内戦が続くシリアの情勢が、緊迫している。新たにロシア軍が空爆に踏み切ったためだ。
テロ組織の掃討を理由にしているが、同じ目標を掲げる米欧主導の有志連合とは調整のない単独の軍事行動である。
ロシアが自国の思惑だけで軍事活動を広げれば、事態はいっそう悪化する。有志連合とロシア軍が衝突するおそれもあり、不測の混乱に陥りかねない。
米欧とロシアは早急に調整を図り、最低限の行動目標を共有すべきだ。その重点は何より、シリア内戦と膨大な人道危機の一刻も早い終結にこそある。
中東の紛争に乗じて、大国が覇権争いをするような愚行は絶対に犯してはならない。
ロシアは空爆の目的について、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討だとしているが、懐疑的な見方が多い。
自国が支援するアサド政権への肩入れを強めつつ、ウクライナ問題で失った国際社会での発言権を回復したい。そんな狙いもうかがえるからだ。
ロシアの説明では、空爆はアサド大統領の要請で、同国中部で行ったという。だが、一部情報によると、そこにISはおらず、別の反アサド派勢力が爆撃された可能性があるという。
シリアに軍港を持つロシアは、アサド政権と強いつながりがある。一方、米欧はこの政権について「多くの国民を虐殺しており、正当性はない」として退陣を求めている。
もともとシリア内戦では、イスラム教シーア派のイランがアサド政権の後ろ盾になり、一方の反政権勢力をサウジアラビアなどスンニ派諸国が支援するという対立の構図がある。
そこにロシアと米欧による利権抗争の要素まで持ち込めば、さらに複雑な代理戦争の様相を帯びる。結果的にISを利する可能性さえある。
4年を超えるシリア内戦による荒廃と中東の不安定化、そしてISによるテロの拡散は、米欧だけでなく、ロシアにとっても大きな脅威のはずだ。
プーチン大統領は有志連合と歩調を合わせ、アサド政権への影響力も行使して和平づくりに貢献してこそ初めて、国際的な評価を勝ち得る。危うい単独行動に走ってはならない。
一方、米欧と中東諸国も、軍事介入だけで真の解決は図れない現実を改めて考えるべきだ。
シリアの国家再建に向けて、どんな道筋が描けるか。米ロ両国と国連を含む、あらゆる関係者を包含した外交努力が求められている。そこに日本も積極的にかかわり、後押ししたい。
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