アフガニスタンの安定へ、国際社会は多くの犠牲を払い、膨大な費用と時間を費やしてきた。この国をテロの温床に逆戻りさせてはなるまい。
オバマ米大統領が、約9800人のアフガン駐留米軍の撤収を2016年末に完了させる目標を撤回した。17年以降も約5500人を残留させる。妥当な判断だ。
米軍は、01年9月の同時テロ後に、タリバン政権を倒し、駐留を開始した。ピーク時には約10万人を派遣し、北大西洋条約機構(NATO)軍などと治安維持任務に従事した。近年はアフガン治安部隊の訓練に重点を置いている。
米国にとって最長の14年間も戦いを続けているのは、対テロ戦略の重要性が変わらないためだ。
オバマ氏は、08年の大統領選以来、イラクとアフガンでの戦争終結と米軍撤収を一貫して公約に掲げてきた。国内の厭戦ムードが背景にあった。だが、米軍などが戦闘任務を終えた14年以降、アフガンの治安は再び悪化した。
ガニ大統領が米軍の駐留延長を強く求め、カーター米国防長官も「完全撤収は自滅的だ」と認めた。オバマ氏が公約撤回に追い込まれたのは、アフガン情勢に関する見通しが甘かったためだろう。
米共和党には、5500人規模の残留では不十分との声もある。イラクでは、米軍撤収後に過激派組織「イスラム国」が台頭した。イラクの轍を踏まないよう、戦略の再構築を急ぐべきだ。
アフガンでは昨年9月、国際社会の支援によって、初めての選挙を通じた政権交代が実現した。今年7月には、ガニ政権とタリバンが初の和平協議も行った。
しかし、タリバンは最高指導者オマル師の死亡発覚で混乱し、協議の再開は見通せない。
心配なのは、タリバンによる攻勢の激化だ。先月末には、北部クンドゥズの大半を一時制圧した。タリバンと敵対する「イスラム国」によるテロも深刻化している。
アフガンの自助努力が欠かせない。大統領と行政長官が力を競い合い、統治機能が低下している現状は放置できない。指導部の結束が安定への第一歩となろう。
治安部隊の強化も、喫緊の課題だ。米軍やNATO軍はアフガン政府と連携し、必要な兵力と装備を確保するとともに、組織的な訓練を継続することが重要だ。
日本は01年以来、武装解除や社会資本整備、警官育成、教育、医療などに約7000億円もの支援を実施してきた。今後も、非軍事分野の貢献に力を入れたい。
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