働きながら家族を介護している人は240万人、介護のために勤め先を辞めた人は1年間で9・5万人。国の統計(2012年)が示す「介護と仕事」をめぐる状況である。
介護は、親が体調を崩して突然始まることもある。いつ終わるのか、わからない。40代、50代で退職すれば再就職は容易でなく、貧困に陥る恐れもある。経験豊かな社員に辞められたら、企業にとっても痛手だ。
共働きの増加やきょうだいの減少で、介護の分担は以前より難しくなっている。介護施設もすぐには増えない。それでも仕事を続けられる仕組みや取り組みは急務だ。
厚労省の有識者研究会が8月にまとめた報告書は、現在の両立支援制度が「家族を介護する労働者の現状に対応できていない」と指摘する。もっとも本質的な対策は、長時間労働を減らすなど働き方全体を変えることだという。その通りだろう。
疲労の蓄積を減らせるし、親が介護施設でのデイサービスから戻る時間に合わせて帰宅しやすくもなる。
ただ、働き方全体をすぐに見直すのは難しい。だから、まずは既にある介護と仕事の両立支援の制度を使いやすくし、利用を促すことが大切だ。
代表例は介護休業制度だろう。現在の仕組みでは介護を必要とする家族1人につき最長93日まで取得できるが、原則1回に限られる。病院から退院した後に利用する介護サービスを決めるなど、介護の態勢を整えるための制度とされる。
しかし、1回しか使えないことから「いざという時のためにとっておこう」と利用控えが起きているという。実際、介護中の労働者の利用率は3%余にすぎず、アンケートでは「1回」よりも「複数回」への分割を望む声が圧倒的に多い。
通院の付き添いなどにあてる介護休暇(年5日)も、利用率は3%に及ばない。現行の1日単位だけでなく、時間単位でも認めたほうが使いやすい。
報告書も介護休業の分割取得や、介護休暇の取り方について検討することを求めた。これを受けて厚労省の審議会が関連法の改正を視野に議論を重ねる。改正を急ぐべきだ。
介護を必要とする人も、支える人も状況は様々だ。制度に柔軟性を持たせることが欠かせない。介護に柔軟に対応できる仕組みは、育児や病気など他の事情を抱えた人にとっての働きやすさにもつながるはずだ。介護しやすい社会を築いて高齢化に備えたい。
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