国際競争力を維持するため、独自の技術情報など、営業秘密の漏洩をどう防ぐのか。企業にとって大きな課題である。
新日鉄住金が、韓国の鉄鋼最大手ポスコに鋼板技術を盗用されたとして、損害賠償を求めていた訴訟で、和解が成立した。ポスコが新日鉄住金に300億円の和解金を支払う。
新日鉄住金によると、ポスコは、旧新日鉄の元社員に働きかけ、多額の報酬を払う見返りに、技術情報を不正に流出させた。
狙われたのは、電磁鋼板と呼ばれる最先端の鉄鋼製品だ。変圧器や携帯電話の部品など、身近な製品にも使われている。
ポスコは、独自の技術で製造したと主張していたが、最終的に、年間利益の50%を超える巨額の和解金の支払いに応じた。新日鉄住金の事実上の勝訴と言えよう。
ライバル企業の秘密情報を不正に入手して盗用し、利益を稼ぐ。こうした違法行為が、結局は大きな代償を伴うことを内外に印象付けた意義は大きい。
今回の問題は、中国の製鉄会社への情報漏洩容疑で韓国の捜査当局に逮捕されたポスコの元研究員が、新日鉄住金からの元社員による漏洩も証言したことで、たまたま明るみに出た。
水面下では、日本企業を狙った産業スパイ事件が増えている。経済産業省によると、2013年度の企業の情報漏洩件数は、09年度の5倍の540件に上る。
新興国の企業が、リストラや定年で退職した日本人技術者に好待遇を提示し、取り込む動きが目立つという。日本が原子力発電所の稼働ゼロを続けていたことで、関連技術者が中国や韓国などに流出する懸念も強まっている。
営業秘密の漏洩を身内の恥などと判断し、提訴に消極的な企業が多い。7月に成立した改正不正競争防止法は、訴える企業の負担軽減のため、被告の企業に、情報を不正に入手して生産した事実がないことの立証責任を負わせた。
営業秘密を不正に利用した企業や個人に対する罰金も、最大10億円にまで引き上げた。
漏洩防止のため、改正法を有効に機能させることが大切だ。
加えて、情報管理に対する企業の意識向上も欠かせまい。
営業秘密をライバル企業に漏らさないよう従業員や退職者に約束させる秘密保持契約の締結を徹底する。機密情報にアクセスできる社員を可能な限り限定する。
そうした取り組みにより、被害を未然に防止したい。
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