中国の習近平政権が共産党の一党独裁を死守するため、国内統制を一層強めていることを象徴する動きと言えよう。
日本政府は、邦人2人が今年5月、中国遼寧省と浙江省で、それぞれ中国当局に拘束されたと発表した。2人は日本から渡航した民間人男性だ。
中国外務省は、拘束理由として「スパイ活動」を挙げ、「法に基づいて審理し、処罰を進める」と強調した。だが、容疑の詳細は公表していない。
中国は昨年11月施行の「反スパイ法」を適用し、拘束したのではないか。この法律は国家機密の窃取や公務員の扇動・買収、国家安全への危害のほか、「その他のスパイ活動」も摘発対象だ。
菅官房長官は「我が国は、そうしたことは絶対していない」と反論し、早期解放を求めた。
懸念されるのは、当局があいまいな規定を恣意的に運用する事態だ。中国が「法治」を一党支配の手段として利用することに、日本や欧米は警戒する必要がある。
遼寧省で拘束された男性は、北朝鮮との国境の拠点都市、丹東を訪れたとされる。浙江省は中国海軍の施設などがある要所だ。日本も、中国や北朝鮮の諜報戦と全く無関係ではいられない。
4か月に及ぶ2人の拘束期間がさらに長期化する恐れもある。中国では、欧米諸国に比べて、起訴前の手続きに時間がかかる。国家安全絡みの事件では、不透明さが一段と高まるとみられる。
今年3月には、ビジネスツアーで訪中した米国人女性が「国家安全に危害を加えた疑い」で拘束され、調査を受けているという。
2010年、中堅ゼネコン「フジタ」の日本人社員4人が中国当局に拘束された際、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を巡る中国の「報復」との見方が出ていた。
中国は今回、拘束した2人についても、対日圧力の外交カードとして、安倍政権を揺さぶる思惑がないとは言い切れまい。
習政権は、反スパイ法に加え、今年7月、治安対策強化を狙った新法の国家安全法も施行した。経済が減速する中、社会の安定に危機感を募らせているのだろう。
欧米から中国に民主主義や人権などの価値観が流入、浸透するのを警戒し、外国の民間活動団体(NGO)の監視などを目的とする法案も提出している。
習政権が国際社会の批判に背を向け、強権統治を続けるのなら、「異質の大国」の姿がますます際立つだけである。
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