高校生政治参加 校外の活動にも目配りが要る

朝日新聞 2015年11月01日

高校生と政治 べからず集は逆効果だ

選挙権の年齢が18歳以上になるのを受け、文部科学省が高校生の政治活動を一部認める通知を出した。

政治活動は、憲法が保障する表現の自由に根ざした権利だ。学校は、生徒が政治を語り、行動する自由を尊重することを原則にすべきである。

旧文部省は1969年の通知で高校生の政治活動を「国家・社会としては行わないよう要請している」として規制した。高校生が当時、安保闘争やベトナム反戦運動で学校の封鎖などをした背景があった。

それに対し、今回の通知は、高校生が「国家・社会の形成に主体的に参画していくことがより一層期待される」とした。

およそ半世紀ぶりの転換だ。

すでに高校生は最近も安保法制に関する集会に加わったり、デモをしたりしている。見直すのが遅すぎたともいえよう。

ただ、新しい通知には禁止や規制があまりに多い。

校内の活動は原則として禁じた。認めたのは放課後や休日の校外での活動だけだ。学業に支障がある場合は、禁止も含めた指導を求めている。

授業以外の生徒会、部活動などでの政治活動も禁止とした。

生徒会が「平和宣言」を出したり、新聞部が原発政策の記事を書いたりすると、校長から待ったがかかる可能性もある。

そもそも政治活動の定義が難しい。「特定の政党や政治的団体への支持や反対を目的として行われる行為」というが、集会や勉強会なども、とらえ方次第で禁止の対象になるだろう。

これでは政治社会について考えたり論じたりすることを促すのではなく、むしろ逆効果になりかねない。規制で縛る「べからず集」なら出す意味がない。旧通知の廃止だけでよいのではないか。

問われるのは、学校がどう指導するかだ。

学校は教育基本法で、政治的中立が求められている。だからといって、生徒の動きに厳しく口を出し制限すれば、教育の場から政治が遠ざけられてきたこれまでの状況は変わらない。

今の高校では政治を語る文化が消えている。学校は社会から閉ざされた空間ではない。教員は生徒と向き合い、相談に乗り、活動を後押ししてほしい。

地域や保護者も学校を萎縮させず、生徒の成長のために協力してもらいたい。

選挙権年齢の引き下げは、政治の判断ができる「大人」として、18歳を社会に迎え入れるのが狙いのはずだ。規制ばかりでは高校生が市民に育たない。

読売新聞 2015年10月30日

高校生政治参加 校外の活動にも目配りが要る

新たな通知を、高校生の主体的で節度ある政治参加につなげたい。

文部科学省が高校生の政治活動に関する通知を46年ぶりに見直した。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられるのに伴う措置だ。

文科省は、学校の内外を問わず、高校生の政治活動を一律に禁じてきた。旧通知が出された1969年は、激化した大学紛争が高校にまで広がり、生徒による学校封鎖や授業ボイコットなどの混乱が生じた時期だった。

これに対し、新通知は、放課後や休日に校外のデモや集会に参加することを原則容認した。時代状況が変わる中で、通知を見直すのは理解できる。

高校生が自らの判断で政治活動に加わって、課題を感じ取る体験を通じ、有権者としての意識が醸成される面はあろう。

ただし、高校生はあくまで学業第一であるべきだ。校外の政治活動が容認されるにしても、そこには一定の制限が求められる。

デモや集会への参加が、警備活動の妨害など暴力行為に発展する事態はあってはなるまい。政治活動に熱中するあまり、学業がおろそかになっては本末転倒だ。

このような場合、新通知が政治活動を制限・禁止するよう、学校側に要請したのは当然である。

生徒の校外の行動を学校がすべて把握するのは難しい。通知の趣旨を保護者や地域住民にもきちんと説明し、連携して目配りすることが欠かせない。

校内の政治活動に関して、新通知はこれまでと同様、授業中はもとより、生徒会や部活動の時間も含めて禁止すると、改めて明記した。妥当な内容だ。

生徒会や部活動は、生徒たちが自主性や協調性を育む貴重な教育活動でもある。生徒会の場を利用して政党のビラを配る。部活動のミーティングで特定の政党への支持を訴える。こうした行為が不適切なのは明らかだろう。

主権者教育を充実させる観点から、今後、高校生が政治課題について討論する機会は確実に増える。例えば、生徒会主催で討論会を開くケースが想定される。

その場合、大切なのは、特定の政治的主張を取り上げるのではなく、多様な意見が交わされるようにすることだ。安全保障法制や原子力発電所の再稼働など世論を二分するテーマでは特に重要だ。

指導にあたる教師の役割は大きい。自身の主義主張を押しつけることは厳に慎み、中立・公正な立場で生徒に接してもらいたい。

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