マンション建設と鉄道用防振ゴム製造を巡り、悪質なデータの偽装が相次いで明るみに出た。
日本の企業が長年かけて築いた「ものづくり」への信頼を揺るがしかねない深刻な事態と言えよう。
三井不動産グループが分譲した横浜市のマンションでは、建物を支える一部の杭が固い地盤に届いていなかった。
明らかな工事ミスで、横浜市は建築基準法違反の疑いで調査している。施工報告書には、多数の虚偽データが記入されていた。
杭打ちに代表される基礎工事は住民の安全に直結する。実際に傾きが生じている棟もある。この工事を請け負った旭化成建材の責任は、極めて重大だ。杭打ちのミスとデータ改ざんの両面で、原因究明を進めなければならない。
旭化成建材が過去10年に杭打ち工事を手がけた建物は、商業ビルなども含めると全国で約3000棟に上る。同様の傾きや改ざんがなかったか、確認が急務だ。
三井側の対応にも疑問が残る。マンションの管理組合によると、昨年11月に住民側が手すりの高低のずれを指摘したが、当初は、東日本大震災の影響と推測されるなどと説明されたという。
最終的に工事ミスが公表されるまでに1年近くを要した。日本を代表する不動産グループとして、危機管理の姿勢が問われよう。
大手タイヤメーカーの東洋ゴム工業は、船舶や鉄道の振動を抑える防振ゴムの製造工程で、性能試験のデータを改ざんしていた。
同社の性能偽装の発覚は、2007年の防火用建材と今年3月の免震ゴムに続き、3度目である。防振ゴムの偽装は8月に内部通報があるまで続いていた。
過去の失敗を生かせない企業体質にあきれるばかりだ。
マンション建設の現場担当者は基礎工事の重要性を認識していたに違いない。防振ゴムの製造現場でも、性能試験の大切さは十分に理解していたはずだ。
それなのに、いずれの担当者も安易なデータ改ざんに手を染めていた。我が国のものづくりの現場で、技術力に裏打ちされた職業意識の劣化が進んでいるのではないか、と懸念せざるを得ない。
製品の安全性や品質について、企業側から示されたデータの真偽を利用者が自ら検証するのは、まず不可能だろう。利用者の信頼を裏切った罪はあまりに重い。
一度崩れた信頼の回復には膨大な費用と時間と労力を要する。全ての企業が教訓とすべきだ。
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