歴史問題を巡る中国の一方的な主張に、国際機関が「お墨付き」を与えたと誤解されないか。憂慮すべき事態である。
国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の文書」が登録された。
ユネスコの国際諮問委員会の選考作業を踏まえ、イリナ・ボコバ事務局長が最終決定した。中国が同時に申請した「慰安婦に関する資料」は登録されなかった。
世界記憶遺産は本来、歴史的に重要な文書などの保存や活用を目的にしたものだ。
文化財保護の制度を「反日宣伝」に政治利用し、独善的な歴史認識を国際社会に定着させようとする中国の姿勢は容認できない。
「南京大虐殺の文書」には、南京軍事法廷が戦後、日本人の戦犯を裁いた判決書などが含まれる。判決書は、南京事件の犠牲者を「30万人以上」としている。
だが、日本では、当時の人口動態などから、実態とかけ離れているとの見方が支配的だ。日中歴史共同研究でも、日本は「20万人を上限に、4万人、2万人など様々な推計がある」と指摘した。
登録について、外務省が文書の「完全性や真正性」に疑問を呈し、「中立・公平であるべき国際機関として問題」とユネスコを批判したのは、当然である。
今回、日本からはシベリア抑留者の日記や手紙で構成する「舞鶴への生還」などが登録された。史実を反映したもので、ロシアからも異論は出ていない。
日本がユネスコ事務局に登録への懸念を度々伝えていた「南京」のケースとは事情が異なる。
ユネスコの諮問委員会は14人の専門家で構成されている。図書館学の研究者や公文書館関係者が中心で、選考過程は公開されていない。余りにも不透明だ。
日本はユネスコ予算の約1割にあたる年間37億円の分担金を支払い、その活動を実質的に支えている。記憶遺産の登録制度の改善を働きかけることが欠かせない。
「慰安婦」の資料については、中国が再申請する可能性がある。韓国も慰安婦証言の2年後の登録を目指し、準備を進めている。
今年7月に「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録される際には、韓国は、大戦中に朝鮮人労働者の徴用があったとして、反対した。日本は韓国との交渉の末、登録にこぎつけたが、韓国の政治工作に翻弄された。
日本は早急に、対ユネスコ戦略を練り直さねばならない。
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