物価目標先送り 脱デフレへ政策の強化を

読売新聞 2015年11月01日

物価目標先送り デフレ心理払拭は道半ばだ

デフレ脱却を確実にするには、政府と日本銀行、企業が一体となった取り組みが欠かせない。

日銀は金融政策決定会合で、消費者物価の上昇率を2%にする目標の達成時期を、これまでの「2016年度前半頃」から「16年度後半頃」に先送りした。

一方で、追加の金融緩和は見送り、国債などを買い入れて年80兆円のペースで資金供給量を増やす現行政策の維持を決めた。

一時は前年比1%台まで高まった消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率は、原油安の影響などでマイナスに転じている。

市場関係者には、日銀が物価上昇目標の達成へ強い決意を示すために、追加緩和に踏み切るのではないか、との観測もあった。

だが、食品や衣料品の値上がりが相次ぐなど、原油価格の影響を除けば、物価の基調は上昇傾向を保っている。企業収益も好調で、景気は底堅く推移している。

日銀の黒田東彦総裁が「(物価低迷は)エネルギー価格下振れによるもので、物価の基調は着実に改善している」と追加緩和見送りを説明したのは、理解できる。

「異次元の金融緩和」の目的は、企業や家計に長年染みこんでいるデフレマインドを払拭し、経済を活性化させることだ。

「2%」という数字の早期達成に必要以上にこだわることなく、粘り強くデフレ克服を目指すことが肝要である。

目標達成を急ぐあまり、追加緩和を実施すれば、円安が進んで輸入物価が上がり、景気を冷え込ませる恐れもある。今回、日銀が金融政策を現状維持とした判断は、妥当と言えよう。

無論、日銀だけでデフレ脱却が実現できるわけではない。

政府は、成長力の強化に資する規制緩和などを断行し、企業の新しいビジネス展開を後押しする。企業も、高水準の賃上げを継続し、生産性を向上させる設備投資に積極的に取り組む。

官民による一連の努力の積み重ねを、好循環経済の実現につなげなければならない。

欧州中央銀行(ECB)は、景気下支えのための追加緩和実施を示唆した。米連邦準備制度理事会(FRB)は、雇用や物価を見極めつつ、ゼロ金利からの脱却のタイミングを計っている。

欧米の金融政策は、新興国を含めた世界経済に影響を与える。

日銀は、こうした状況も注視しながら、金融政策のかじ取りを慎重に進める必要がある。

産経新聞 2015年10月31日

物価目標先送り 脱デフレへ政策の強化を

日銀が2%の物価上昇率目標の達成時期を、従来の想定より半年遅い来年度後半ごろとした。

4月に続く先送りである。原油安などで物価が伸び悩んでいるためだというが、脱デフレを目指すアベノミクスが筋書き通りに進んでいない証左として、厳しく受け止めるべきである。

企業収益の改善を賃上げにつなげ、消費を盛り上げるという好循環がないまま、追加金融緩和で物価を押し上げても、強い経済の実現は難しい。政府と日銀が連携し、民間の前向きな経営を促す環境を整えることが肝要である。

日銀は30日の経済・物価の展望リポートで、来年度の経済成長率と物価上昇率をそれぞれ下方修正した。これを踏まえて2%目標の達成時期を先送りした。

消費者物価指数は2カ月連続で下落している。原油安の影響を除けば、物価の基調は着実に高まっているというのが日銀の見立てだが、とても楽観はできまい。

日銀は2年半前に量的緩和を始めたとき、2年程度で2%を達成するとした。それがここまで遅れたのは、経済が力強い成長軌道を描けていないためだ。

消費は伸び悩んだままで、中国の景気減速などの懸念も大きくなっている。日銀は景気や物価がさらに下ぶれしないかどうかを見極め、これ以上、目標達成が遅れないのかについて、明確に説明を尽くさねばなるまい。

一方、市場の一部が期待していた追加緩和は見送られた。物価目標の早期達成を焦って、一段の緩和に踏み切る局面ではないという判断からだ。

追加緩和で円安が進めば食料品などの輸入物価が上昇し、消費をさらに冷え込ませかねない面もある。黒田東彦総裁は、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を実施するとしているが、マイナスの影響も踏まえつつ、引き続き、その是非について慎重に検討してほしい。

無論、経済再生は金融政策だけで果たせるものではなく、政府の役割は極めて重要である。異次元緩和で円安株高が進んだが、それが実体経済の成長につながらないのは、政府の成長戦略が十分な効果をあげていないためである。

民間企業の設備投資を促す税制の見直しや規制緩和などを通じて民需をいかに喚起していくか。そのための手立てを早急に強化すべきなのは言うまでもない。

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