名ばかりの負担緩和策で浪費した時間を取り戻さなくてはならない。
平成29年4月に予定される10%への消費税率引き上げに伴う負担を和らげるため、安倍晋三首相が自民党税制調査会に、財務省案ではなく、軽減税率の導入を検討するよう指示した。
生活必需品の税率を低く抑える軽減税率は、自民党が昨年12月の衆院選公約で導入の方針を明記し、公明党との連立合意にも盛り込まれていたものだ。
だが、財務省が「税と社会保障の共通番号(マイナンバー)」カードを使い、酒を除く飲食料品の増税分を一部還付するとした案を示したことで議論が紛糾した。
財務省案を撤回し、軽減税率の実現を求めた首相の判断は、当然である。
最大の課題は、軽減の範囲や方法などを決める制度設計だ。すでに増税まで1年半を切っている。周知を図る期間なども考慮し、混乱が起きないよう、早急に結論を得る必要がある。
自民党は、財務省案を推した党税調の野田毅会長を交代させ、宮沢洋一前経済産業相を新会長に起用した。首相は宮沢氏を官邸に呼び、「商工業者に無用な負担をかけず、増税と同時に軽減税率を導入してほしい」と求めた。
財務省案は煩雑な手間がかかるうえ、購入時にいったん10%の消費税を払うため、痛税感の緩和に効果がないことも問題だった。
財務省と自民党税調は「増税による税収増が確保できない」として軽減税率には消極的だったが、今後は、円滑な導入に向けて全力で取り組むべきである。
首相も指示しただけでよしとせず、議論の遅延を許さない姿勢を明確にし、責任を持って導入を実現してほしい。
食料品や新聞などの生活必需品の税率を抑える軽減税率は、欧州などで幅広く採用されている。議論の焦点となるのは、取引ごとに税額を記すインボイス(税額票)の作成である。
中小事業者などの事務負担が増えるとして、経済団体は反対の姿勢を示している。しかし、現在の請求書に税額を記載すれば、インボイスに代替できるという専門家もいる。
当面はこうした簡易方式を採用し、その後、本格的なインボイス制度に移行するなど段階的な仕組みを視野に入れてもよかろう。
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