日歯連事件 信頼回復の責任は自民に

朝日新聞 2015年10月01日

日歯連逮捕 不正寄付の全容解明を

またか、のため息が出る。同じ団体が再び、政治へ不正にカネを注いだ疑いが強まった。

歯科医師会を束ねる政治団体「日本歯科医師連盟」(日歯連)の前会長ら3人が、東京地検特捜部に逮捕された。

支援する国会議員に対し、法定の上限を超える寄付をしながら、収支報告書でうその記載をした疑いがもたれている。

上限を超えていないように見せかけるため、一部を別の国会議員の後援会にいったん寄付した形にする、いわゆる「迂回(うかい)」の手口を使ったとされる。

あきれるのは、日歯連自身の過去の事件が、この上限枠を設けるきっかけだったことだ。04年に自民党の旧橋本派へのヤミ献金疑惑が発覚し、政治資金規正法が改正された。

自分の手で「政治とカネ」をめぐる不信のタネをまき、そこから生じた法の網をまた、かいくぐろうとする。日歯連の指導層には、まっとうな倫理観があるのかさえ疑われる事態だ。

組織内から「迂回寄付では」と疑問の声があがると、会計責任者は「法的に問題ない」と答えていた。関係団体はそれぞれ独立した組織だから、などと説明していたが、カネの動き方をみれば、意図的な規制逃れとみられても仕方ない。

こんなやり方が許されるなら、法は意味をなさない。特捜部は寄付金の目的などを含めて、事件の全容を徹底解明してもらいたい。

驚くのは、議員1人を誕生させるまでに、日歯連が4億円もの資金を動かしていたという実態だ。13年の参院選の前に、議員の各地での遊説会場費などに約2億円。会員たちの集会までの旅費に約7800万円などを使ったとされる。

選挙や政治にカネがかかる。そのカネを通じて企業や団体が政治家とつながれば、腐敗の芽が生まれる。ならば企業・団体献金をなくし、国民の税金を政治資金にあてて、政治をクリーンにする。その前提で政党交付金が生まれたはずだった。

それから20年。いまも政党への企業・団体献金は続き、違法な事件や疑惑はあとを絶たない。それでも、「政治とカネ」のしくみを抜本的に改めようという政治の動きはにぶい。

寄付の上限枠についても、法改正の当初から「抜け穴だらけ」と指摘されてきた。だが、迂回を禁じる規定をつくることも、各党間で合意できないありさまだ。

責められるべきは、カネを出す側だけではない。問題を放置してきた政治家の責任は重い。

読売新聞 2015年10月02日

日歯連迂回献金 法の抜け穴探しにあきれる

日本歯科医師連盟(日歯連)で、またしても政治とカネの問題が露見した。法の抜け穴を探るのが、習い性になっているのだろうか。

日歯連の前会長ら3人が、政治資金規正法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。政治資金収支報告書に虚偽の記載をした疑いが持たれている。

日歯連は、日本歯科医師会の政治団体だ。組織内候補を国政に送り込み、政治力を発揮することを活動の柱にしている。

今回、後援会が容疑の対象となっている民主党の西村正美参院議員と自民党の石井みどり参院議員は、典型的な組織内候補だ。

日歯連は、2010年に西村後援会へ計1億円、13年には石井後援会へ計9500万円を献金した。しかし、いずれも、5000万円分については、別の政治団体から献金されたように装って記載した、というのが容疑内容だ。

規正法は、政治団体間の献金額の上限を年5000万円と定めている。容疑が事実であれば、日歯連の虚偽記入は、この量的制限を免れる違法な迂回うかい献金である。

両後援会の事務所の所在地は日歯連と同じで、逮捕された前会長が双方の代表を務めていた。日歯連は「両議員の後援会は独立した関係にあり、迂回献金ではない」と主張するが、説得力を欠く。

そもそも、献金の量的制限は、日歯連の過去の事件を契機に導入された経緯がある。04年に発覚した自民党旧橋本派の政治団体に対する1億円のヤミ献金事件だ。当時の会長らが有罪となった。

日歯連は、再び幹部が逮捕された事実を重く受け止めねばならない。西村、石井両氏も説明責任を果たすべきだ。

石井氏は、13年参院選の比例選で、29万票余の大量得票で再選した。比例選は全国の有権者が対象のため、膨大な量のポスターやビラなどが必要だとされる。献金は主に、それらの作成費に充てられたとみられる。

歯科医の収入に直結する診療報酬の引き上げに躍起となっていた日歯連としては、資金力にものをいわせて、石井氏の選挙運動をテコ入れしたのだろう。

日歯連は、来年夏の参院選でも自民党から新人候補を擁立する方針だったが、事件により、困難になったのではないか。

特捜部は、時効を迎えていない石井氏側の選挙活動については、事前運動などを禁じた公職選挙法にも抵触する可能性があるとみている。徹底解明を求めたい。

産経新聞 2015年10月01日

日歯連事件 信頼回復の責任は自民に

政治団体「日本歯科医師連盟」(日歯連)をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京地検特捜部は同法違反(虚偽記載など)の容疑で連盟の前会長ら3人を逮捕した。

前会長らは、実際には石井みどり参院議員(自民)の政治団体に5千万円を寄付したのに、西村正美参院議員(民主)の政治団体を経由して寄付したと偽装した疑いがある。

石井氏側には別に4500万円を寄付しており、規正法による法定上限額の5千万円を超える資金移動を隠すためとみられる。関係者の逮捕に至ったのは、手口に悪質性が認められたからだろう。

自民党の谷垣禎一幹事長は「今後の捜査の推移を見守りたい」と、ひとごとのようなコメントを出した。石井氏も口をつぐんでいる。「知らなかった」では済まされず、そのこと自体を恥じなくてはならない。石井氏は自ら事実を明らかにすべきであり、党も率先して解明を命じる必要がある。西村氏と民主党も同様である。

特に自民党では、小渕優子元経済産業相らの「政治とカネ」の問題が相次いで発覚し、国民の信頼を損ねている。

日歯連では平成16年にも自民党旧橋本派への1億円ヤミ献金事件が発覚し、この反省から政治団体間の寄付の上限が年間5千万円に制限された経緯がある。今回はこれを自ら破った疑いで、その厚顔ぶりにはあきれるばかりだ。

規正法にはかねて「ザル法」との指摘がある。政治家に直接法的責任を問い、罰するには、高いハードルがある。そのように作られたからだ。

規正法は、政治活動を国民の不断の監視と批判の下に置くという、本来の趣旨を担保できるよう改正されるべきだ。

先の国会でも、民主党や維新の党などが寄付の禁止などを盛り込んだ同法改正案を提出したが、与党側は、制度の運用で対応できるとしており、議論は深まらず、継続審議となった。

自民党はかつて「政治とカネ」の問題で、国民の信を失った苦い経験を忘れたのか。この問題を放置し、後ろ向きな印象を持たれれば、国民の支持を得ることはできないだろう。

党総裁の安倍晋三首相には信頼の回復に向けて、強い指導力を発揮してもらいたい。今回の事件を深刻に受け止めるべきだ。

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