もんじゅ勧告へ 核燃サイクル継続へ正念場だ

朝日新聞 2015年11月05日

もんじゅ 廃炉にするしかない

原子力規制委員会がきのうの定例会で、高速増殖原型炉「もんじゅ」に関して、日本原子力研究開発機構(原子力機構)に運転を任せるのは不適当であり、新たな運営主体を明示するよう、所管する馳浩文部科学相に勧告する方針を決めた。規制委は半年をめどに勧告に対する回答を求める意向で、新たな運営主体が示されない場合は、もんじゅ自体を抜本的に見直すよう求める構えだという。

95年のナトリウム漏れ事故以降、20年にわたって安全を確立できなかった技術である。規制委は運営主体を代えることにもんじゅ存続の余地を残したが、原子力機構も、動力炉・核燃料開発事業団が改編された核燃料サイクル開発機構からもんじゅを引き継いだ経緯がある。

単なる組織替えで済むわけがなく、といって有力な後継組織も見当たらない。安倍政権は、もんじゅの廃炉を決めるべきだ。福島第一原発事故の反省から生まれた独立委員会である規制委が初めて勧告に踏み切り、既存の運営主体に任せられないとした判断は重いはずである。

もんじゅは12年に約1万点の機器の点検漏れが発覚、13年5月には規制委から運転再開準備を禁止する保安措置命令も受けている。これまでの保安検査で、8回にわたって保安規定違反を指摘された経緯もある。原子力機構に任せるのは不適当だ、との規制委の判断は当然だろう。

もんじゅは、電力会社が抱える通常の原発と異なり、冷却材にナトリウムを使う。ナトリウムは水分と激しく反応する性質があり、取り扱いが難しい。

理論的には、原発の使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムをもんじゅで燃やせば、燃やしたより多いプルトニウムが得られるのだが、ナトリウム技術の習熟はまだ途上。漫然と延命していては緊張感が薄れ、安全は危うくなる。

安全面での懸念に加えて、もんじゅの必要性自体も薄れている。ウラン価格は安値で安定しており、高速増殖炉を開発する経済的な理由はない。また、原発事故後、徐々にではあっても国産である再生可能エネルギーも育ってきている。

さらに財政難を考えれば、維持費だけで年に約200億円かかり、実用化のめども必要性も疑わしい技術を抱え続けることへの疑問がぬぐえない。すでに先進国の多くは開発から撤退している。

もんじゅは、廃炉にするしかない。その決断こそが、規制委勧告への回答であるべきだ。

読売新聞 2015年11月05日

もんじゅ勧告へ 核燃サイクル継続へ正念場だ

核燃料サイクル事業は日本のエネルギー政策の重要な柱だ。その継続のためには、体制の立て直しが急務である。

高速増殖炉「もんじゅ」の運営主体である日本原子力研究開発機構について、原子力規制委員会が「十分な能力がない」との判断を示した。

監督官庁の文部科学省に対しては、半年をメドに別の運営主体を探すよう勧告することを決めた。新たな運営主体が見つからない場合には、もんじゅの在り方を抜本的に見直すことを求める。

一般の原子炉とは異なり、もんじゅは、ナトリウムを冷却材に使う特殊な炉だ。新たな担い手を探すのは容易ではあるまい。

規制委の勧告決定は、廃炉の可能性を含めて、文科省に厳しい対応を迫る内容と言えよう。

もんじゅは1994年に初臨界を達成した。だが、95年にナトリウム漏えい事故が起きた後は、ほとんど運転できていない。

運転再開の準備中だった2012年11月、立ち入り調査した原子力規制庁は、5万点近くある機器のうち、約1万点の点検期間の設定などが適切ではないと指摘した。規制委は13年5月、運転準備作業の停止を命じた。

その後も、点検の不備が相次いで問題視され、現場の技術陣の対応も後手に回った。

原子力機構の対処能力に問題があることは否定できまい。規制委が「原子力機構は改善すると説明してきたが、結果が伴わない」と批判したのは、無理もない。

事態を改善できなかった文科省の責任も極めて重い。

政府は、昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、核燃料サイクルの推進を改めて掲げた。政策を変更すれば、将来にわたる原子力発電の有効活用が困難になると判断したためだ。

もんじゅについては、放射性廃棄物を効率良く燃やす性能などを試験するために不可欠な原子炉と位置付けている。

今回の事態は、基本計画に綻びを生じさせかねない。菅官房長官は記者会見で、「文科省が速やかに解決すべきだ」と述べたが、政府として、立て直しに向けた打開策を幅広く検討すべきだ。

もんじゅ建設時の技術陣の多くは既に退職している。現在の苦境は、技術を維持・継承していくことの重要性を物語る。規制委も「技術の劣化」が、事態を深刻化させているとの見解を示した。

原子力に携わる人材の育成策も強化せねばなるまい。

産経新聞 2015年11月06日

高速増殖炉 まず人と組織を立て直せ

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)に関する勧告が、原子力規制委員会から出されることになった。

もんじゅの運営主体の変更を求める厳しい勧告だ。機器の点検漏れなど保守管理の基本が守れない日本原子力研究開発機構には、運転を任せられないと判断された、お粗末な結果である。

もんじゅは、発電開始から間もない平成7年12月にナトリウム漏れ事故を起こすなどして、この20年間、停止状態のままだ。その間も毎年、100億から200億円の維持費を要し、建設費と合わせて約1兆円が投じられている。

どうして、成果を出せないまま廃炉も視野に入り得る事態を迎えることになったのか。最大の原因は国に大きく依存する組織にありがちな無責任体質であろう。

その連鎖が「失われた20年と1兆円」を生んだ。旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の時代にまで遡(さかのぼ)り、政府自らの、旧科学技術庁や現文部科学省を含めた関係機関の組織統治の厳しい検証が不可欠だ。納税者たる国民に対する責任であり、義務である。

規制委から近く勧告を受ける文科省は、原子力機構に代わる運営主体を探さなければならないが、一体、誰が引き受けるのか。もんじゅの設備は、老朽化が心配される状態だ。新たに予算と時間を投入しても、目覚ましい結果を期待するのは無理だろう。

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