◆慰安婦問題を将来世代に残すな◆
歴史認識や領土問題を巡る対立状況を打開し、「未来志向」の日韓関係を再構築する契機となるのだろうか。
安倍首相がソウルで韓国の朴槿恵大統領と初めて会談した。安全保障、経済、人的交流など様々な分野で日韓協力を強化することで一致した。
日韓首脳会談の開催は、約3年半ぶりだ。両国関係の停滞の主たる原因は韓国側にある。
きっかけは、2012年8月の李明博大統領の竹島訪問と天皇陛下への謝罪要求だ。朴氏が、首脳会談を開催する前提条件に慰安婦問題の解決を掲げ続けたことが、それに拍車をかけた。
◆朴氏に煽られた「嫌韓」
他国要人の前で日本を批判する朴氏の「告げ口外交」や、頑なな反日姿勢も、日本国民の「嫌韓」感情を煽る悪循環を招いた。
解決が困難な懸案を抱えていても、大局的見地に立ち、2国間関係全体に悪影響を与えないようにするのが本来の外交の役割だ。
歴史認識などで深い溝があっても、建設的な協力関係を築くため、日韓双方が努力する必要がある。
慰安婦問題について、首脳会談では、今年が国交正常化50周年の節目であることを念頭に、できるだけ早期の妥結を目指し、協議を加速することで一致した。だが、その妥結内容や時期は全く見通せない。
朴氏は「被害者が受け入れ、国民が納得できる水準で、速やかに解決されねばならない」と語った。元慰安婦への補償を求めているなら、何が法的根拠なのか。しかも、解決の判断を元慰安婦らに委ねる姿勢は無責任ではないか。
安倍首相は、「将来世代に障害を残すことがあってはならない」と指摘した。戦後70年談話で、次世代に「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と強調したのと軌を一にするものだ。
具体的な議論は、外務省の局長協議で行われるが、日韓双方の世論を背負って、妥協点を見いだすのは容易ではあるまい。
◆女性基金をどう見るか
請求権問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。さらに日本は、アジア女性基金を設立し、首相のお詫びの手紙とともに「償い金」を韓国の元慰安婦61人に支給した。
だが、韓国では元慰安婦の支援団体が受け取りに反対し、後味の悪い結果となった。朴氏は、このことをどう評価するのか。
韓国側が求める追加措置には、日本世論の抵抗が強い。何らかの措置を取るにしても、それが最終決着だとの韓国の保証が要る。
朴氏が真剣に問題を解決したいなら、日本に一方的な譲歩を要求するのでなく、韓国が何をするかを明確にすべきだ。例えば、在ソウル日本大使館近くの慰安婦像の撤去は、その入り口となろう。
安倍首相は会談で、日本産水産物に対する韓国の輸入規制を早期に解除するよう求めた。
日本の出荷は、放射性物質が基準値以下の水産物に限られ、韓国側の調査でも裏付けられた。韓国の「国民の安全を考慮した措置」との主張は科学的根拠を欠く。
韓国は、世界貿易機関の紛争処理小委員会の結論を待たず、輸入規制を撤廃すべきだ。
環太平洋経済連携協定(TPP)については、朴氏が、韓国が参加を決めた場合は、日本の協力に期待すると表明した。首相は、韓国の参加の検討結果を見守りたいとの考えを示した。
前日の日中韓首脳会談でも、自由貿易協定(FTA)交渉の加速で一致している。10月のTPP交渉の大筋合意が、未参加の中韓両国に通商戦略の見直しを迫っているのは間違いあるまい。
◆南シナ海で連携したい
北朝鮮の核開発問題について、日韓両首脳は、非核化に向けた行動を引き出すため、日米韓が緊密に連携する方針を確認した。日本人拉致問題に関して日韓が協力することでも一致した。
首相は、南シナ海での中国による岩礁埋め立てと軍事拠点化について「国際社会共通の懸念事項だ」と問題提起した。「開かれた自由で平和な海を守るため、韓国や米国と連携したい」とも述べた。
朴氏は、9月の中国の軍事パレードに出席するなど、経済面だけでなく安全保障面でも中国への傾斜を強めている。この動きには、米国も不信感を隠さない。
中国の力による現状変更を許さないためには、日米韓の安保協力の強化が欠かせない。日米両国は、韓国の対中傾斜の是正を粘り強く促すことが大切だ。
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