南シナ海で力による現状変更を進め、既成事実化を図る中国への厳しい警告を意味しよう。
米海軍のイージス駆逐艦が、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で、中国が造成した人工島の12カイリ(約22キロ・メートル)内を航行した。
カーター米国防長官は「通常実施している作戦だ」と述べ、継続的に行う方針を表明した。
中国が「領海」と主張する海域で公海と同様に巡視することで「航行の自由」を体現し、アピールする作戦だ。国際社会の利益である海上交通路(シーレーン)を脅かす行為は容認しない姿勢を明確に示したことは評価できる。
中国は、岩礁埋め立てによる人工島造成や3000メートル級の滑走路建設など軍事拠点化を推進し、南シナ海を「中国の海」にしようとしている。米軍の有事介入を阻む「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略の一環でもある。
米艦が航行したスービ礁は、もともと満潮時に水没する暗礁だ。国連海洋法条約は、暗礁や人工島、沖合の施設はそれ自体の領海を有しないと定めている。
国際法に根拠のない9本の境界線「九段線」を設定し、「歴史の中で主権が形成された」という中国の主張には無理があろう。
中国の王毅外相が「米に軽率な行動を慎むよう促す」と反発したのは筋違いだ。「軽率な行動」を控えるべきは中国ではないか。
中国は、ミサイル駆逐艦などが米艦を「監視・追跡、警告した」という。軍部隊が危険な挑発に出ないよう強く自制を求めたい。
米国防総省は早くから艦艇航行を進言していたが、オバマ大統領は最終判断を先送りしていた。
9月の米中首脳会談で、埋め立てや施設建設などの停止を要求したのに対し、習近平国家主席が「中国の領土だ」とはねつけたのを見て、ようやく踏み切った。
オバマ氏は、習氏を説得できると過信していたのではないか。
米国は気候変動問題やテロ対策で中国と協力しているが、その独善的行動を見過ごす理由にはなるまい。偶発的な軍事衝突を防ぐ措置をとりながら、対中戦略を練り直すことが求められる。
菅官房長官は「開かれた、自由で平和な海を守るために国際社会が連携することは極めて大事だ」と語り、米国の艦艇派遣を支持した。フィリピンやオーストラリアも歓迎している。
日本は、米国や関係国と緊密に連携しつつ、南シナ海での中国の動きを警戒せねばならない。
この記事へのコメントはありません。