TPP合意 攻めに磨きかける発想を

朝日新聞 2015年10月26日

TPP農業対策 政府も農協も問われる

環太平洋経済連携協定(TPP)について、政府が関税の交渉結果を公表した。

9千余の品目のうち最終的に関税をなくす物品の割合は95%に達し、農林水産分野での撤廃率も8割を超える。日本がこれまで結んできた自由貿易協定の自由化水準を大きく上回る。

国内の農林水産業への影響は避けられず、政府は対策の検討を急ぐ。90年代のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)でコメ市場を一部開放した際は、「金額ありき」で6兆円もの予算が投じられた。しかし農業関連の土木工事などが中心で、必ずしも農業の強化につながらなかった。同じ過ちを繰り返す余裕は、日本の財政にはない。

危機感を募らせた農業団体が集会を開き、農林水産分野の族議員に圧力をかける。政府・与党も選挙での支持を期待して要求に応える。そんな構図とは決別しなければならない。

対策について、甘利TPP相は「影響を受ける損失部分を補填(ほてん)するというより、(海外市場などに)打って出ていくためにどう強化していくかだ」と強調する。一方、農協組織のトップ、全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長も「予算は国民のおカネであり、消費者の理解がないものはいただけない」として、政策の積み上げで提言をまとめる構えだ。

農家の平均年齢は66歳を超え、後継者不足は深刻だ。耕作放棄地の増加にも歯止めがかからない。そんな状況の中で、「政」と「業」の関係はいや応なく変化を迫られている。

「農協は農家や農業の役にたっているか」との問題意識から始まった農協改革論議は、農協法の改正に行き着いた。

全中を一般社団法人に衣替えし、各地のJAには経営に精通した人材を役員に登用しつつ自主性を発揮するよう求め、「農業所得の増大に最大限の配慮をする」とうたわれた。

今夏に全中会長に就いたばかりの奥野氏は、大学生時代に生活協同組合の活動に情熱を注いだ経験も踏まえ、農業者の枠を超えて「消費者との連携」の大切さを強調している。

世論調査でTPP大筋合意を評価する人が多数であることからも見てとれる通り、「安さ」を求める消費者は多い。一方で、「安全・安心」の観点から国産品へのこだわりも根強い。

両立は簡単ではないが、こうした声に耳を傾けて国民が納得できる対策と予算を示せるか。政府・与党とJAは、政策本位の新たな関係が求められていることを忘れないでほしい。

読売新聞 2015年10月26日

TPP「ルール」 官民で海外戦略を強化しよう

新たな貿易や投資のルールを上手に活用し、海外事業を拡大したい。日本にも、ビジネス戦略の再構築が求められる。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で大筋合意した「ルール分野」の詳細を、政府が公表した。新興国が金融や小売業などで外国企業の参入規制を緩和するほか、知的財産権の保護体制を強化することが柱だ。

共通ルールが参加12か国に適用されれば、公正で透明な経済取引が確保される。世界の国内総生産(GDP)の4割に及ぶ巨大市場で、企業が安心して海外に進出できるようになる意義は大きい。

ベトナムやマレーシアは、外国の銀行やコンビニエンスストアの出店規制を一部撤廃する。堅調な需要の伸びが見込まれる新興国での事業展開に、日本企業がさらに力を注ぐ好機としたい。

新薬開発のデータ保護期間は実質8年とする。著作権の保護は作者の死後70年に統一する。日本など多くの国は現在、50年だ。

現在は知財の保護が不十分な新興国に新ルールが導入されれば、日本製の新薬やアニメなどを売り込みやすくなるはずだ。

協定は、域内各国が、ソフトウェアの機密情報に当たる「ソースコード」の開示を、進出した外国企業に求めることも禁じた。

中国は、外国企業にソースコードの開示を一方的に強要し、米国などの強い反発を招いている。

TPPが、進出先国による恣意しい的な外資規制や国有企業優遇策の制限をルール化したことは、TPP交渉に参加していない中国を間接的に牽制けんせいする効果を持とう。

新ルールの利点を有効活用するには、政府の対応も重要となる。企業の海外進出への実効性ある支援策を講じねばならない。

特に、外国での事業経験やノウハウに乏しい中小企業を後押しする具体策が問われる。

参加国が公共事業の入札を外国企業に開放することも、合意に盛り込まれた。鉄道や道路など社会資本(インフラ)整備事業を日本企業が受注するには、政府間交渉で相手国のニーズをつかむなど、官民連携の強化が大切だ。

国内には一時、TPPに参加すると、外資の参入で国民皆保険制度が崩れたり、安全性に劣る食品が輸入されたりするとの懸念もあった。しかし、合意によって、日本の保険制度や食品安全基準を見直す必要は生じていない。

政府は、合意内容や交渉経緯を関係者に丁寧に説明し、不安や誤解を解消すべきである。

産経新聞 2015年10月24日

TPPルール分野 世界標準の成長基盤築け

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で妥結したルール分野の詳細が公表され、先の関税分野と合わせた大筋合意の全容が明らかになった。

TPPが21世紀型の協定と期待されるのは、関税撤廃だけでなく、域内で人・モノ・カネが円滑に動くよう、共通基盤となるルールを確立したからである。

これを存分に活用し、ビジネス機会を広げる戦略を官民一体で築くことが肝要だ。自由で透明なTPPの仕組みを国際的な標準として定着させ、日本を含む世界の成長につなげたい。

ルールは多岐に及ぶ。外資に対する政府調達の開放や出資・出店規制の緩和、投資上の紛争解決手段などが整い、国境をまたぐビジネス上の垣根が取り払われる。

ルールづくりが重要なのは、貿易・投資面での新興国の法整備や対外開放が、急速な成長に見合うものとなっていないことが大きい。その多くは、法の支配より恣意(しい)性に左右されがちな中国にもいえることである。

中国が経済覇権に動く中、このままアジアの新興国が中国型ルールに歩調を合わせるのでは、日本企業が海外事業を展開する上での障害となる。これを回避する意義を認識しておきたい。

合意は、国有企業に対する不当な優遇や外国企業への技術移転の強要を禁じた。知的財産保護の決まりを作り、中国のように、コンピューターソフトの設計図にあたる「ソースコード」の開示を外資に求めることも禁止した。

こうしたルールを広げることは日米など自由主義国が安定的に発展するための前提となる。

新たなルールの確立が、製造業や小売業、金融など幅広い業種の追い風となるのはもちろんだ。地方の中小企業も海外進出がしやすくなろう。これを好機とする攻めの経営に期待したい。

政府は、引き続き合意内容の丁寧な説明に努めてほしい。

輸入食品の安全性などは制度変更の必要性がなく、これが脅かされる恐れはないという。著作権保護の強化が漫画やアニメを活用した創作活動に及ぼす影響などは慎重に見極めるべき項目だろう。

TPPは国民の暮らしに直結する。全容が公表された今、根拠のない不安を確実に払拭しつつ成長につなげる手立てを講じて、国民の理解を深めてもらいたい。

読売新聞 2015年10月22日

TPP全容公表 関税撤廃を成長拡大に生かせ

極めて広範な品目に及ぶ関税撤廃は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大きな成果だ。

新段階に入る貿易自由化を、日本経済の成長拡大に生かしたい。

政府がTPP交渉で大筋合意した関税分野の全容を公表した。日本が輸入する農林水産品と工業品のうち、関税を撤廃する品目の割合は95%に上る。域内11か国への日本の輸出品は、国によって99~100%の品目で撤廃される。

貿易自由化の進展は、域内経済を活性化し、日本に多大な恩恵をもたらす。高い撤廃率の達成は支持できる。

自動車や電機など工業品では、日本製の品質の良さを売り込み、販路拡大の実績を上げたい。

域内国では、みそや日本酒などの関税がなくなる。日本産牛肉は、米国で無関税輸入枠が広がる。和食ブームを追い風に、輸出に弾みをつけることが大切である。

野党や生産者の間では、TPP交渉合意への批判も聞かれる。

特に、コメや牛・豚肉など「重要5項目」で、約3割の関税を撤廃することへの不満が目立つ。

民主党は、合意が重要5項目の関税維持を求めた2013年4月の衆参両院農水委員会の決議に違反すると主張している。

だが、政府は、輸入実績が少ないものや、国内に代替品がないものを中心に撤廃品目を選んだとしている。森山農相も「(決議は)しっかり守れた」と評価した。

果樹や野菜の農家らは、重要5項目以外の農産品で関税が撤廃されることに反発している。

ただ、日本に輸入される農産品に限れば、撤廃率は81%にとどまる。参加国で唯一の8割台で、突出して低い。最も多い例外措置を獲得したと言える。

甘利TPP相は「不満足な点はどの国にもある。1国が100%満足する協定では、残りの国には魅力がなく、誰も入らない」と強調した。もっともな指摘だ。

政府は、合意内容の詳細や交渉経緯に関する情報開示などを徹底し、国会での承認手続きを確実に進めるべきだ。消費者のメリットもよく説明し、国民の理解を広げることが肝要である。

政府は11月中に、農業強化や企業の海外進出支援を盛り込むTPP総合対策を策定する。

農家らに一定の支援を行うのは理解できるが、生産者保護に偏ったバラマキにしてはならない。

農業や製造業の国際競争力の向上に役立つ、「攻めの対策」を講じる必要がある。

産経新聞 2015年10月22日

TPP合意 攻めに磨きかける発想を

政府が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で合意した関税分野の全容を公表した。

農産品や工業製品の自由化について、輸出と輸入の両面から、具体的な対応策を検討する大きな土台となるものだ。

期待もあれば、不安もあろうが、まずはこの中身を精査し、個別分野の影響を冷静に見極めなければならない。その上で、成長基盤とするための政策を定めるべきだ。

肝心なのは、守りの発想ではなく、攻めに磨きをかける前向きな取り組みである。

日本は輸入品のうち95%の関税を撤廃する。農産品に限れば81%だ。例外扱いを求めたコメなどの重要5分野についても3割が撤廃される。過去に例のない「開国」といえよう。

ただし、ほとんどの関税をなくす他の11カ国と比べれば、日本の撤廃率はかなり低いことを認識しておかねばならない。

高水準の自由化を成長につなげるのがTPP本来の狙いだ。もともと関税が低い品目など、影響が限定的なものもある。マイナス面ばかりを意識すべきではない。

個別分野では自動車部品などの工業製品に限らず、農産品の大半も輸出時の関税が撤廃される。これを追い風にすべきなのはもちろん、輸入品の流入に備えて競争力や生産性を高める必要がある。

TPPは秘密交渉であり、これまでは具体的な中身が分からなかった。ようやく全容が判明したが、個別の関税撤廃の影響に関心が集まりがちだ。

忘れてはならないのは、TPPは関税中心の旧来型の協定ではないという点である。環境や労働、知的財産などのルール作りを通じて域内共通の経済基盤を整えたことにこそ意義がある。

これを活用して新たな市場を開拓し、海外の成長を国内に取り込む足がかりとする。関税分野にとどまらないTPPの波及効果を十分踏まえ、農業を含む経済の体質強化を促すことが肝要だ。

政府は今後、TPP合意に伴う国内対策を具体化する。それにあたっては、中長期的な経済構造の変革を含めて経済効果を試算し、目指すべき明確な目標を設定することが欠かせない。

国内対策の政策効果をきちんと検証できる仕組みを作れるか。それなしには、成長につながらぬ場当たり的なものに終わろう。

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