日中韓首脳会談 東アジア安定へ対話を重ねよ

朝日新聞 2015年11月08日

中台首脳会談 問われる中国の姿勢

中国と台湾は、かつて戦火を交え、互いに正統政権と認めぬ関係が66年続いている。その首脳同士が初めて会談した。

双方がシンガポールに足を運び、相手を先生と呼び、敬意を表して向き合った。歴史的な一歩である。

問題は、この雰囲気を今回限りで終わらせず、持続できるかどうかだ。双方の指導層に、中国国民と台湾住民も含めた真の和解をめざす責任があるが、とりわけ中国側の振る舞いが関係の行方を左右するだろう。

会談では、中国の習近平(シーチンピン)国家主席、台湾の馬英九(マーインチウ)総統ともに「一つの中国」に言及した。中国とは「中華人民共和国」か、「中華民国」かは棚上げし、中国は一つであって台湾もその一部だ、という考え方を指す。

習主席には、悲願である台湾統一に向け、確かな足がかりにする意図があろう。馬総統は、台湾の尊厳を示して国民党の成果としたかったはずだ。

だが、台湾では来年の総統選で、政権が国民党から民進党に代わる見通しが強まっている。民進党は「台湾は中国とは別の主権独立国家」とする立場で、「一つの中国」を否定する。

そこで習政権はこの会談により「一つの中国」の原則を固定化し、対話継続に向けて民進党に原則の受け入れを迫る狙いがあるとみられている。

民進党にも現実を見すえる応分の責任があるとしても、習政権が露骨に国民党と異なる対応をとるのは狭量にすぎる。国民党であれ民進党であれ、公正な選挙で選ばれた台湾の指導者と誠実に対話するべきだ。

習政権が原則を振りかざして話し合いを拒むようでは、台湾の人心を得ることは難しい。

ただでさえ台湾では中国との心理的距離が広がっている。中国の経済は発展したが、民主化の兆しがなく、習政権は人権無視の姿勢を変えない。

中台の経済関係は深まったが、独裁政治と闘って自由を勝ち取った台湾の人々にとって、いまの中国は統一の相手とするには遠い存在なのだ。

しかも武力による台湾統一の選択肢を捨てず、1500発前後のミサイルを対岸で構えている。習主席は「台湾に向けたものではない」と説明したというが、東アジアの不安定要因であることに変わりはない。

今後の中台関係を占ううえで問われるべきは台湾以上に、中国の姿勢である。力や威圧ではなく、対話によって平和的な共生の関係を築く。それは台湾だけでなく、アジアの各国が中国に望む行動である。

読売新聞 2015年11月08日

中台首脳初会談 急接近は地域安定に役立つか

1949年の分断後初めて、中国と台湾のトップが直接顔を合わせた。歴史的な会談である。

互いに相手の主権を認めていない中台の急接近が、東アジアの平和と繁栄にどんな影響を与えるのか。慎重に見極めねばならない。

中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで会談し、「一つの中国」の原則を中台がそれぞれ独自に解釈するという「92年合意」を再確認した。

中台関係について習氏は、「双方が共に努力し、『92年合意』を堅持し、正しい方向に発展し続けるよう望む」と強調した。馬氏も、「最も平和で安定した段階にある」と現状を高く評価した。

中国は、首脳会談を将来の中台統一の布石と位置付ける。台湾問題を主導する姿を国内外に誇示する習氏の計算もうかがえる。

来年1月の台湾の総統選では、8年ぶりの政権交代の可能性が強まっている。世論調査では、「独立」志向の最大野党・民進党の候補が、対中融和を進める与党・国民党候補を大きくリードする。

習氏は、国民党を側面支援したい。馬氏は、安定した対中関係を有権者に訴え、巻き返しを図りたい。首脳会談の実現は、両者の思惑が一致した結果である。

来年5月に退任する馬氏には、中国首脳との対等な会談を政治的な「遺産」にする意図もあろう。だが、国民党の支持低迷は、2008年の馬氏就任以来、露骨になった経済面の性急な対中接近・依存が招いたことは否めない。

台湾住民には、中国にみ込まれるとの不安が広がる。中台緊密化の恩恵が富裕層にしか及んでいない、との不満も根強い。

住民の圧倒的多数は、「中台統一」でも「独立」でもない、「現状維持」を望んでいる。首脳会談が国民党に有利に働くとは限らない。逆効果となる恐れもある。

共同声明の見送りは、そうした事情に配慮したためだろう。

南シナ海を巡る米国との対立が激しくなる中、習氏には、首脳会談を通じて、台湾と日米を離間する狙いが透けて見える。

習氏は今回、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への台湾の加盟を歓迎すると表明した。創設メンバーから除外した台湾への配慮を直接示したのも「取り込み策」の一環と言える。

中国は、沿岸部に大量の台湾向け弾道ミサイルを配備し、航空・海上戦力でも台湾を圧倒する。台湾海峡の安定は、日本の安全保障にもかかわる重要課題だ。

産経新聞 2015年11月08日

中台首脳会談 「現状維持」へ懸念残した

台湾の馬英九総統と中国の習近平国家主席との初会談は「一つの中国」の原則を確認した。

問題は、それが中台双方が口にする台湾海峡の平和に資するものとなるかどうかである。

とくに、習主席が会談のなかで、米国の関与を排す姿勢をとり、独立派を牽制(けんせい)したことは、今後の中国の影響力増大を強く懸念させる。

中国は台湾統一のためには、武力行使も辞さない原則を掲げていることを忘れてはならない。

台湾海峡の平和は、日本をはじめ東アジアの安全保障に直結する。中国が台湾との関係を平和的に進展させるというのであれば、国際社会に対し、台湾への武力行使の可能性を明確に否定することが先決である。

両首脳が確認した「一つの中国」の原則は「92年コンセンサス」によるもので、「一つの中国」の解釈は中台それぞれに委ねられるとされる。独立志向が強い野党、民主進歩党(民進党)が存在を認めないなど、台湾内部でも議論が分かれる問題だ。

馬総統は「92年コンセンサスを固め、平和の現状を維持したい」と述べ、習主席も原則維持の重要性を強調し、民進党を牽制する姿勢をみせた。

会談で馬総統は台湾に向けた中国の弾道ミサイルの後退を求めたが、習主席は「台湾に向けられたものではない」とかわすなど具体的な問題への回答を避けた。

習主席の姿勢をみる限り、台湾との平和的な関係進展について言葉通りには受け取れない。「一つの中国」の原則も今後、中国側に都合のいい解釈で押し切られないか、懸念はぬぐえない。

台湾では、馬総統が進めた急速な対中接近の結果、中国に経済的にのみ込まれ、自らの将来をめぐる議論も中国に主導権を握られるとの警戒論が高まっている。

昨年の地方選で与党の中国国民党が大敗したのは、台湾の民意の表れだ。国民党は来年1月に予定される総統選でも、民進党に大きくリードされている。この会談を行った馬総統の判断は厳しく問われよう。

共産党の一党独裁体制をとる中国と台湾との間で、どのような「一つの中国」を構築できるのだろうか。南シナ海などで強引な対外拡張路線を鮮明にする中国に対する警戒を緩めてはなるまい。

朝日新聞 2015年11月05日

中台会談へ 台湾の民意を忘れずに

共産党との内戦に敗れた国民党が台湾に移り、中国が分断状態になったのは1949年のことだ。今では海峡をまたぐ貿易や人の往来は盛んになったが、軍事的な緊張は続いている。

そんな中で、中台の首脳が初めて会談することが決まった。近年まで世界で最も危うい発火点の一つに挙げられてきた台湾海峡問題の歴史の中で、特筆すべき出来事となろう。

武力ではなく、対話によって平和的共存をめざす一歩になるよう願いたい。それが国際社会の共通した期待である。

会談の意義を高めるうえで、とりわけ忘れてならないのは、台湾の世論への配慮である。

国民党の馬英九(マーインチウ)総統は、支持率が低いまま、来年5月に任期を終える。1月の総統選では台湾独立志向の民進党が勝利する可能性が高い。

そうした敏感な時期に会談を決めたことに、台湾社会で反発があるのは無理からぬ面がある。会談をするには「住民の支持」が必要だ、と言ってきたのは総統自身だったが、その支持形成の努力は乏しかった。

今からでも台湾世論に対し、会談に臨む総統の真意を丁寧に説くべきだ。会談後もきちんと透明性をもって説明する義務があるのはいうまでもない。

これまでを振り返れば、台湾の民意は微妙に揺れてきた。

中台交流が民間窓口を通じて始まったのが93年。以降、台湾企業の進出が中国の経済成長を牽引(けんいん)した。いまの馬政権下で経済関係がさらに強まり、中台双方に利益をもたらした。

一方で、中国の影響力拡大への警戒感が強まり、昨年は中台サービス貿易協定をめぐり若者の反対運動が起きた。当初は支持された馬政権の対中融和策が、行き過ぎた接近と見られるように変化したのだ。

台湾世論の多くは中台の統一を嫌う一方、台湾独立を掲げて対中関係を壊したくはない、という現状維持を志向している。総統は、国民党が主導してこそ中台関係は安定する、とアピールしたいのかもしれないが、党派的な行動に走れば台湾社会の亀裂を深めかねない。

馬政権が会談では何ら協定を結ばず、声明も出さないと明言しているのは、そんな不安感をぬぐうためだろう。その配慮のうえにも重ねて、世論への説明責任を果たしてもらいたい。

長い対立の歴史をときほぐすには遠い道のりが必要だ。初会談は目先の成果よりも、双方が互いに敬意を払い、平和的な関係発展への針路を曲げない意思確認の場とするべきだ。

読売新聞 2015年11月03日

日韓首脳会談 「未来志向」への道のりは遠い

◆慰安婦問題を将来世代に残すな◆

歴史認識や領土問題を巡る対立状況を打開し、「未来志向」の日韓関係を再構築する契機となるのだろうか。

安倍首相がソウルで韓国の朴槿恵大統領と初めて会談した。安全保障、経済、人的交流など様々な分野で日韓協力を強化することで一致した。

日韓首脳会談の開催は、約3年半ぶりだ。両国関係の停滞の主たる原因は韓国側にある。

きっかけは、2012年8月の李明博大統領の竹島訪問と天皇陛下への謝罪要求だ。朴氏が、首脳会談を開催する前提条件に慰安婦問題の解決を掲げ続けたことが、それに拍車をかけた。

◆朴氏に煽られた「嫌韓」

他国要人の前で日本を批判する朴氏の「告げ口外交」や、かたくなな反日姿勢も、日本国民の「嫌韓」感情をあおる悪循環を招いた。

解決が困難な懸案を抱えていても、大局的見地に立ち、2国間関係全体に悪影響を与えないようにするのが本来の外交の役割だ。

歴史認識などで深い溝があっても、建設的な協力関係を築くため、日韓双方が努力する必要がある。

慰安婦問題について、首脳会談では、今年が国交正常化50周年の節目であることを念頭に、できるだけ早期の妥結を目指し、協議を加速することで一致した。だが、その妥結内容や時期は全く見通せない。

朴氏は「被害者が受け入れ、国民が納得できる水準で、速やかに解決されねばならない」と語った。元慰安婦への補償を求めているなら、何が法的根拠なのか。しかも、解決の判断を元慰安婦らに委ねる姿勢は無責任ではないか。

安倍首相は、「将来世代に障害を残すことがあってはならない」と指摘した。戦後70年談話で、次世代に「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と強調したのと軌を一にするものだ。

具体的な議論は、外務省の局長協議で行われるが、日韓双方の世論を背負って、妥協点を見いだすのは容易ではあるまい。

◆女性基金をどう見るか

請求権問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。さらに日本は、アジア女性基金を設立し、首相のおびの手紙とともに「償い金」を韓国の元慰安婦61人に支給した。

だが、韓国では元慰安婦の支援団体が受け取りに反対し、後味の悪い結果となった。朴氏は、このことをどう評価するのか。

韓国側が求める追加措置には、日本世論の抵抗が強い。何らかの措置を取るにしても、それが最終決着だとの韓国の保証が要る。

朴氏が真剣に問題を解決したいなら、日本に一方的な譲歩を要求するのでなく、韓国が何をするかを明確にすべきだ。例えば、在ソウル日本大使館近くの慰安婦像の撤去は、その入り口となろう。

安倍首相は会談で、日本産水産物に対する韓国の輸入規制を早期に解除するよう求めた。

日本の出荷は、放射性物質が基準値以下の水産物に限られ、韓国側の調査でも裏付けられた。韓国の「国民の安全を考慮した措置」との主張は科学的根拠を欠く。

韓国は、世界貿易機関の紛争処理小委員会の結論を待たず、輸入規制を撤廃すべきだ。

環太平洋経済連携協定(TPP)については、朴氏が、韓国が参加を決めた場合は、日本の協力に期待すると表明した。首相は、韓国の参加の検討結果を見守りたいとの考えを示した。

前日の日中韓首脳会談でも、自由貿易協定(FTA)交渉の加速で一致している。10月のTPP交渉の大筋合意が、未参加の中韓両国に通商戦略の見直しを迫っているのは間違いあるまい。

◆南シナ海で連携したい

北朝鮮の核開発問題について、日韓両首脳は、非核化に向けた行動を引き出すため、日米韓が緊密に連携する方針を確認した。日本人拉致問題に関して日韓が協力することでも一致した。

首相は、南シナ海での中国による岩礁埋め立てと軍事拠点化について「国際社会共通の懸念事項だ」と問題提起した。「開かれた自由で平和な海を守るため、韓国や米国と連携したい」とも述べた。

朴氏は、9月の中国の軍事パレードに出席するなど、経済面だけでなく安全保障面でも中国への傾斜を強めている。この動きには、米国も不信感を隠さない。

中国の力による現状変更を許さないためには、日米韓の安保協力の強化が欠かせない。日米両国は、韓国の対中傾斜の是正を粘り強く促すことが大切だ。

産経新聞 2015年11月06日

中台首脳会談 なぜ今なのか懸念拭えぬ

台湾の馬英九総統と中国の習近平国家主席が7日、シンガポールで会談する。1949年の中台分断後、初めての首脳会談となる。

だが台湾では、中台関係の現状維持を望む意見が多数派を占め、中国に急接近する馬政権下で、台湾の将来をめぐる議論が中国主導で進むことを警戒する声が高まっている。

台湾内部でも論争のある問題について、次の政権の手足を縛るような「会談」は妥当なのか。馬総統には慎重な姿勢を求めたい。

「アジアの火薬庫」と呼ばれた台湾海峡の緊張は、東アジアの安全保障情勢に直結する。会談自体は否定されるものではなく、菅義偉官房長官は「注視したい」と述べた。

留意すべきは、なぜこの時期に会談が実現したかである。

来年1月には台湾の総統選挙が控えている。中国が、その直前に台湾とのトップ会談に踏み切る意図はなにか。

「中華民族の偉大な復興」を掲げる習氏にとり、中台統一の実現は悲願である。

会談では共同声明の発表や協定調印は予定されていないというが、馬総統との会談そのものに、台湾を中国に有利な政治交渉に組み込んでゆく狙いがあるのではないかとの懸念が拭えない。

朝日新聞 2015年11月03日

日韓首脳会談 本来の関係を取り戻せ

安倍首相と韓国の朴槿恵(パククネ)大統領による初の首脳会談がきのう、ソウルで実現した。

2人がそれぞれ、国を率いる政治トップに決まったのは3年も前のことだ。この間、一度も公式の会談はなかった。

隣国でありながら異常な事態が続いたのは、戦時下に過酷な性労働を強いられた元慰安婦たちの問題をめぐる駆け引きのためだ。

問題の進展を確保した会談を望む朴氏に対し、安倍氏は「前提条件なし」を主張し続けた。ようやくその平行線を破って会談してみると、「早期妥結をめざして交渉を加速させていく」ことで一致した。

こんなごく当たり前の意思確認がなぜ、いまに至るまでできなかったのか。互いの内向きなメンツや、狭量なナショナリズムにこだわっていたのだとしたら、残念である。

2人には、この3年間で失われた隣国関係発展の機会を取り戻すべく、約束通り、積極的な協議を指示してもらいたい。

その際、双方が忘れてはならないことがある。慰安婦協議は国の威信をぶつけ合うのではなく、被害者らの気持ちをいかに癒やせるのかを最優先に考える必要があるということだ。

慰安婦の実態は、これまでの日韓での研究でかなりのことが明らかになってきた。それは、女性としての尊厳を傷つけた普遍的人権の問題である。

日本政府は、50年前の日韓協定により、法的には解決済みだと主張する。これに対して韓国側には、日本の法的責任の認定と国家賠償を求める声がある。

実際には、日韓両政府はこれまでの水面下での協議で、かなり踏み込んだ協議を続けてきた。

それらを踏まえて双方がいま認識しているのは、どちらか一方の主張をすべて貫くことはできず、双方が一定の妥協をして「第3の道」を探る以外にないという現状である。

今回の首脳会談は米国の後押しで実現したが、首脳同士が会ったからといって、万事上向くほど現在の両国関係は簡単ではない。一方で日韓ともに「このままではいけない」という意識が強いことも事実だろう。

首脳会談では、北朝鮮政策を含む安全保障問題や、韓国が環太平洋経済連携協定(TPP)に加わった場合の日本の協力なども話し合われた。

日韓は慰安婦問題の交渉を急ぎつつ、両国民がともに利益を高めるために協力していくという、隣国としての本来の姿を早く取り戻さねばならない。

読売新聞 2015年11月02日

日中韓首脳会談 東アジア安定へ対話を重ねよ

日本、中国、韓国は、東アジアの平和と繁栄に重い責任を持つ。歴史や領土を巡る対立を乗り越え、対話を重ねて、その役割を果たすべきだ。

安倍首相と中国の李克強首相、韓国の朴槿恵大統領がソウルで会談し、3か国協力を強化するとの共同宣言を発表した。約3年半ぶりに開かれた日中韓首脳会談を再び定例化し、来年は日本で開催することも確認した。

安倍首相は共同記者発表で、「3か国の協力プロセスの正常化は大きな成果だ」と指摘した。

首脳会談が実現した背景には、米国の韓国への働きかけや、中韓両国の経済停滞などがある。

3首脳は、自由貿易協定(FTA)交渉を加速させることで一致した。日米が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を意識したものだろう。

会談では、大気汚染対策や防災協力の強化などでも合意した。

3か国は環境、防災、観光など約20分野で閣僚級会合を開いている。実務的な協力を着実に進展させる中で、日中・日韓関係を改善させることが大切である。

李氏は会談で、歴史認識に関し「一部の国の間では深い理解が成り立っていない」と語った。日本を牽制けんせいした発言とみられる。

安倍首相は、戦後70年談話の内容を説明したうえで、「特定の過去にばかり焦点を当てるのは生産的ではない」と強調した。

共同宣言には「歴史を直視し、未来に向かう」と明記された。この原則を尊重し、未来志向で建設的な関係を構築すべきだ。

地域情勢では、北朝鮮の核開発を容認しない方針を改めて確認した。安倍首相は、北朝鮮による日本人拉致問題の解決を訴えた。

北朝鮮は、弾道ミサイル発射や核実験の実施を示唆している。日中韓が連携し、北朝鮮に効果的な圧力をかけねばならない。

安倍首相はその後、李氏と個別に会談し、日中が戦略的互恵関係を追求することで一致した。

両国は、様々な懸案を抱えているが、大局的見地から生産的な対話を続けねばならない。

安倍首相は、中国による南シナ海での人工島造成と軍事拠点化について、懸念を表明している。

米海軍は「航行の自由」を体現するため、人工島周辺で艦艇を航行させた。中国は反発している。だが、国際法に反し、力による現状変更を試みる中国側に非があるのは明らかである。

日本は米国と協調し、中国に自制を粘り強く促す必要がある。

産経新聞 2015年11月03日

日韓首脳会談 原則崩さず懸案にあたれ

安倍晋三首相と韓国の朴槿恵大統領との初の首脳会談が、ようやく実現した。

胸襟を開き、さまざまな課題を率直に語り合った割には、詳細な内容は公表されていない。

両首脳が2年半以上前に就任してから、一度も正式な会談が行われない異常な状態は脱した。関係改善の大きな一歩と位置付けようと、立場の違いを強調するのを避けたということだろう。

留意すべきは、まだ互いの主張を伏せざるを得ないような、もろい状態にあるということだ。

多くの課題で一気に前進を図るのは無理がある。とりわけ、歴史問題の決着を急ぐような、安易な取り組みは禁物である。

安倍首相は会談後、「さまざまな諸懸案」について、日本の主張を述べ、韓国側に対応を促したと説明した。具体的にどの課題でどのような方向性が示されたかは分かっていない。

そうした中でも明確にされたのは、慰安婦問題について、早期の決着に向けて交渉を加速するという一致点である。

首相は会談後、この問題で「将来世代に障害を残すことがあってはならない」と述べた。朴氏は会談の中で「韓国国民が納得できる形での解決」を求めている。

言うまでもなく、慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだ。日本側はその後も、アジア女性基金を通じた元慰安婦への償い金の支払いなどの対応をとってきた。

だが、韓国側は再三にわたって問題を蒸し返し、日本牽制(けんせい)のカードに使ってきた経緯がある。

日韓国交正常化50年という節目に、何らかの前進をみたいという姿勢は双方からうかがえる。日本の原則的立場を変えられないのは当然だが、曖昧な決着でまた火種を残すような解決は必要ない。

来年、日本で日中韓首脳会談が開催され、朴氏が来日する。歴史問題への固執は関係改善につながらないと説得を続けるべきだ。

両国が早急に話し合う必要があるのは、北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威や、中国の軍事的台頭で悪化する地域の安全保障環境への対応である。

双方の国益につながる問題であり、米国を交えた日米韓の枠組みを強化することで対処する必要性が増している。南シナ海情勢を含め、早急に協議すべきである。

朝日新聞 2015年11月02日

日中韓首脳 停滞抜けて再出発を

じつに3年半ぶりの首脳会談である。日本、中国、韓国の政治の歯車がかみ合わない不毛な現実から、今こそ抜け出さなければならない。

安倍晋三首相と中国の李克強(リーコーチアン)首相、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領がきのう、ソウルの大統領府で一堂に会した。3カ国の首脳会談は08年から毎年開かれていたが、日中、日韓関係の悪化に伴い、12年を最後に中断していた。

安倍首相は会談後の共同会見で「日中韓の協力プロセスを正常化させたことは大きな成果だ」と語った。だが現実には、成果をうたうのは尚早だ。3カ国の真の協力関係づくりは、やっと再出発したに過ぎない。

ビジネスや観光などでかつてない規模で人が行き交う時代に、政治トップの往来が止まり、それによって経済や民間の交流が妨げられてきた。まさに政治の怠慢と言うべき惨状であり、ようやく軌道に戻りつつあるのが実情だろう。

近隣外交は、日本の針路に決定的な意味を持つ。

たしかに日中韓の間には歴史認識や領土の問題が横たわり、波風が立ちやすい。だとしてもたびたび首脳会談が止まり、政府間でも民間でも交流を滞らせるようでは、いつまでも関係を成熟させることが出来ない。

日中韓の指導者は、歴史や領土の問題をあおり、ナショナリズムを国内向けに利用する振る舞いを慎むべきだ。日本としては、歴史を直視する姿勢を揺るぎなく継続し、わだかまりなく日中韓が協力できる環境を整えておくことが重要だろう。

中韓首脳も、日本との歴史を政治カードにするような行動は控え、理性的に互恵関係をめざす指導力を示すべきである。

その意味で3首脳が「歴史を直視し、未来に向かう」とし、会談の定例化を再確認したことには意味がある。

日本を含む環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意に、中韓の関心は強い。今回の共同宣言は、滞っている日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の加速を盛り込んだ。その言葉通り、着実に対話を進め、地域経済の成長力を高めたい。

北東アジアは今や世界で有数の経済力をもつ地域になりながら、政府間の連携だけが立ち遅れている。エネルギー、災害、環境、テロ対策など、協働を深めるべき課題は広範にある。

来年は日本が議長国であり、中韓両首脳が来日する予定だ。再開した3カ国首脳対話の灯を絶やさぬよう、日本は地域の信頼醸成の努力を率先し、責任を果たすべきだ。

産経新聞 2015年11月02日

日中韓首脳会談 真の「未来志向」はなお遠い…

約3年半もの間、中断していた日中韓首脳の交流が、再開されることになった。

安倍晋三首相、李克強首相、朴槿恵大統領による3カ国首脳会談は、会談の定例化と来年の日本開催で一致した。

だが、中韓首脳は日本を牽制するため歴史認識へのこだわりをみせた。中国が国際ルールを無視して実効支配を強める、南シナ海情勢への言及はなかった。

隣国どうしの協力は欠かせないが、悪化する安全保障環境の現実から目をそらしたままでは、共同宣言がうたう「未来志向」の実現など望めまい。

会談では北朝鮮に対し、非核化に向けた具体的行動を促すことで一致した。安倍首相は、拉致問題の解決に向けて、中韓両国の協力を求めた。

北朝鮮の核開発は差し迫った脅威であり、拉致問題は日本にとり最優先事項の一つだ。3カ国の枠組みは大いに活用できる。

一方、「未来志向」は「歴史の直視」が前提とされた。これからも3カ国首脳会談を日本牽制の場にしたいのだろうか。そのようないびつな関係で、真の協力など実現できない。

安倍首相が「特定の過去ばかりに焦点を当てる姿勢は生産的でない」と述べたのは当然である。

南シナ海情勢をめぐり、3カ国首脳会談の直前に米中の緊張が高まる事態が生じた。米国が「航行の自由」を守るため、人工島の12カイリ内に艦船を航行させた。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、人工島周辺は国際法上「領海」とはならないとフィリピンが訴えた問題で、本格審理入りを決定した。

国際社会がより強い関心を寄せている問題でありながら、当事者を含む3カ国首脳会談で取り上げなかったというなら、きわめておかしな姿ではないか。

さらに不可解なのは、その後に行われた日中首脳会談で「懸案の諸問題については、互いに内容を公表しない」とされたことだ。安倍首相は会談で、南シナ海問題についての懸念を伝達したとみられるが、なぜこれを伏せるのか。

中国は尖閣諸島周辺で公船の領海侵入を繰り返し、東シナ海ガス田の開発を一方的に進めている。国際法や主権の侵害に関する重大な懸念を内外に訴えない日本を、国際社会がどうみるかである。

産経新聞 2015年10月30日

日中韓首脳会談 南シナ海の討議を尽くせ

良き隣人関係を演出したいがために、論ずべき話題を避け、不当な振る舞いへの批判を抑えるようなことがあってはならない。

韓国での日中韓首脳会談は、米国による「航行の自由作戦」直後の開催となる。緊張を高める原因を作ったのは、南シナ海の岩礁を埋め立て、軍事拠点化を進めている中国であることは言うまでもない。

日米、米韓の2つの同盟関係は米国のアジア重視政策の要であり、東アジアの平和と安定の基軸をなす。

この機会に、安倍晋三首相は朴槿恵大統領とともに海洋覇権を追求する姿勢を改めるよう、中国の李克強首相に要求すべきだ。

米国の「航行の自由作戦」について、菅義偉官房長官は28日の会見で「支持」を表明した。それに先立つ安倍首相のコメントは「国際法にのっとった行動だと理解している」との表現だった。中国への配慮もあったのだろうか。

中国の行動に対しては、フィリピンなど周辺国も非難の声を上げている。日中韓、日中の首脳会談を通じ、安倍首相は中国の行動を明確に批判するかどうか。アジアの国々が注視していることを忘れてはならない。

懸念されるのは、韓国政府が態度を明確にしていないことだ。

オバマ米大統領が先の米韓首脳会談で、中国の国際規範に反する行為に「同じ声」を上げるよう朴氏を促した経緯もある。朴氏には地域の安全保障環境を見据えた現実的な対応を求めたい。

11月中旬には、日中韓の他、米国も加わるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や東アジア首脳会議が開かれる。これらの国際会議の場でも、力による現状変更の姿勢を変えない中国を問題視し、自制を求めていくことが重要となる。

3カ国首脳会談に向け、中国の王毅外相は歴史認識問題で中韓が共闘することを示唆し、共同文書に「歴史を直視」と明記することなどを目指しているという。

急速な軍拡で国際社会に懸念を与えている自らの現状こそ、中国が直視すべきものである。

本質的な問題の議論を避けるため、歴史問題を外交カードに用いることもやめるべきだ。そういう出方をするなら、安倍首相が事実に基づく主張で強く反論すべきは当然のことだ。

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