辺野古取り消し 翁長氏は政府との対立煽るな

朝日新聞 2015年10月14日

辺野古移設 沖縄の苦悩に向き合え

沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事がきのう、米軍普天間飛行場の移設先となる名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。

これに対し、政府は直ちに行政不服審査請求などを行う方針だ。政府と県が行政手続き上、司法上の対抗策を打ち合うなかで、民意に反した基地建設が進む。そんな異常事態は、何としても避けなければならない。

政府は埋め立ての法的根拠を失った以上、計画は白紙に戻し改めて県と話し合うべきだ。

前知事による承認から1年10カ月。翁長知事は取り消しに向けて周到に準備を重ねてきた。

「承認手続きに瑕疵(かし)がある」との結論は、第三者委員会が半年かけて導き出した。

第三者委は移設の必要性について「実質的な根拠が乏しい」と指摘。「米軍の沖縄配備の優位性」などの政府の主張にも具体的な説明がないとした。

翁長知事は政府との集中協議でもこれらの点を問いただしたが、政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すばかり。説得力ある説明はなかった。

翁長知事は先月、ジュネーブでの国連人権理事会の演説で、「沖縄の人々は自己決定権や人権がないがしろにされている」と訴えた。基地問題を人権問題ととらえての主張である。

戦後、米軍に土地を強制接収され、次々と米軍基地が造られた歴史。戦後70年、米軍による犯罪や事故に巻き込まれる危険、航空機の騒音などの「基地被害」と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた歴史。

そして、いまなお全国の米軍専用施設面積の73・8%が、国土の0・6%にすぎない沖縄県に集中している現実。

これはまさに、沖縄に対する「差別」ではないのか。

日米安保条約を支持する政府も国民も、そうした沖縄の現実に無関心でいることによって、結果として「差別」に加担してこなかったか――。

翁長知事による埋め立て承認取り消しは、政府に、国民に、そこを問いかけるメッセージだと受けとめるべきだ。

残念なのは、ジュネーブでの知事の演説に対し、菅官房長官が「強い違和感を受ける。国際社会では理解されない」と冷淡な対応に終始したことだ。

行政手続きや司法判断の結果がどうあれ、政府と沖縄の亀裂がこれ以上深まれば米軍基地の安定運用も危うくなるだろう。

政府に求められるのは、沖縄の苦悩を理解し、人権や自己決定権に十分配慮する姿勢だ。まず計画を白紙に戻すことが、そのための第一歩になる。

読売新聞 2015年10月14日

辺野古取り消し 翁長氏は政府との対立煽るな

政府との対決姿勢を強めるばかりで、問題解決への展望はあるのか。

米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、沖縄県の翁長雄志知事が、仲井真弘多前知事の埋め立て承認について「法的瑕疵かしがある」と強弁し、取り消しを決めた。

米軍の抑止力は県外移設でも低下せず、辺野古移設の「実質的な根拠が乏しい」と主張する。埋め立て後、貴重な自然環境の回復がほぼ不可能になるとし、騒音被害の増大の可能性にも言及した。

だが、ヘリコプター部隊を県外に移せば、米軍の即応力は確実に低下する。自然環境などへの影響について、仲井真氏は防衛省に約260もの質問をし、その回答を踏まえて、環境保全はおおむね可能と判断し、埋め立てを承認した。

辺野古移設は、日米両政府と地元自治体が長年の検討の末、唯一の現実的な選択肢と結論づけられたものだ。翁長氏は、代案を一切示さないかたくなな姿勢でいる。

菅官房長官が「関係者が重ねてきた、普天間飛行場の危険性除去に向けた努力を無視するもの」と翁長氏を批判したのは当然だ。

防衛省は14日にも、国土交通相に対し、行政不服審査とともに、県の取り消しの執行停止を申し立てる。執行停止が決まり次第、作業を再開し、11月にも埋め立て本体工事に入る考えだ。

翁長氏は承認取り消しが認められなかった場合、工事差し止めなどを求めて提訴する構えで、法廷闘争になる公算が大きい。その場合、政府は、関係法にのっとって粛々と移設を進めるしかあるまい。

疑問なのは、翁長氏が先月下旬、国連人権理事会で「沖縄の自己決定権や人権がないがしろにされている」などと訴えたことだ。

違和感を禁じ得ない。沖縄の「先住民性」や、独裁国家の人権抑圧を連想させ、国際社会に誤ったメッセージを送る恐れがある。

辺野古移設に賛成する名護市の女性は同じ場で、「教育、生活などで最も高い水準の人権を享受している。(翁長氏の)プロパガンダを信じないで」と反論した。

沖縄は「辺野古反対」で一色ではない。翁長氏が政府との対立をあおるだけでは、普天間飛行場の移設が遠のくうえ、米海兵隊グアム移転なども頓挫しかねない。

翁長氏は、沖縄選出の島尻沖縄相の就任について「基地と振興策が混同すれば、ややこしいことにならないか」と発言した。辺野古移設には反対しつつ、沖縄振興予算も確保しようという発想は、虫がいいのではないか。

産経新聞 2015年10月14日

承認取り消し 知事の職責放棄するのか

米軍普天間飛行場の移設をめぐり、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事は、前知事による名護市辺野古沖の埋め立て承認に「瑕疵(かし)がある」として、正式に承認を取り消した。

翁長氏は会見で「今後も辺野古に新基地を造らせない公約実現に取り組む」と述べた。これが目的だとすれば、瑕疵の有無についての判断は二の次だったのではないか。

辺野古移設が頓挫すれば、尖閣諸島周辺などで野心的な海洋進出を繰り返す中国の脅威に対し、抑止力を維持することができない。市街地の中心部にある普天間飛行場の危険性も除去できない。

いずれも危険に直面するのは沖縄県民である。地方行政のトップとして、こうした判断が本当に許されるのか。

菅義偉官房長官は「工事を進めることに変わりはない」と述べ、今秋の本体工事着手を目指す方針だ。政府は、取り消しの効力停止などを石井啓一国土交通相に申し立て、国交相がこれを認めれば移設作業は続けられる。

政府は従来、行政判断はすでに示されているとして移設推進に変更はないとの立場をとってきた。手続き上も問題はなく、日本の安全保障環境を考慮すれば当然の対応といえよう。

沖縄県側はこれに対し、効力停止の取り消しや差し止めを求める訴訟を起こすとみられる。

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