シリア難民 近隣の国々にも支援を

朝日新聞 2015年09月27日

シリア難民 近隣の国々にも支援を

欧州に押し寄せる難民の波に世界の目が注がれている。欧州連合は16万人の受け入れを決めたが、それは難民全体のほんの一部でしかない。

難民の出身国と近接の国々では、はるかに多くの人々が助けを待ち望んでいる。

欧州に到達した難民たちの問題から、中東を中心にした世界の難民問題の全景へと思いをはせたい。戦乱や迫害から逃れ、生存の道を探る人々への緊急救援に、日本を含め国際社会も本腰を入れるべきだ。

いま最も多くの難民を出している国は、紛争が4年に及ぶシリアである。人口2200万の半分以上が家を失い、国外への難民や国内避難民となった。

このうち、北隣のトルコには200万人がとどまっている。南のヨルダンには60万人。西のレバノンは、国の人口500万で、すでにパレスチナ難民数十万人も抱えているが、シリア難民100万人が流れ込んだ。

シリア国内にとどまる避難民は、760万人を数える。

隣接国の受け入れは限界に近く、生活環境も厳しい。レバノンにある難民キャンプを取材した本紙記者によると、支援にあたる国連機関は慢性的に資金が足らず、そこで暮らす人々には絶望感が強いという。

事態はもはや人道問題にとどまらない。膨大な難民の存在は、地域の治安や政治的安定、経済的繁栄を脅かす要素になりつつある。中東全体の安定に直結する最優先課題と位置づけるべきだ。

欧州連合は、シリア周辺の国々を支援するための拠出を10億ユーロ(約1340億円)以上増やすと決めた。連携強化も目指す。状況は切迫しており、欧州以外の関与も不可欠だ。

日本政府は、シリア難民の若者を留学生として受け入れるよう検討を始めた。だが、その規模は数十人程度とみられ、国際貢献というにはあまりに規模が小さすぎる。

国連の難民問題の責任者だった緒方貞子さんは「難民の受け入れに積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない」と語り、安倍政権に決断を促している。日本政府は大胆な受け入れ策を打ち出すとともに、難民キャンプへの支援拡大など多様な手段も講じるべきだ。

事態の打開には、シリアの内戦状態を収束させる努力が必要だ。国連総会を機にニューヨークに各国首脳が集まる時でもある。包括的な難民対策に向け、実効性のある国際行動の道筋が描かれるよう期待したい。

読売新聞 2015年09月28日

難民大量流入 欧州の支援策は奏功するのか

中東やアフリカなどから難民や不法移民が流入するスピードを抑え、秩序だった難民支援の体制を構築できるのか。欧州連合(EU)の協調の真価が試されよう。

EUは、首脳会議を開き、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など国際機関に少なくとも10億ユーロ(約1300億円)を追加拠出することを決めた。シリア周辺国で難民を支援するためだ。

内戦が続くシリアからは、400万人以上がトルコやヨルダンなどに流出した。

欧州に向かう難民を減らすには、周辺国での難民生活を安定させることが肝要である。EUの支援は、内戦終結の道筋が見えない中での苦肉の策と言えよう。

首脳会議は、難民流入の玄関口であるギリシャとイタリアに、難民登録や指紋採取を行う施設を、11月末までに設置することでも合意した。難民と不法移民を区別する狙いだ。EUと加盟国が連携して国境警備を増強するという。

EUにとっての難題は、欧州入りした難民の受け入れについて、加盟国がどう分担するかだ。

首脳会議に先立って開催された法相・内相理事会では、ギリシャとイタリアが抱える難民12万人を2年間で、加盟国が共同で受け入れることを決めた。

ハンガリーやスロバキアなど東欧4か国が反対し、異例の多数決で決着せざるを得なかった。

欧州での難民申請者は今年、100万人を超えると予測されている。今回の分担決定は焼け石に水ではないか。持続的な受け入れ体制を作ることが急務である。

EUが流入抑制を含む対策を打ち出したのは、大量の難民らが殺到することが各国の社会の安定を脅かすという危機感からだ。

財政危機のギリシャで20日行われた総選挙では、反移民を掲げる極右政党が第3党になった。

経済大国ドイツは難民を寛大に受け入れてきたが、今月中旬、国境検問による制限を始めた。流入急増で収容能力を超えた地元当局が抗議の声を上げたことが大きい。受け入れに反発する極右集団の活動も顕在化している。

欧州への難民流入は今や、国際社会全体が取り組むべき問題だ。米国やオーストラリアはシリア難民の受け入れ拡大を表明した。

日本は、シリア周辺国の難民に対する食料供与や上水道整備など支援に力を入れ、11億ドル(約1300億円)以上を拠出してきた。人道危機の深刻化を受け、一層の貢献へ知恵を絞る時である。

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