辺野古移設 分断誘う施策は慎め

朝日新聞 2015年10月30日

辺野古、本体工事着手 埋め立て強行は許されぬ

政府はいつまで、沖縄に差別的な歴史を強いるのか。

米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古で政府は、埋め立ての本体工事に着手した。

新基地建設に「NO」という多くの沖縄県民の声に耳を傾けようとせず、一連の手続きを強行する安倍政権の姿勢に、深刻な疑問を感じざるを得ない。

沖縄県民の人権と民意がないがしろにされている。

同時に、沖縄という一地域に過度の負担を押しつける、この国のあり方が問われている。

■沖縄の「NO」の理由

政府に改めて求める。工事を速やかに中止し、県と話し合いの場をもつべきだ。

いま一度、沖縄県民の心情に寄り添ってみたい。

太平洋戦争末期、沖縄は県民の4人に1人が犠牲になる痛ましい地上戦を経験した。本土防衛の「捨て石」とされたのだ。

その沖縄は戦後、平和主義や基本的人権を保障した日本国憲法から隔絶された。米軍統治のもと、「銃剣とブルドーザー」で土地を奪われ、強権的な支配のなかで米軍基地が広がる。

念願の本土復帰から43年。今なお、国土の0・6%の沖縄に全国の73・8%もの米軍専用施設を抱えている。

戦後70年たつのに、これほど他国軍の基地が集中する地域が世界のどこにあろうか。度重なる事故や犯罪、騒音などの基地被害に脅かされ続けてもいる。それが沖縄の現実である。

それでも、翁長雄志知事は日米同盟の重要性を否定していない。抑止力で重要な米空軍嘉手納基地の返還も求めていない。

こうした歴史をたどってきた沖縄に、さらに「新たな基地建設」を押し付けようとする。そんな政府の姿勢に「NO」の声を上げているのだ。

辺野古に最新鋭の基地が造られれば、撤去は難しい。恒久的な基地になりかねない。

■民意に耳を傾けよ

それに「NO」を告げる沖縄の民意は、昨年の名護市長選、県知事選、総選挙の四つの小選挙区で反対派が相次いで勝利したことで明らかである。

政府にとって沖縄の民意は、耳を傾ける対象ではないのか。着工に向けた一連の手続きにも、強い疑問を禁じ得ない。

翁長知事による埋め立て承認の取り消しに対し、沖縄防衛局は行政不服審査制度を使い、同じ政府内の国土交通相が取り消し処分の執行停止を認めた。

この制度はそもそも、行政機関から不利益処分を受けた「私人」の救済が趣旨である。防衛局は「私人」なのか。政府と県の対立を、政府内の国土交通相が裁くのが妥当なのか。公正性に大きな疑問符がつく。

政府は同時に、地方自治法に基づく代執行手続きにも着手し、知事の権限を奪おうとしている。その対決姿勢からは、県と接点を探ろうという意思が感じられない。

埋め立て承認の留意事項として本体着工前に行うことになっている事前協議についても、政府は「協議は終わった」と繰り返し、「終わっていない」という県の主張を聞こうとしない。

さらに政府は名護市の久志、辺野古、豊原の「久辺3区」に対し、県や市の頭越しに振興費を直接支出するという。

辺野古移設に反対する県や市は無視すればいい、そういうことなのか。自らの意向に沿う地域だけが、安倍政権にとっての「日本」なのか。

この夏に行われた1カ月の政府と県の集中協議も、結局は、県の主張を聞き置くだけに終わった。その後、政府が強硬姿勢に一変したことを見れば、やはり安保関連法を通すための時間稼ぎにすぎなかったと言わざるを得ない。

■日本が問われている

「普天間飛行場の危険性を除去する」。政府はいつもそう繰り返す。しかし、かつて米国で在沖米海兵隊などの整理・縮小案が浮上した際、慎重姿勢を示したのは日本政府だった。

96年の普天間返還の日米合意から19年。本来の目的は、沖縄の負担軽減のためだった。

そのために、まず政府がなすべきは、安倍首相が仲井真弘多(ひろかず)・前知事に約束した「5年以内の運用停止」の実現に向けて全力を傾けることではないか。

米国は、在沖海兵隊のグアム移転や、ハワイ、豪州などへの巡回配備で対応を進めている。

その現状を見れば、「辺野古移設が唯一の解決策」という固定観念をまずリセットし、地域全体の戦略を再考するなかで、代替施設の必要性も含めて「第三の道」を模索すべきだ。

ひとつの県の民意が無視され続けている。民主主義国として、この現実を見過ごすことはできない。

日本は人権を重んじる国なのか。地域の将来に、自分たちの意思を反映させられる国なのか――。

私たちの日本が、普遍的な価値観を大事にする国であるのかどうか。そこが問われている。

読売新聞 2015年10月31日

辺野古工事着手 基地負担軽減を着実に進めよ

米軍普天間飛行場の辺野古移設の本質は、現飛行場の危険性の除去と、周辺住民の基地負担の軽減である。「新基地」の建設ではない。

この目的に向け、政府は移設を着実に進めるべきだ。

防衛省が辺野古での埋め立て本体工事に向けた作業に着手した。陸上に資材置き場を整備し、年明けに海上作業に入る。2022年度以降の移設完了を目指す。

石井国土交通相は、沖縄県の埋め立て承認取り消しの執行停止に続き、地方自治法に基づく代執行に向けて、県に是正勧告した。

沖縄県は、勧告を拒否する方針だ。翁長雄志知事は「強権極まりない」と政府を非難した。

国交相は11月中にも高裁に提訴する。勝訴すれば、代執行により、承認取り消しを撤回する。前知事の埋め立て承認が正当である以上、関係法に基づき、移設作業の根拠を維持するのは当然だ。

今後、県が防衛省の設計変更などを拒否した場合も、代執行手続きが想定される。移設を完遂するためにはやむを得まい。

菅官房長官は、在沖縄米海兵隊の一部が移転する米領グアムを訪問した。米海兵隊幹部らと会談し、「沖縄の負担軽減に直結する大事な事業だ。目に見える形での協力を期待したい」と訴えた。

12年の日米合意で、海兵隊員約1万9000人のうち、約4000人がグアム、約5000人が米本土などに移転する。20年代前半に始まる予定だ。協定により、日本も費用を3割強負担する。

グアム移転を実現し、約1048ヘクタールに及ぶ県南部の施設返還計画を前進させることが重要だ。

米議会には、辺野古移設をグアム移転の前提条件とみなす議員が少なくない。民主党政権が移設を停滞させた際、グアム移転関連予算を削減したこともある。

翁長氏は、菅氏のグアム訪問を「パフォーマンス」と断じた。辺野古移設が頓挫すれば、沖縄全体の負担を大幅に軽減する海兵隊のグアム移転も滞りかねないことを認識しているのだろうか。

日米両政府は9月、在日米軍施設で環境汚染事故が起きた場合、自治体の立ち入りなどを認める新協定も締結した。返還予定地への事前立ち入りも認める内容で、日米地位協定の事実上の改定だ。

政府は、こうした基地負担軽減策を進めることが大切である。

その点、普天間飛行場の輸送機オスプレイの訓練を佐賀空港へ移転する計画が、地元の反発によって先送りされたのは残念だ。

産経新聞 2015年10月29日

辺野古の代執行 移設進める適法手続きだ

米軍普天間飛行場の辺野古移設問題で、政府は翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事による埋め立て承認取り消し処分を撤回する「代執行」手続きに入った。

また、石井啓一国土交通相は、公有水面埋立法を所管する立場から、取り消し処分を一時執行停止にした。

いずれも、沖縄を含む日本の安全保障を確保し、住宅密集地に隣接する普天間の危険性を取り除く適法な措置だ。これを受け防衛省沖縄防衛局は29日にも埋め立ての本体工事に着手する。

安倍晋三政権が移設への明確な姿勢を示した点を評価したい。

地方自治法は、国が知事に事務を託す「法定受託事務」に関するトラブルによって行政が停滞しないよう、代執行の仕組みを設けている。

知事による法定受託事務が法令に反し、放置すれば「著しく公益を害する」ときには、高等裁判所での判決を経て、所管閣僚が事務を行うことが認められる。

翁長氏は、国が進める辺野古移設に対し、政策的判断として反対している。だが、仲井真弘多(ひろかず)前知事による埋め立て承認を取り消し、対抗することは、法定受託事務からの逸脱にあたる。

代執行という字面から、政府による強権的な措置ととらえるのは誤りである。

安倍首相が翁長氏の取り消し処分について「違法だ。移設の目的は普天間の危険性除去であり、著しく公益を害する」と指摘したのはしごく当然だろう。

翁長氏は、石井国交相による取り消し処分の一時停止について、「内閣の一員として結論ありきだ」と批判している。だが、閣僚が内閣の方針に沿って判断することは何らおかしくない。

政府はなぜ辺野古移設を進めようとしているか。それは、沖縄を含む日本を脅威から守り抜くためだということを、翁長氏ら反対派には改めて考えてもらいたい。

南シナ海では米海軍が航行の自由作戦を始めた。だが、中国は国際法を無視して人工島の軍事拠点化を進める動きを止めない。東シナ海では、尖閣諸島の領有をねらっている。

米海兵隊の沖縄でのプレゼンスは、平和を保つ上で重要な役割を果たしている。辺野古移設の停滞が日米関係の揺らぎと映れば、同盟の抑止力は低下する。そうなってからの後悔は遅いのである。

朝日新聞 2015年10月28日

辺野古移設 分断誘う施策は慎め

米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けた埋め立ての本体工事に着手するための手続きを、政府が矢継ぎ早に進めている。

基地建設を急ぐあまり、行政としての公正さ、公平さを見失ってはならない。安倍政権は沖縄県民の分断を誘うような施策は、厳に慎むべきである。

政府は、名護市の久志(くし)、辺野古、豊原の「久辺(くべ)3区」と呼ばれる3地区の区長を首相官邸に招き、振興費を直接支出することを伝えた。

今年度分は3地区で総額3千万円程度で、防災備蓄倉庫の整備などに使うという。

ただ、区といっても東京23区のような自治体ではなく、町内会のようなものだ。区長は公職選挙法に基づく選挙で選ばれるわけではない。公金の管理や使途をチェックする議会もない。

政府は「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」が定める基地周辺対策費の活用を検討するという。だが、沖縄県や名護市が辺野古移設に反対だからといって、その頭越しに一部地域にだけ直接公金を支出するのは、税金の使い方として公平性、公正性を欠かないか。

そもそも、公金の配分が政治的意見の相違で差別されることがあってはならない。

政府が自らの意向に沿う地域だけに、自治体を通さずに公金を支出できる。そんなやり方が通用するなら、民主主義と地方自治は形骸化しかねない。

政府が近年、「基地と地域振興はリンクしない」と繰り返してきたのは何だったのか。

石井国土交通相はきのう、沖縄県の翁長雄志知事が行った埋め立て承認取り消しの効力を止めた。県と政府の対立を、政府の一員である国交相が裁く。その公平性、公正性に疑問がある中での判断だった。

政府はまた、県の取り消し処分を是正するため、地方自治法に基づく是正勧告・指示や代執行に向けた手続きにも入った。

これに対し、県もさらに対抗措置をとる構えだ。両者の対立は法廷闘争もにらみ、全面対決の様相である。

政府の進め方は、たび重なる選挙で辺野古移設に「NO」の意思を示した沖縄の民意を軽く見ていると思わざるを得ない。

そのうえに、今回の公金支出である。何よりも、県民の間に深い亀裂が生まれることが懸念される。

歴史を振り返れば、政府の公金支出は、基地の賛否で割れる沖縄を分断させる手段として使われてきた。

戦後70年を経てなお、分断策で沖縄を翻弄(ほんろう)してはならない。

読売新聞 2015年10月28日

辺野古代執行へ 誤った県の手続きは是正せよ

米軍普天間飛行場の辺野古移設の実現に向け、安倍政権が不退転の決意を示したと言えよう。

政府は、辺野古での埋め立て承認を代執行する手続きに入ることを閣議了解した。沖縄県の翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しについて、「違法な処分」として、是正・撤回させるためだ。

菅官房長官は、取り消し処分に関して「普天間飛行場の危険性除去が困難となり、外交・防衛上、重大な損害を生じるなど、著しく公益を害する」と強調した。

埋め立て承認に「法的瑕疵かしがある」とする翁長氏の判断の根拠とされた私的諮問機関の報告書には公平性や客観性が乏しかった。

辺野古移設が日本全体の安全保障に関わる問題である以上、政府の代執行手続きは妥当である。

都道府県への法定受託事務に関する代執行は初めてという。

石井国土交通相がまず、翁長氏に承認取り消し是正を勧告・指示し、応じなければ、高裁に提訴する。勝訴すれば、翁長氏に代わって取り消しを撤回する運びだ。

石井氏は、防衛省が申し立てていた翁長氏による取り消し処分の執行停止についても決定した。防衛省は、移設作業を再開し、近く本体工事に着手する。

沖縄県などは、国交相が防衛省の申し立てを審査することについて「同じ内閣の一員が審査することは不当だ」と主張する。

だが、石井氏は「国が公有水面を埋め立てる場合は、都道府県知事の承認を受ける。私人が埋め立てを行う場合と同様だ」と反論した。法律上の問題はあるまい。

翁長氏は、国と地方の争いを調停する総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を請求する方針だ。認められなければ、提訴する構えを見せている。

いずれにしても、政府と県の法廷闘争は避けられないだろう。

政府は、名護市の地元3区に対し、市を通さずに振興補助金を支給することを決めた。今年度は計3000万円程度で、防災用倉庫などの整備に充てるという。

地元3区は、キャンプ・シュワブに隣接し、基地負担が大きい。稲嶺進名護市長は移設に反対するが、3区には条件付きで容認する住民が多い。この事実は重い。

本来、こうした基地周辺住民の意見や要望が尊重されるべきなのに、従来は軽視されてきた。

政府が今年5月、地元3区との協議の場を設置したのは、辺野古移設を円滑に進めるための一つの環境整備として適切だろう。

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