ノーベル科学賞 地道な探究心が実を結んだ

朝日新聞 2015年10月07日

ノーベル賞 知識で薬で人類に貢献

今年のノーベル物理学賞が梶田隆章・東京大宇宙線研究所長らに決まった。医学生理学賞の大村智・北里大特別栄誉教授に続く、連日の朗報だ。

2人とも自然科学の名の通り自然を深く鋭く見つめ、梶田さんはもっぱら知識の面で、大村さんは医薬品開発という実用面で人類に貢献した。

梶田さんは、2002年にノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊・東京大特別栄誉教授の流れをくみ、素粒子ニュートリノの正体に迫った。

大気からまんべんなく降り注いでいるニュートリノなのに、地球を通り抜けて足元から来るものは頭上から来るものより少ない。ニュートリノに質量があるからこそ起きる現象を見つけ、質量ゼロを前提にしていた物理学の常識を覆した。

この世界はどのように成り立っているのか。そんな根源的な問いに向けた果てしない道のりで、人類に確実な一歩をもたらしたのである。

一方、大村さんはあちこち出向いて土や木の葉を集めた。その中にいる無数の微生物が作るさまざまな化学物質から、薬になるものを探す。本当に薬にまでなることはめったにないが、地道に積み重ねた。

大村さんらが米製薬大手メルクと共同開発した薬イベルメクチンは、アフリカや中南米で失明の主要な原因となっている河川盲目症という寄生虫病に効くとわかった。

世界保健機関(WHO)が無償提供を始め、治療と予防に年に約3億人がのみ、年4万人もの失明を防いでいる。

イベルメクチンのルーツは、大村さんが1974年に静岡県のゴルフ場近くで採取した土にさかのぼる。それが大村さんの発見と多くの人々の志、そして40年の歳月を経て、熱帯の人々の健康と福祉に貢献している。

無償提供が成り立つ背景には、家畜の寄生虫駆除薬としての大ヒットがあった。先進国の家畜薬としてのもうけが、途上国支援を支える。

巨額の特許料収入は北里研究所の再興にもつながった。

多様な生物が持つ自然の恵みを経済効果に結びつけた好例である。

先端科学分野の実用化は多くの場合、先進国の人たちがまず享受する。大村さんの業績は、先進国での医薬品研究が時をおかずに多くの途上国の人々に光明を与えた点でさらに光る。

薬を巡る南北対立は激しい。先進国の資金と科学技術を、途上国に役立てた大村さんの業績を例外に終わらせたくない。

読売新聞 2015年10月07日

ノーベル科学賞 地道な探究心が実を結んだ

2日続きの快挙だ。

東京大宇宙線研究所の梶田隆章所長が、今年のノーベル物理学賞を受賞することになった。

前日には、北里大の大村智・特別栄誉教授に生理学・医学賞が贈られることが決まった。日本人研究者の相次ぐ受賞決定を心からたたえたい。

梶田さんは、物質の究極の姿である素粒子の中でも、多くの謎が残る「ニュートリノ」に質量があることを突き止めた。

研究グループを率い、岐阜県飛騨市の旧神岡鉱山内に設置した観測装置で、飛来するニュートリノを測定した。宇宙や物質の成り立ちなど、万物の理論に見直しを迫る画期的なデータとなった。

共同受賞するカナダ・クイーンズ大のアーサー・マクドナルド名誉教授は、地球の反対側にある観測装置で、同様の現象を観測した。両者の協力が結実した。

このテーマは1960年代から探究されてきた。梶田さんは「しっかり(観測を)続けてきたことが良かった」と喜びを語った。

49年に湯川秀樹博士が物理学賞を初受賞して以来、日本の素粒子研究は綿々と受け継がれてきた。その伝統が生きた。

大村さんの授賞理由は、アフリカや南米に多い寄生虫病・オンコセルカ症(河川盲目症)などの特効薬を開発したことだ。

開発に協力した米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士との共同受賞で、「革命的治療をもたらした」と称賛された。

人の命を救うという医学の原点に立った業績と言える。

大村さんは「人の役に立てたことがうれしい」と述べた。熱帯病の治療や解明に尽力した野口英世を思い浮かべた人も多かろう。

地中などにいる微生物は、抗生物質のような天然化合物を作り出す。大村さんは、多数の微生物を地道に収集した。受賞対象の特効薬「イベルメクチン」のもとになる化合物を見つけ、産学連携で製品化にこぎ着けた。

マラリアの治療薬を開発した中国中医科学院の屠●●氏も、同時に受賞する。(●は口へんに幼)

エボラ出血熱などの感染症対策は、人類の重要課題だ。今回の受賞は、病原体との闘いへの力強い後押しとなろう。

近年、日本の科学研究の地盤沈下が目立つ。次の世代が育っていないためだ。研究論文数は伸び悩んでいる。ダブル受賞は多くの研究者の刺激となるに違いない。若い研究者たちには、さらなる高みを目指してもらいたい。

産経新聞 2015年10月07日

ノーベル賞 快挙を未来につなげたい

連日の朗報についていこうと、脳みそがうれしい悲鳴を上げている。

北里大特別栄誉教授の大村智氏のノーベル医学・生理学賞に続き、東大宇宙線研究所教授、梶田隆章氏の物理学賞受賞が決まった。

大村氏は、寄生虫などに起因する感染症に有効な有機物を土壌から見つけ出し、治療法や薬剤の開発につなげたことが高く評価された。

大村氏の発見をもとに開発された寄生虫駆逐剤「イベルメクチン」は、熱帯地域の風土病「オンコセルカ症」の特効薬として延べ10億人以上に無償提供され、多くの人を失明の危機から救った。

梶田氏は、2002年に物理学賞を受けた小柴昌俊氏のもとで、素粒子「ニュートリノ」の観測、研究に取り組み、ニュートリノに質量があることを示す「振動現象」を発見した。

その業績は、半世紀にわたって続いたニュートリノの質量をめぐる議論に終止符を打ち、宇宙や物質の根源を探究する素粒子物理学の進展に大きく貢献した。

大村氏が発見した数々の有機物も、知の先端を切り開いた梶田氏の成果も、人類にとってかけがえのない共通の財産だ。2人の受賞を心からたたえたい。

自然科学3分野(医学・生理学、物理学、化学)での日本の受賞者は米国籍の故南部陽一郎氏と中村修二氏を含めると21人になった。特に、2000年以降は16年間で16人と「1年に1人」のペースで受賞者を輩出している。

日本人が人類の幸福に幅広く貢献していることの証しとして、大いに誇っていい。

大切なのは、大村氏や梶田氏の傑出した研究を支えた日本の科学、基礎研究の土壌を肥やし、将来に生かしてゆくことだ。

大学や研究機関では、短期的な成果を求めるあまり、研究の「独創性」「多様性」が損なわれる副作用が指摘されている。

英国の教育専門誌による大学世界ランキングでは、東大、京大は大幅にランクを下げ、小中学生の「理科離れ」の傾向も顕著になっている。

快挙が続く今こそ、日本の科学研究と教育の足もとを見つめ直すべきときだ。

2人の受賞を、研究と教育の両面で、科学に「真っすぐに向き合う」契機とし、快挙を次世代に継承したい。

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