南シナ海 各国共通の利益を守れ

朝日新聞 2015年10月28日

南シナ海 各国共通の利益を守れ

南シナ海は、あらゆる国の船に対して通航の妨げのない、開かれた海でなくてはならない。

それが、この海域をめぐる複雑な主権問題を考える際の出発点である。

米海軍のイージス駆逐艦が、南シナ海スプラトリー(南沙)諸島のスビ礁と呼ばれる岩礁の近くの海を航行した。

スビ礁は中国が実効支配し、大規模な埋め立てで滑走路を備えた人工島を建設している。

そこから12カイリ(約22キロ)以内、中国が領海だと主張する海をあえて通ったのは「航行の自由を示すため」と、米国防総省は説明している。

領海内であっても、軍艦の通航が、いわゆる「無害通航」なら、認めるのが国際ルールだ。事態をエスカレートさせず、説明通りの目的に沿うものなら、米国の主張は支持できる。

米軍は一昨年11月、中国が東シナ海に防空識別圏を設けた直後、予告なく爆撃機を飛行させた。これと同様、今回も行動によって意思表示をしたということだろう。

軍艦や軍用機の派遣は、決して穏やかな方法とは言えない。場合によっては不測の事態を招く恐れもある。今回は幸い、米中の軍艦が接触するような事態にはならなかった。両国には今後も自制が求められる。

中国外務省は「中国の主権と安全を脅かす」「地域の平和と安定を損なう」と米軍の行動に強く反発している。しかし、中国の主張には無理がある。

そもそも中国がこれまで南シナ海で続けてきた行動にこそ、問題があったからだ。

スビ礁は、もとは満潮時に水没する小さな岩礁だ。海洋法上は島と見なすことができない。それを埋め立てて人工島にしたうえ、12カイリ以内を領海とみなし、無害通航権のある米軍艦の通過を非難するというのは、二重三重に無理のある主張だ。

中国は南シナ海の大半の海域について歴史的な権利を持っていると主張しているが、スプラトリー諸島で7カ所も埋め立てをする行動は、他国から見て明らかに拡張主義である。

南シナ海は世界の貿易船舶にとって重要な航路だ。

その自由と安全は、米中はもとより東南アジア諸国、日本を含む各国共通の利益である。

改革開放後の中国は、広く世界に通商の相手を求めた結果、目覚ましい経済発展を遂げた。成長が鈍化した今こそ、なおさらそれが必要だろう。

他国との対立を招くことは、中国自身にとっても、決して得策ではないはずだ。

読売新聞 2015年10月29日

米艦南シナ海に 中国の軍事拠点化を許さない

南シナ海で力による現状変更を進め、既成事実化を図る中国への厳しい警告を意味しよう。

米海軍のイージス駆逐艦が、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で、中国が造成した人工島の12カイリ(約22キロ・メートル)内を航行した。

カーター米国防長官は「通常実施している作戦だ」と述べ、継続的に行う方針を表明した。

中国が「領海」と主張する海域で公海と同様に巡視することで「航行の自由」を体現し、アピールする作戦だ。国際社会の利益である海上交通路(シーレーン)を脅かす行為は容認しない姿勢を明確に示したことは評価できる。

中国は、岩礁埋め立てによる人工島造成や3000メートル級の滑走路建設など軍事拠点化を推進し、南シナ海を「中国の海」にしようとしている。米軍の有事介入を阻む「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略の一環でもある。

米艦が航行したスービ礁は、もともと満潮時に水没する暗礁だ。国連海洋法条約は、暗礁や人工島、沖合の施設はそれ自体の領海を有しないと定めている。

国際法に根拠のない9本の境界線「九段線」を設定し、「歴史の中で主権が形成された」という中国の主張には無理があろう。

中国の王毅外相が「米に軽率な行動を慎むよう促す」と反発したのは筋違いだ。「軽率な行動」を控えるべきは中国ではないか。

中国は、ミサイル駆逐艦などが米艦を「監視・追跡、警告した」という。軍部隊が危険な挑発に出ないよう強く自制を求めたい。

米国防総省は早くから艦艇航行を進言していたが、オバマ大統領は最終判断を先送りしていた。

9月の米中首脳会談で、埋め立てや施設建設などの停止を要求したのに対し、習近平国家主席が「中国の領土だ」とはねつけたのを見て、ようやく踏み切った。

オバマ氏は、習氏を説得できると過信していたのではないか。

米国は気候変動問題やテロ対策で中国と協力しているが、その独善的行動を見過ごす理由にはなるまい。偶発的な軍事衝突を防ぐ措置をとりながら、対中戦略を練り直すことが求められる。

菅官房長官は「開かれた、自由で平和な海を守るために国際社会が連携することは極めて大事だ」と語り、米国の艦艇派遣を支持した。フィリピンやオーストラリアも歓迎している。

日本は、米国や関係国と緊密に連携しつつ、南シナ海での中国の動きを警戒せねばならない。

産経新聞 2015年10月28日

航行の自由作戦 平和の海へ日米連携せよ

米国が中国に対する「航行の自由作戦」に踏み切った。

南シナ海で中国が「領海」と主張する人工島の周辺12カイリ内の海域を、米イージス駆逐艦が航行した。米哨戒機も上空を飛んだとみられる。

この作戦は国際法にもかなうものだ。何よりも中国の南シナ海支配を防ぐために欠かせない。

アジアの平和と秩序を守る意思を、米国が行動で示した意義は大きい。今後も人工島周辺での航行や飛行は随時、行うという。

安倍晋三首相は「国際法にのっとった行動であると理解している」と述べた。より明確に支持を表明すべきだろう。

中国は「主権と安全を脅かした」と反発している。だが、領海とは認められないのに、他国の自由な航行を妨げようとしてきた対応こそ、国連海洋法条約に反している。米軍への挑発や攻撃が許されないことは言うまでもない。強く自制すべきは中国の方だ。

中国は国際社会の抗議を無視して、スプラトリー(中国名・南沙)諸島の岩礁を埋め立て、主権が及ぶと称して軍事拠点化を進めてきた。「力による現状変更」の典型だ。放置すれば、南シナ海への支配力が増してしまう。

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