日トルコ会談 難民とテロ対策で連携強めよ

朝日新聞 2015年10月15日

トルコのテロ 国内対立の激化回避を

トルコは、中東で民主主義が定着した数少ない国の一つだ。紛争国のシリア、イラクなどと隣接し、中東の安定のかぎを握る地域大国である。

その首都アンカラで、悲惨な爆発テロが起きた。多数が死傷し、地元の報道は「共和国史上最悪のテロ」と伝えている。

現場では政府に批判的な労組やNGOなどが、少数民族クルド人の組織と政府の和解を求めてデモをするところだった。

事件には不明な点が多いが、混乱により社会を分断させる狙いがあった公算が大きい。トルコ政府は公正に捜査を進め、国内の緊張をほぐすための民主政治を心がけてもらいたい。

10年以上、実質的に国を率いるエルドアン現大統領は一時、クルド人組織との融和を進めたが、最近は強権姿勢がめだつ。6月の総選挙でクルド人政党が躍進すると、いっそう態度を硬化させた。

7月、シリアの過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆に踏み切ったが、爆撃対象にはイラクのクルド人組織も含まれる。テロ対策の名目で、実は国境を越えて宿敵のクルド人組織をたたく作戦ではないかと国内外から疑問の声も出ている。

今回の事件について、政府はISの犯行との見方を示唆するが、真相は見えない。市民からは、政府の安全対策が不十分だったとの不満が噴出し、街頭での衝突も起きている。

もともとイスラム保守層を基盤とするエルドアン氏と、都市部の世俗派などとの間では長く対立が続いてきた。今後のトルコ社会に不穏な空気が広がるようであれば、中東全体への悪影響が懸念される。

来月1日には再び総選挙が予定されている。事件による社会の動揺は避けられないとしても、公正に民意が示せるよう、政府は各派の選挙運動の権利を保障し、強圧的な治安対策は避けなくてはならない。

伝統的に中東での発言力をもち、イスラエルとも国交があるトルコは本来、地域の安定化を図り、欧米と中東との橋渡し役を担うべき国である。

それが、隣国の内乱に乗じて利己的な軍事行動に走ったり、自国の民主政治を後退させたりするようでは、中東はますます混迷に陥る。地域大国としての責任を自覚してほしい。

トルコでは11月半ばに主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれる。多くのシリア難民を保護する人道的な役割も担っている。その重要国の安定とさらなる民主化のため、欧米と日本は各方面で交流を広げたい。

読売新聞 2015年10月11日

日トルコ会談 難民とテロ対策で連携強めよ

中東の安定を図り、難民を支援するうえで、地域大国のトルコの重要性は増している。日本は、協力関係を戦略的に強めるべきだ。

安倍首相が、来日したトルコのエルドアン大統領と会談した。中東情勢について、難民支援や過激派組織「イスラム国」対策で連携を強化することを確認した。

内戦下のシリアと国境を接するトルコには、190万人超もの難民が流入したとされる。

安倍政権は、シリアやイラクの難民・国内避難民への人道支援を拡充すると表明している。食料・医療支援、受け入れ施設整備などでトルコと緊密に連携し、支援の実効性を高めることが大切だ。

シリア周辺での難民の生活が改善すれば、欧州への流出を抑える効果も期待できる。欧州連合(EU)との協調が欠かせない。

トルコは7月、「イスラム国」に軍事攻撃を行った。自国基地を米軍が空爆の出撃拠点として使うことも容認した。テロの脅威拡大を踏まえ、積極姿勢に転じた。

8月末には、米軍主導の有志連合に参加し、「イスラム国」の拠点を空爆した。有志連合の体制強化は日本にとっても有益だ。「イスラム国」によるテロでは、2人の日本人も犠牲となっている。

凶悪な犯罪集団の封じ込めは、各国共通の課題だ。日本も、テロ資金対策やテロリストの渡航阻止などで、より積極的な役割を果たす必要がある。

首脳会談では、外相らの政治対話の促進や、経済連携協定(EPA)交渉の加速で一致した。

首相は「両国は広いアジアを東西から支える二つの翼だ。手を取り合って、翼を羽ばたかせたい」と語り、政治、経済両面で両国関係を発展させたい考えを示した。エルドアン氏は、「日本は戦略的パートナーだ」と応じた。

エルドアン氏は昨年1月にも来日した。首相は2013年にトルコを2回訪問している。両国は20年五輪の招致を競ったが、首脳間の信頼関係を基礎に、関係を進展させてきたことは評価できる。

近年、経済力を強めるトルコは11月、主要20か国・地域(G20)首脳会議の議長国を務める。

トルコには、ボスポラス海峡の海底を通る地下鉄や、黒海沿岸の原発4基の建設などを巡って、多数の日本企業が進出している。

さらなる日本の投資拡大やインフラ整備での協力を望む声は、双方に強い。企業の海外展開は、安倍政権の成長戦略に資する。官民の連携で積極的に進めたい。

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