防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を

朝日新聞 2015年10月02日

防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を

利益優先で武器輸出の拡大につながらないか。腐敗の温床にならないか。二重三重のチェックが重要になる。

防衛省の外局となる防衛装備庁がきのう発足した。

これまで陸海空の自衛隊などがバラバラに扱っていた武器の研究開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担うことになる。

とりわけ気がかりなのが、武器輸出の行方だ。安倍政権は昨春、「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を決定した。一定の基準を満たせば、武器輸出や国際的な共同開発・生産を解禁するもので、装備庁はその中心となる。

安保法制の成立で自衛隊の活動範囲を地球規模に拡大したことと合わせ、戦後日本の平和主義を転換させる安倍政権の安保政策の一環といえる。

問題は武器購入や輸出という特殊な分野で、いかに監視を機能させるかだ。技術の専門性が高いうえに機密の壁もあり、外部からの監視が届きにくい。

輸出した武器がどう扱われるか、海外での監視は難しい。新原則では「平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する」としているが、実効性は保てるのか。

米国製兵器の購入をめぐる費用対効果も問われる。今年の概算要求でも、新型輸送機オスプレイや滞空型無人機グローバルホークなど高額兵器の購入が目白押しだ。米国への配慮から採算を度外視することはないか。

かねて自衛隊と防衛産業は、天下りを通じた「防衛ムラ」と呼ばれる癒着構造が指摘され、コスト高にもつながってきた。そこに手をつけないまま、2兆円の予算を握る巨大官庁が誕生した。高額の武器取引が腐敗の温床とならないように、透明性をどう確保していくか。

装備庁には「監察監査・評価官」を長とする20人規模の組織ができたが、いずれも防衛省の職員である。身内のチェックでは足りないのは明らかだ。

武器の購入や輸出は装備庁だけでなく、政府全体の判断となる。ビジネスの好機とみた経団連は先月、「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」との提言をまとめ、政府に働きかけている。

しかし、戦後の歴代内閣が曲がりなりにもとってきた抑制的な安保政策は、多くの国民の理解にもとづくものだ。

経済の論理を優先させ、日本の安保政策の節度をなし崩しに失う結果になってはならない。

何よりも国会による監視が、これまで以上に重要になる。

読売新聞 2015年10月04日

防衛装備庁発足 調達と輸出を戦略的に進めよ

防衛装備品の調達を効率化し、友好国との技術協力を拡大する体制が整った。装備政策を戦略的に展開すべきだ。

装備品の研究開発から調達、輸出までを所管する防衛装備庁が、防衛省の外局として1800人体制で発足した。年間2兆円近い予算を扱う。

従来、研究開発は技術研究本部、調達は内部部局や陸海空3自衛隊が別々に行っていた。縦割りを廃し、装備行政を一元的に担う組織が誕生した意義は大きい。

中谷防衛相は訓示で「一歩先んじた技術力の保持を重視する」と述べ、研究開発や他国との技術協力を拡充する考えを示した。

昨年4月に閣議決定された「防衛装備移転3原則」で輸出制限が大幅に緩和され、他国との装備協力を拡大する環境が整った。

英国とはミサイル技術の共同研究に着手した。豪州との潜水艦の共同開発や、インドへの救難飛行艇輸出も検討している。

他国との安全保障分野での協力は、「積極的平和主義」の一環であり、日本の抑止力の向上につながる。防衛技術・生産基盤の維持や育成にも役立とう。

安全保障関連法の成立で、自衛隊の国際活動が拡充される。防衛政策に合致した装備調達が大切である。陸海空3自衛隊の予算配分の見直しにも取り組みたい。

防衛装備庁は、武器調達の合理化でも重要な役割を担う。

3自衛隊が従来、独自に装備品を調達していたことは統合運用の障害になっていた。弾薬などを融通し合うこともできなかった。

今後は、海自ヘリしか搭載できなかった海自輸送艦に、陸自が導入する輸送機オスプレイなどを搭載できるよう、輸送艦の設計を変更する。ミサイル、地対空誘導弾なども3自衛隊で共通化する。

厳しい財政状況の中、2014~18年度の中期防衛力整備計画では、調達効率化で7000億円の財源を確保する目標を定めた。

今年4月には、装備品の一括購入の長期契約で調達費を節約する特別措置法が成立した。16年度以降はオスプレイ購入などで1530億円の縮減を図る。防衛産業とも連携し、今後の大型装備導入でもこの手法を活用すべきだ。

戦闘機などのハイテク装備は高額化の傾向にある。徹底的なコスト節減が欠かせない。

装備調達を巡っては長年、汚職や談合が繰り返された。防衛産業との癒着や不正行為を許さないように、様々な角度から厳しいチェックを怠ってはならない。

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