朝日新聞 2009年09月03日
消費者庁発足 新政権の手で強い組織に
消費者行政の司令塔となるべき消費者庁と、その監視役を担う消費者委員会が一昨日、発足した。
それぞれに所管する業界の育成を第一としてきた中央官庁を串刺しにし、消費者保護の立場から一つにまとめる。後追いになりがちだった行政を改め、機動的に対応する。自治体の相談窓口と連携を強め、他省庁も動かす。そんな仕組みがスタートする。
消費者庁構想は、福田前首相が積極的に進めたものだ。今年の通常国会で政府案に民主党案を取り入れる形で修正され、全会一致で成立した。
ただ関連法が国会で成立してから、わずか3カ月での出発だ。準備不足は否めない。
総選挙を控えた時期に、麻生内閣が発足を急がせすぎた印象は強い。霞が関の風土を変えようとする組織のトップに、官僚OBを据えたことにも批判が出た。本来なら新政権のもとで長官人事を考えるべきだった。
消費者庁の様々な仕組みは、フル稼働にはほど遠い。全国共通の電話番号で最寄りの消費生活センターにつながるホットラインの開設は、間に合わなかった。公的機関がばらばらに扱ってきた事故情報を集約するデータバンクや、専門家が分析し要注意情報をあぶり出す「事故情報分析ネットワーク」も、まだ整っていない。
約200人からなる職員の多くは、ほかの役所から移ってきたばかり。出身組織のしがらみを振り払い、消費者保護の専門家集団として強力なチームワークを築くには時間も必要だろう。
一方、有識者からなる消費者委員会は、首相への勧告権限も持つ強力な組織になったが、委員人事をめぐる混乱もあり、こちらも機能や事務局体制は固まっていない。
せっかく器ができたのに、魂は半分も込められていないのが実情だ。
行政の目線を消費者に据え、縦割りの省益を打破することは、そもそも民主党の看板だ。消費者庁と消費者委員会がしっかり機能するかどうかは、鳩山新政権が進めようとする生活者重視や霞が関改革の試金石でもある。
16日にも発足する新政権は、消費者庁の態勢強化を最重要課題の一つとして急ぐべきだ。指導力のある担当大臣を置き、そのもとで新しい消費者行政を一刻も早く軌道に乗せなければならない。
官僚による行政の進め方をたださなければならない場面も、出てくるだろう。その中で必要と判断すれば長官人事の見直しも検討すればいい。
食品への有害物混入など、重大な消費者事故は、いつ起きてもおかしくない。政権移行や組織立ち上げの時期だからといって、情報収集に手間取ったり、被害拡大の防止が遅れたりすることがあってはならない。
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毎日新聞 2009年09月03日
消費者庁始動 にらみの利く担当相を
行政のあり方を変える窓口となってほしい。消費行政の一元化を図る新組織、消費者庁がスタートした。全く新しい官庁が設置されたのは71年の環境庁(当時)以来、38年ぶりのことだ。
麻生内閣が自らの政権下での発足にこだわったため、混乱を来したことは残念だ。民主党を中心とする新政権は、国民の側に立つ組織として同庁を引き継ぎ、育てる責任がある。同党が掲げる生活重視路線の試金石と位置づけられよう。
消費者庁は中国製ギョーザによる食品被害などの教訓を踏まえ、省庁の壁を越え行政が速やかに消費者保護に対応するために設置された。
消費者相談や事故などの情報を集約し、必要な情報を公表する。他省に必要な措置を求め、所管省が不明な「すきま事案」については業者への勧告や命令を行う。商品表示など30法令を所管、関係省庁から約200人を異動した。生産者寄りだったこれまでの行政と違う発想の新組織の船出を歓迎したい。
しかし、早くても10月ごろとみられた発足時期を、衆院選の結果にかかわらず麻生内閣下での発足となる9月1日としたことが、波紋を広げた。初代長官には元内閣府事務次官の内田俊一氏が就任したが、民主党は官僚OBを起用した駆け込み人事を批判しており、新政権で差し替えられる可能性もある。
消費者庁の監視機関として発足した消費者委員会も、委員長への起用が当初有力視されていたメンバーが辞退する混乱が生じた。同庁が年間賃料8億円の高層ビルに入居することにも疑問の声があがっている。
衆院選の結果を待ち、新政権が長官、委員などの陣容を決めたうえでスタートするのが筋だった。さきの国会で与野党が関連法案の修正に合意し、やっと発足が決まったといういきさつもある。政治的対立を招いた現政権の対応は、疑問と言わざるを得ない。
新政権はこうした問題を早期に収拾し、業務を軌道に乗せる必要がある。特に急ぐべきは、消費者からの苦情や相談に応じる全国共通番号のホットラインの開設だ。準備不足のまま発足し、消費者と対話する窓口の整備が遅れるようでは、組織そのものの信頼性にかかわろう。
各省から職員を集めた組織がどこまで他省にものを言えるかも疑問だ。野田聖子消費者行政担当相の後任は他省にもにらみが利き、発信力を備えた人材を登用すべきだ。
消費者被害の救済制度の拡充や、身分が不安定な自治体の消費者相談員へのさらなる支援など、積み残された課題も多い。きめ細かい運営に新政権は努めてほしい。
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読売新聞 2009年09月03日
消費者庁発足 混乱を収めて早く軌道に
消費者行政の司令塔を目指し、消費者庁が発足した。政権移行期に重なったが、早期に軌道に乗せる必要があろう。
消費者庁は内閣府の外局に置かれ、経済産業、厚生労働など9府省1委員会から約200人が集められた。
消費生活センターなどに寄せられる情報を集約し、事故原因などを分析する。各省庁に勧告して、製品を回収させたり、業者の立ち入り検査を行ったりする。
お粗末な縦割り行政が原因で、製品不良による死亡事故や食品偽装事件などを防げなかった。縦割りを打破し、消費者行政を一元化することへの期待は大きい。
調整は難航したが、自民党や民主党などの全会一致で消費者庁設置法が成立したのは5月だった。国民の生活を守るため、与野党が消費者行政の見直しで合意したのは当然だ。
しかし、麻生首相が、衆院選での人気取りを狙って、発足時期を当初予定より前倒ししたため、混乱が生じている。
法成立からの準備期間が短かったのは確かで、波乱含みのスタートといえよう。
衆院選で民主党が圧勝し、政権交代を控えていることも、先行きを不透明にしている。
焦点は消費者庁長官人事だ。初代長官に麻生政権が選んだ内田俊一・元内閣府次官が就任したが、民主党は「官僚主導」と反発し、新政権で白紙に戻す構えだ。
トップ人事を巡るもたつきは、消費者庁の円滑なスタートに悪影響を及ぼしかねない。誕生したばかりの新組織が、政治に翻弄される事態は避けるべきだろう。
消費者庁を監視し、首相に勧告する権限を持つ消費者委員会も同時に設置され、有識者らが発令された。だが、当初の委員長候補が直前に辞退する混乱も起きた。今後、委員を変更する場合は、党派色を排したバランスが大事だ。
各省庁に迅速な対応を求めるには、消費者庁と消費者委員会がどう連携すればいいか。残された課題を早急に詰め、体制を整備する必要がある。
全国共通の電話番号で消費者に対応する「消費者ホットライン」も、準備不足でスタートできなかった。ホットラインは情報を集約する消費者庁の目玉だ。本格稼働を急がねばならない。
相談員の増員など、消費生活センターの拡充も急務だ。
消費者庁を軌道に乗せる新政権の責任は重い。自民党なども協力することが求められよう。
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産経新聞 2009年09月02日
消費者庁発足 与野党は育てる責任あり
消費者行政の司令塔となる消費者庁が発足した。ガス瞬間湯沸かし器の中毒事故や相次いだ食品偽装事件など行政の対応が後手に回る問題が頻発したことを教訓に、縦割り行政の弊害を是正し、消費者行政を一本化するのが狙いだ。
与野党協議の末に対立を解消し、ようやく日の目を見た新官庁である。自民党、民主党の双方が国民本位の組織に育てていく共同責任をなにより自覚してほしい。
消費者庁は内閣府の外局に置かれ、警察庁や経済産業省、農林水産省などから計200人が出向してのスタートとなった。国民の苦情や相談などに関する情報を一元的に収集し、各省庁へ是正勧告を行う。法律がない「すきま事案」でも、直接事業者に販売停止などを命令する権限を持つ。
問題はその司令塔がきちんと機能するかどうかだ。扱う業務の大半は、これまで監督権限を担ってきた各省庁との共管となる。出向者らが出身母体に気兼ねして命令や指揮系統が混乱するようなことがあってはなるまい。
発足にあたって気がかりなのは組織体制さえ固まらないのに、政治に翻弄(ほんろう)されていることだ。
新政権を担う民主党の鳩山由紀夫代表は、当初の10月1日発足予定を麻生政権が1カ月前倒ししたことについて、「なぜ、駆け込みで発足させ、長官人事を決めるのか。もっと先に延ばすべきだ」と批判している。就任したばかりの長官についても、早期交代を示唆している。昨年の日銀総裁人事をめぐって、国会が混乱と混迷を極めたことを思いだす。
民主党は「官僚主導の打破」を声高に主張するが、なにより大事なのは職員のやる気を引き出して組織をしっかりと動かすことだ。恣意(しい)的な政治の介入で、職員のやる気をそいでは元も子もない。
年金記録問題から組織を解体し、来年1月に「日本年金機構」に業務を引き継ぐ予定の社会保険庁も先が読めない。
すでに民間から1000人を超える正職員の採用を内定しているものの、民主党は国税庁と統合して「歳入庁」にする構想を政権公約として掲げているからだ。新組織の内定者らは、不安の声を上げている。
政権が代わっても、必要な業務は滞りなく継続していかなくてはならない。民主党には、心して政権移行を進めてもらいたい。
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