安倍改造内閣 経済最優先を結果で明示せよ

朝日新聞 2015年10月08日

内閣改造 ただちに国会論戦を

自民党総裁選での再選を受け、首相がきのう、第3次安倍改造内閣と新たな自民党執行部を発足させた。

菅官房長官や麻生副総理・財務相ら内閣の骨格とされる閣僚は留任。党執行部も谷垣幹事長ら主な役員を続投させた。内閣支持率が低下傾向にある中、来夏の参院選までは経験豊富な顔ぶれで無難に乗り切りたいという意図が感じられる。

その中で目を引くのは、行政改革担当相・国家公安委員長などへの河野太郎氏の起用だ。

河野氏は福島第一原発の事故の後、野党議員とともに「原発ゼロの会」を立ち上げた。自民党の憲法改正草案についても「理想的な案であると考えていない議員が少なからず自民党内にもいる」と公言する。党内では異端の存在だ。

首相は原発再稼働を進め、憲法改正についても党の草案をもとに議論を深めたい考えだ。その内閣で、河野氏はどんな言動をしていくのだろうか。

首相はきのう「GDP600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロの目標に向け新しい3本の矢を力強く放つ態勢を整えることができた」と語った。

先行きが不透明になっている経済の再生に、政権を挙げて取り組むことに異論はない。

ただ、GDP600兆円などの数値目標は現実に達成可能なのか、経済界からも懐疑的な声が出ている。担当相まで設けた「一億総活躍社会の実現」というキャッチフレーズにも、どれだけの国民の共感が伴っているだろうか。

批判を浴びた安全保障から、経済再生へと国民の目先を変えようとしているのではないか。そう思われるとすれば、首相にとって本意ではあるまい。

ここは、すぐにでも国会を開き、与野党の論戦を再開することを政府・与党に求めたい。

テーマには事欠かない。

「新3本の矢」の実現性はどれほどか。環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意によって、国民生活にどんなメリットとデメリットが出てくるのか。新たな安保法制は成立したが、「議論が尽くされていない」と考える多くの国民の思いにこたえる論戦を継続すべきだ。

河野氏をはじめ新閣僚の所信もぜひ聞きたいところだ。

それなのに、政府・与党内で早くも、秋の臨時国会の開催を見送る案が浮上しているのはどうしたことか。

首相の外遊日程が立て込んでいることなどが理由という。だが、両立の工夫ができないはずはない。

読売新聞 2015年10月08日

安倍改造内閣 経済最優先を結果で明示せよ

◆参院選見据えた「守り」の布陣か◆

来年夏の参院選を見据えて、安定した政権運営を重視した、手堅い布陣だと言えよう。

第3次安倍改造内閣が発足した。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、岸田文雄外相、甘利明経済再生相など9閣僚が留任した。

自民党の谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長、稲田朋美政調会長、高村正彦副総裁らの再任と合わせて、政権の骨格は維持された。

安倍政権は2012年12月の発足以来、首相官邸が政策決定を主導する「政高党低」の構図が続いてきた。経済、安全保障など各分野で実績を上げており、政権全体のチームワークも悪くない。

◆「1億総活躍」の説明を

閣僚が同じポストを長く務めることは、政策を熟知し、見識を高める。官僚を使いこなし、業界と渡り合う点ではプラスだろう。

安倍首相は記者会見で、新内閣について「未来へ挑戦する内閣だ」と強調した。「これからも経済を最優先し、政策を一層強化する」とも語った。

9月の日銀短期経済観測調査では、大企業・製造業の業況判断指数が3四半期ぶりに悪化した。景気回復の歩みはやや足踏みしている。

首相は、経済再生に関し、国内総生産(GDP)600兆円という野心的で高い目標を掲げる。実現には、成長戦略を補強する具体策を明示し、着実に実行することで成果を上げねばなるまい。

新たな3本の矢の第1に位置づけられた「強い経済」は、少子高齢社会への対応、財政健全化、地方活性化などの困難な課題に取り組むための重要な基礎となる。

財界や労働団体と協調し、「経済の好循環」を実現して、「アベノミクス」の恩恵を地方や中小企業に広げることが大切だ。

看板政策「1億総活躍社会」の担当相には加藤勝信官房副長官が起用された。首相を支えた実務能力の高さが買われたのだろう。

子育て支援などによる女性の社会参加、介護離職者の削減、高齢者や障害者の能力活用など、様々な府省にまたがるうえ、短期的には成果が見えにくいテーマだ。

スローガン倒れに陥らぬよう、何を目指すか、分かりやすく説明すべきだ。新設する国民会議で民間の知恵を借り、具体的な目標と対策を示すことも重要である。

◆活用したいTPP合意

医療制度改革などによる社会保障費の抑制は避けて通れない。塩崎恭久厚生労働相は加藤氏と緊密に連携し、取り組んでほしい。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を踏まえ、アジアの成長を取り込みたい。研究開発への投資や海外展開に積極的に取り組む企業を、政府が規制緩和などで後押しする必要がある。

農業の大規模化、販路拡大による競争力強化も喫緊の課題だ。

甘利TPP相や、林幹雄経済産業相、森山裕農相、石破茂地方創生相が担う役割は重い。

林氏は、安全性の確認された原発の再稼働も進めるべきだ。

馳浩文部科学相、島尻安伊子沖縄・北方相は担当分野に詳しい。公明党の石井啓一国土交通相とともに、順当な人事である。

馳氏と遠藤利明五輪相には、迷走した東京五輪の準備の体制立て直しが求められよう。

異端ぶりが気になるのは、河野太郎国家公安委員長だ。歯にきぬ着せぬ発言が持ち味とはいえ、持論の「脱原発」や新国立競技場の不要論などで閣内不一致を起こすことは避けねばならない。

先月成立した安全保障関連法は日米同盟を強化し、抑止力を高める画期的な法的基盤だ。関連法に基づき、自衛隊の国際協力活動をどう展開するかが問われる。

中谷元防衛相は、来年春の法施行に向け、部隊行動基準(ROE)作成や米軍との共同訓練などに指導力を発揮してもらいたい。

◆戦略的な外交が重要だ

強固な日米同盟が安倍外交の基軸なのは変わらないが、中国、韓国との関係も大切である。今月末にも開かれる日中韓首脳会談を、歴史認識などで停滞する対中韓外交を打開する好機としたい。

首相と岸田外相は2年10か月近く、様々な各国要人と信頼関係を築いてきた。長期政権も視野に入れている。外交では、指導者の経験と人脈、そして安定した国内基盤が重要な武器となる。

国連安全保障理事会の改革や、ロシアとの北方領土交渉、北朝鮮の日本人拉致問題などに戦略的に取り組むことが肝要である。

「ポスト安倍」をうかがう岸田、石破両氏はそろって内閣に残った。閣外に出るより、政治力を保てるという判断は妥当だろう。

産経新聞 2015年10月10日

拉致と改造内閣 家族会の不安を払拭せよ

第3次安倍晋三内閣で拉致問題担当相は1億総活躍担当相と兼任となった。1億総活躍が改造内閣の目玉で、拉致は最重要課題なのだという。ではなぜ兼務なのか。

拉致被害者家族会からも不満の声が聞かれる。これを払拭するには結果を出すしかない。北朝鮮から拉致被害者を奪回すべく、安倍首相の覚悟を、目に見える形で示してほしい。

「単独の担当大臣にしていただきたいとお願いしてきた」「担当相がころころ代わる」「全く知らない人」「拉致担当相は重要ではなかったということか」。横田めぐみさんの母、早紀江さんをはじめとする被害者家族の改造内閣に対する感想だ。

無理もない。改造内閣発足にあたって安倍首相は「1億総活躍という輝かしい未来を切り開くため、安倍内閣は新しい挑戦を始める」とうたいあげた。

新任の加藤勝信氏はこれをリードし、各省庁間の調整に努めることに多忙を極めるだろう。加えて加藤氏は「女性活躍」「再チャレンジ」「国土強靱(きょうじん)化」「少子化対策」「男女共同参画」も担当する。それぞれ密接に関係するのだろうが、拉致担当相と兼務する必然性が分からない。

不安に駆られる家族同様、メッセージは北朝鮮にも伝わる。拉致問題の優先順位が低いと受け取られれば、北朝鮮は動かない。

安倍内閣はすべての拉致被害者の帰国に向けて全力を尽くすのだという決意を、強く見せ続けなくてはならない。

北朝鮮は昨年5月のストックホルム合意に基づき、拉致被害者の再調査を約束しながら、調査期限とされた今年7月、報告の先送りを一方的に通告してきた。

その後も、約束の履行を果たそうとしない。この問題における交渉の原則は「対話と圧力」「行動対行動」である。北朝鮮が約束を守らないのであれば、一部解除した制裁の復活や、新たな制裁を科すべきだ。

拉致担当相に求めたいのは、優れた発信力である。被害者家族の怒りや悲しみをすべての国民と共有し、これを北朝鮮に突きつける先頭に立つことだ。

「1億総活躍」との兼任で、この責務がないがしろにされるようなことがあってはならない。兼任人事の成否と拉致問題解決の最終責任は、安倍首相にある。

産経新聞 2015年10月09日

改造内閣と原発 国を支える再稼働進めよ

経済最優先を掲げる第3次安倍晋三改造内閣の責務は、デフレから確実に脱却し、経済再生を果たすことだ。そのための大きな基盤の一つが、暮らしと産業を支える電力の安定供給であることは言うまでもない。

安全性を確認した原発を早期に再稼働させ、高止まりする電気料金の引き下げにつなげる。改造内閣はこれに全力を挙げねばならない。

首相は、改造前日の原子力防災会議で「原発事故時の責任は政府にある」と語り、再稼働手続き中の伊方原発を抱える中村時広愛媛県知事に理解を求めた。

こうした積み重ねが地元の信頼につながる。政府には安定的に電力を確保する責任もある。再稼働は政府が主導するという揺るがぬ姿勢を示すことが肝要だ。

円滑な再稼働を進めることにとどまらない。政府は2030年の電源構成で原発比率を20~22%とすると閣議決定した。この達成に向け、運転開始から40年を経た原発の稼働延長を柔軟に認める仕組みも検討すべきだ。

林幹雄経済産業相は就任会見で、「日本には世界最高水準の安全基準がある。原子力規制委員会が安全性を確認した原発は、国民の理解を得ながら再稼働を進めたい」と引き続き原発を活用する方針を示した。資源小国にとって当然の判断だ。

しかし、国内にある原発のうち、今、再稼働しているのは川内1号機(鹿児島県)だけだ。2号機も再稼働に向けた最終段階にあるが、その他の原発も含めて再稼働審査の長期化が顕著だ。

産経新聞 2015年10月08日

内閣改造 結果を出す時期迎えた 「1億総活躍」の具体化を急げ

第3次安倍晋三改造内閣が発足した。内外にわたる諸懸案の解決は待ったなしだ。新たな陣容で取り組みを加速してほしい。

首相が唱えている「強い経済」などの「新しい三本の矢」、1億総活躍社会の構築といったテーマは、抽象的な印象が否めない。

政策の具体化と強力な推進でこれらを経済成長に結びつけ、日本を立て直すことが、さらに3年の自民党総裁任期を得た首相の責務である。

小泉内閣などを抜いて戦後歴代3位の長期政権を視野に入れているが、問われるのは諸政策の成果をいかに挙げるかだ。

≪TPPを成長のテコに≫

首相は記者会見で、1億総活躍社会の構築を柱とした「未来へ挑戦する内閣だ」と改造の狙いを語った。だが、その道筋の説明は十分とはいえない。

人口減少対策は地方創生担当相がすでに取り組んでいる。全自治体が総合戦略を策定し、今後、実行段階に入る。女性や高齢者の労働参画を担当する厚生労働相とのすみ分けはどうするのか。

多岐にわたる課題について、首相や加藤勝信1億総活躍担当相が指導力を発揮し、内閣としての一体的な取り組みを進めることが不可欠だ。現状はイメージ先行にすぎない。

まずは短期、中長期別にテーマを峻別(しゅんべつ)し、政策の優先順位を鮮明にすることが大切だ。年内に具体的な工程表を作成するのは当然である。有識者らで作るという国民会議の議論も、スピード感をもって進めてもらいたい。

省庁間の権限争いの場となる危惧(きぐ)もある。関係閣僚会議などを積極的に活用して調整に当たるべきだ。省益優先の動きなどを抑えられなければ実は上がらない。

大筋合意した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、いかに経済成長につなげるかも大きな課題だ。それなしには、国内総生産(GDP)600兆円の目標達成なども期待できまい。

首相は、コメなどの重要農産品について「関税撤廃の例外を数多く確保した」と語った。自民党公約を守ったと強調したいのだろう。だが、「例外」とは本来、高水準の自由化を目指すTPPの趣旨と相いれない。「守り」を誇っても競争力の強化や成長にはつながらない。

政府は全閣僚が参加するTPP総合対策本部を設置し、米価維持のため備蓄米買い上げを増やすなどの国内対策を講じるという。

必要なのは、TPPを機に農業強化を図ることだ。一定の激変緩和措置が必要としても、農業の低い生産性を温存したままでは、農業を成長産業にするといった政府方針の実現は見通せない。

消費者の視点も重要だ。安価な輸入品の恩恵を十分に受けられないようでは、TPPを通じた消費の喚起もおぼつかない。

≪「拉致」の後退許されぬ≫

外交・安全保障では、集団的自衛権の限定行使を可能とすることなどで、日米同盟を深化させ、その抑止力を高める安保法制が整備された。

中国は東・南シナ海で覇権主義的な海洋進出を繰り返し、北朝鮮の核・ミサイル問題はいまだ解決していない。

日本の平和と安全を確保するための取り組みは、これからが本番といえる。国の守りに切れ目のない態勢の構築が急務である。

今月末には日中韓首脳会談が予定され、中韓両国との首脳会談が個別に行われる可能性もある。冷え込んでいる関係を改善させることは北東アジアの安定に欠かせない。一方、歴史の事実を歪曲(わいきょく)し、日本を攻撃する両国の姿勢には毅然(きぜん)と対処しなければならない。

指摘しておきたいのは、拉致問題の担当相を加藤氏に兼務させたことだ。

改造内閣の目玉閣僚の仕事は、おのずと新たなテーマへの取り組みになろう。拉致をめぐる日朝政府間交渉は北朝鮮の不誠実な対応が原因で進展がみられない。

拉致担当相として積極的な取り組みが求められるのに、この兼務が適切とは思えない。拉致問題に最大限努力する考えを示している首相は再考すべきだ。

首相は自ら取り組む課題の一つに憲法改正を挙げた。来夏の参院選で公約に掲げるなど明確な姿勢を示した上で、国民的議論を活発化させ、改正の必要性を説く先頭に立ってほしい。

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