅かされるか、安倍政権は理解していないようだ。

放送局が倫理違反をしないよう努めるのは当然だ。だが、過ちは起きる。その際はBPOが厳しく検証し、自ら襟を正す。そんな放送界の自律機能をむしろ強化すべきだ。政権は無用な口出しを慎まねばならない。

読売新聞 2015年11月10日

NHK倫理違反 「やらせ」否定で問われた感覚

事実を正確に伝える。視聴者の信頼を回復するには、報道の基本に立ち返るしかない。

NHKの報道番組「クローズアップ現代」を巡り、放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会が、「報道番組で許容される範囲を逸脱し、重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。

BPOはNHKと民放が設立した第三者機関だ。番組内容に問題がある場合に調査し、自主的な解決を促す。その機関が、倫理違反とまで認定した意味は重い。

NHKは「職員向け研修の実施など、再発防止策を着実に実行する」とのコメントを出した。取材から番組制作に至るまで、全ての過程の適正化が急務である。

調査対象となったのは、昨年5月の「出家詐欺」に関する番組だ。BPOは、ブローカーとされる男性を多重債務者の男性が訪ね、相談する場面を問題視した。

番組では、2人が初対面のようにやりとりする様子を隠し撮り風に放映した。ところが、2人は旧知の仲で、相談場所は多重債務者の男性が事前に準備した部屋だった。撮影後、取材記者は2人と居酒屋で打ち上げまでしていた。

「事実を歪曲わいきょくした」とBPOが批判したのはもっともである。

NHKは今年4月末の最終報告で、「過剰演出」を認める一方、事実の捏造ねつぞうにつながる「やらせ」を否定した。これに対し、BPOは「NHKのやらせの概念は、視聴者の一般的な感覚とは距離がある」と疑問を呈した。

「深刻な問題を演出や編集の不適切さに矮小わいしょう化してはいないか」というBPOの指摘を、NHKは深刻に受け止める必要がある。

BPOは、この問題で自民党が4月中旬にNHK幹部から聴取したことについて、「放送の自由と自律に対する政権党の圧力だ」と非難した。法的権限もないのに放送局幹部を呼び出した行為は、明らかに行き過ぎだった。

NHKが最終報告を出した直後に、総務省が文書で厳重注意した点に関しても、BPOは「行政指導で政府が介入するのは、放送法が保障する自律を侵害する行為そのもの」と異例の批判をした。

これに対し、高市総務相は「放送法を所管する立場から必要な対応を行った」と反論している。

NHKの正確性に欠けた報道が、今回の事態を招いた。政治や行政の介入や干渉を排除し、表現の自由を確保するためには、放送事業者が、事実に基づく報道に徹することが求められよう。

産経新聞 2015年11月10日

BPO意見書 NHKはやらせを認めよ

いくらなんでも遅すぎるのではないか。それが最初の感想である。

放送倫理・番組向上機構(BPO)はNHKの報道番組「クローズアップ現代」で記者の指示によるやらせが指摘された問題で、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。

だが、対象となったのは昨年5月放送の番組であり、NHKが報告書で「やらせはなかった」と結論づけたのは、今年4月である。しかもBPO放送倫理検証委員会の意見書はやらせの有無について明言を避け、「NHKの『やらせ』の概念は視聴者の感覚と距離がある。問題を矮小(わいしょう)化することになっていないか」と疑問を呈するにとどまった。

これを受けてNHKは「指摘を真摯(しんし)に受け止める」とコメントしたが、まず進んで再検証し、やらせの事実を認めるべきだ。

問題の番組は、多重債務者がブローカーを介して出家儀式を経て戸籍名を変更し、融資をだまし取る手口を紹介した。記者と「債務者」は旧知の仲で、隠し撮りされた相談場面には記者も同席し、相談内容に補足の注文もつけた。

意見書によれば、撮影終了後に取材協力の礼を兼ねて「債務者」「ブローカー」と記者は、居酒屋で打ち上げを行った。

NHKは自局の放送ガイドラインに照らして「事実の捏造(ねつぞう)につながるやらせ」はなかったと強弁したが、世間一般ではこうした番組づくりをやらせという。

また意見書は、番組をめぐって総務相がNHKを厳重注意し、自民党が同局幹部から事情を聴いたことを「政権党による圧力そのもの」と指摘した。

政府や与党が番組介入に抑制的であるべきなのは、当然である。BPOは、言論と表現の自由を確保することを目的に組織された任意団体であり、その性格上、政治的圧力に敏感であることも、理解できる。

ただし、やらせを認めないNHKの姿勢や、これを迅速、明確に指摘できないBPOの存在自体が介入を招く一因ともなり得ることを忘れてはなるまい。

やらせや事実の捏造は、新聞にとっても無縁の存在ではない。一方で新聞は、放送局におけるBPOのような第三者機関を持たない。だからこそ記事には、より重い責任を負う。改めてその覚悟を、自らに課したい。

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