米中首脳会談 「独善」で大国関係は築けない

朝日新聞 2015年09月27日

米中首脳会談 サイバー合意を一歩に

米国と中国は、実に深い対立点を抱えつつも、現実的な共存の道を手探りし続けるほかない。そんな苦しい思惑が今回も色濃くにじんだ。

米・ワシントンであった両国の首脳会談である。かつてない緊張の中だったが、何とか進展を演出して終わった。

最大の争点は、サイバー空間での犯罪と国家のかかわりである。今回は、企業の知的財産などを盗む犯罪への対策で協力することで合意を表明した。

サイバー問題はいまや、世界の平和と安定を脅かす難題である。米中の合意がどう履行されるかは不透明だが、少なくとも両政府が攻撃を実行も支援もしないと約束した意味は重い。

これを第一歩として対話を進め、ネット空間での国際規範づくりをめざしてもらいたい。

米国では、産業情報や政府の個人情報が大量にネット上で盗まれる事件が相次ぎ、中国政府・軍の関与が疑われている。

中国は全面否定しているが、米国は軍事的な脅威としても重大にとらえ、中国に制裁を科す論議も高まっている。

一方、中国側が「自分たちも被害者だ」とする主張にも理がある。サイバー技術で優位に立つ米政府の情報機関が、ネットに侵入して世界規模で大量の情報収集をしてきたことが近年、明るみに出たからだ。

だが、北朝鮮など第三国の疑いが強いネット攻撃も起きている。サイバーの無法状態が続くことは、米中自身に利益とならないことを悟るべきだ。

核問題での核不拡散条約のような、基本的な国際ルールがサイバーにも必要だろう。米中の協力がその機運を高める契機になることが望ましい。

米中間では、サイバーの論点は安保・経済に限らず、人権や民主化問題にも及ぶ。国家が通信や情報を規制する中国では、フェイスブックやツイッターは禁じられ、外国企業による通信・報道にも規制がある。

開かれたサイバー空間の原則を米国は唱え、中国は「サイバーにも国家主権が及ぶ」と反論する。そこには、自由と統制にかかわる根源的な価値観の対立がのぞく。

人権をめぐる米国の懸念に対し、中国は今回も内政問題として受け入れなかった。サイバーと並ぶ争点である南シナ海問題でも、歩み寄りはなかった。

習近平(シーチンピン)氏は会見で、米中は「世界の平和に共通の責任を負う」と述べたが、その自覚を行動で示すべきだ。古い覇権思考から脱皮した21世紀型の大国像を米中双方が示してほしい。

読売新聞 2015年10月01日

米露首脳会談 シリア内戦収拾へ妥協を探れ

22万人以上の死者と大量の難民を生み出したシリア内戦の収拾に向け、米国とロシアは妥協点を探らねばならない。

オバマ米大統領は、国連総会出席を機に、プーチン露大統領と約2年ぶりに会談した。シリア情勢について、「アサド政権が続く限り、シリアの安定はあり得ない」と強調し、アサド大統領の退陣を求める考えを示した。

プーチン氏は、シリアやイラクに勢力を拡大する「イスラム国」など「過激派組織に対する防壁だ」と、逆に政権支援を明言した。

ウクライナ情勢などを巡って対立する米露首脳は、「イスラム国」の早期掃討が重要だとの認識では一致している。しかし、アサド政権を関与させることの是非に関して、溝は埋まらなかった。

アサド政権軍と複数の反体制派組織が入り乱れる内戦は、4年を超えた。力の空白は、「イスラム国」など過激派伸長を招く要因となっている。アサド政権軍は劣勢に立たされ、支配地域も西部など国土の約4分の1に縮小した。

テロの脅威を拡散するシリアへの対処は急務である。

プーチン氏は会談後、記者団に、「イスラム国」の弱体化を狙った米仏などの空爆は、シリアの要請がなく「不法だ」と非難した。

ロシアは、アサド政権支援のため、空爆を始めた。シリアに航空基地を整備し、戦闘機や戦車を配備していた。顧問団を派遣し、アサド政権に近いイラン、イラクと作戦情報も交換する。

ロシアは、米主導の「有志連合」にシリアとイランを加えた「反テロ連合」構築を名目に、アサド政権を温存しようとしている。

政権の数々の残虐行為を顧みず、露軍が政権永続化を掲げて介入すれば、内戦は、かえって激化しかねない。米仏との偶発的な衝突が起きる事態も懸念される。

オバマ氏が強く反発したのは当然だろう。アサド政権が正統性を欠くことは、論を待たない。

「イスラム国」とアサド政権の打倒を目指す米国は、シリアの穏健反体制派に軍事訓練を行ってきたが、成果は見られない。オバマ氏の戦略は行き詰まっている。

米国も、「アサド退陣」を訴えるだけでは、問題は解決しない。大量の難民流入に直面する欧州では、アサド大統領との交渉もやむなしとの声が出始めた。

「イスラム国」の勢力拡大を抑えつつ、新体制への移行を見据えた外交を進める。困難な道のりだが、米露両大国が足並みをそろえなくては、事態は改善しまい。

産経新聞 2015年09月30日

日露首脳会談 プーチン氏頼みは危うい

安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との10カ月ぶりの会談は、平和条約締結交渉の前進に向けて対話を継続させることを確認した。

長期政権を目指す首相が、懸案の北方領土問題を直談判で打開したいと考える。それ自体は妥当なものだ。問題はプーチン氏が信頼するに足りる相手かどうかにある。

8月にはメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を訪れた。ラブロフ外相は領土問題の存在を無視する発言を重ねている。

対話の継続を困難にしているのはロシア側なのだ。プーチン氏がこうした姿勢の転換を図らない限り、前進はあり得ない。

会談の冒頭、プーチン氏は日露の経済協力に「大きな潜在力がある」と述べたが、「領土問題」への具体的言及はなかった。

21日の日露外相会談では、領土問題に時間を費やしたにもかかわらず、ラブロフ外相は「議論はなかった」と否定した。領土は棚上げして平和条約交渉を進めたいとのロシア側の思惑が露骨に表れている。プーチン氏の対応も実質的には大差ないのではないか。

2013年4月の会談で、両首脳は領土問題の協議再開で合意している。外交当局の作業を加速させることにもなっていたのに、実行に移されていない。

外務次官級協議が10月に再開する。領土問題の進展なしに、平和条約の締結はあり得ないとの立場を崩してはならない。

同じく「力による現状変更」は絶対に容認できないことも、ロシア側に正確に伝えるべきだ。プーチン氏の年内訪日を困難にした原因もウクライナのクリミア併合など一連のロシアの行動にある。

首脳会談ではウクライナ東部の停戦状況について話し合ったが、首相はクリミア併合にも言及すべきだった。

ロシアは米欧主導の制裁の影響などで経済的苦境が続いている。プーチン氏の訪日調整には、米政府も慎重対応を求めている。

国連総会では、大量の難民問題に発展したシリア情勢が主要議題となり、同国のアサド政権を支援するロシアと米欧が対立している。米露首脳会談でも溝は埋まらなかった。

プーチン氏の「年内訪日」を急ぐときではない。領土交渉に真摯(しんし)な態度をとるかを見極め、米欧との協調維持が重要だ。

読売新聞 2015年09月30日

日露首脳会談 領土交渉は腰を据えて進めよ

平和条約交渉と領土問題の解決は不可分だ。

安倍首相はニューヨークで、ロシアのプーチン大統領と約10か月ぶりに会談した。

北方領土問題について、「双方が受け入れ可能な解決策をまとめる」とする2013年の合意に基づき、平和条約交渉を進める方針を確認した。国際会議を利用した首脳対話の継続でも一致した。

領土交渉を再び軌道に乗せた意義は小さくない。

首相は、プーチン氏の来日について「ベストなタイミングで実現させたい」と述べ、年内にはこだわらない考えを示した。

現状では領土問題で成果が見込めない以上、ウクライナ情勢を踏まえて対露制裁を継続中の先進7か国(G7)の足並みを乱してまで、年内来日に固執する必要はあるまい。首相の判断は妥当だ。

首相は、先の自らの自民党総裁再選に言及し、「さらに腰を据えて交渉に取り組む」と意欲を示した。総裁任期は残り3年ある。プーチン氏の任期もまた3年だ。

双方の政権基盤は強く、一定の信頼関係もある。国内の反対意見を抑える指導力や時間的余裕など、領土のように政治的に困難な問題の解決に必要な環境は、ある程度整っていると言えよう。

ただ、プーチン氏は今回、領土問題に深入りすることを避けた。会談冒頭、「残念ながら貿易額は減少が見られる」と語るなど、日本の経済協力を求めた。

背景には、欧米からの制裁や原油安による国内経済の落ち込みが深刻化していることがあろう。

首相は「経済協力の準備は建設的で静かな雰囲気で進めたい」と述べた。ロシアのメドベージェフ首相らの北方領土訪問が日露関係改善の障害になるとクギを刺したもので、当然の認識である。

最近、領土問題に対するロシア外務省の強硬姿勢が目に余る。

ラブロフ外相は先週、「戦後の歴史の現実を認識すべきだ」と発言した。モルグロフ外務次官は、北方領土について「第2次大戦の結果として合法的に我が国に移った」などと言い放っている。

ロシアは日本との外交文書で、北方4島の帰属問題の存在を確認している。ラブロフ氏らが過去の交渉を無視するような姿勢を見せるだけに、日本としては、絶大な権力を持つプーチン氏に直接働きかけることが重要となる。

10月8日からは次官級の平和条約交渉が再開される。日本は、今後2、3年を見据えた対露外交の総合戦略を練る必要がある。

産経新聞 2015年09月27日

米中首脳会談 南シナ海の懸念強まった

膝詰めの直談判でも、中国の姿勢は変わらなかった。

習近平国家主席との首脳会談で、オバマ米大統領は南シナ海で中国が進める人工島建設に「重大な懸念」を伝えたが、習氏は「島々は中国固有の領土」と反論し、平行線をたどった。

会談では、米中間のサイバー問題をめぐる合意など一定の意思疎通も図られた。だが、はっきりしたのは力ずくの海洋進出を進める中国が、米国の制止を拒み、南シナ海の埋め立てや軍事化を続けようとしていることだ。

地域の平和と安定を乱す中国に対し、日米両国は周辺国とも緊密な連携を図りながら、さらに警戒を強めなければならない。

南シナ海問題に関連し、両国軍用機の偶発的な衝突を回避する行動規範づくりが合意された。不測の事態を避ける上で必要な措置ともいえるが、それに人工島建設などを抑制する効果はない。

南シナ海の大半を領有するという中国の主張に根拠はない。人工島の面積は、すでに11・7平方キロに拡大している。

ハリス米太平洋軍司令官は、3千メートル級の滑走路3本が建設中で「中国が南シナ海を事実上、実効支配することになる」と議会公聴会で述べた。オバマ氏は「米国は航行の自由を行使し続ける」と語った。それには、この地域での抑止力をいかに高めるかが重要な課題となる。

安倍晋三首相もバイデン米副大統領との会談などを通じ、新安保法制に基づく具体的な同盟の強化策を論じる必要がある。

サイバー問題では、企業秘密を盗まないことを双方が確認し、閣僚級の対話メカニズムを創設する。米企業の知的財産などを狙う中国のサイバー攻撃を明確に位置付けた意味は小さくないが、合意の実効性は、中国側が具体的な行動をとるかにかかっている。

首脳会談に先立ち、習氏は米西海岸シアトルで、中国企業による米航空機300機の購入契約成立をアピールした。超大国の米国と台頭する中国が、良好な関係を維持するのは無論、望ましい。幅広い分野で両氏が一致点を見いだそうとした点は評価できよう。

習氏は米国との「新型大国関係」を改めて持ち出したが、世界の秩序を乱し、国際ルールを守らない国に「大国」を名乗る資格がないことを忘れてはなるまい。

読売新聞 2015年09月27日

米中首脳会談 「独善」で大国関係は築けない

中国が独善的行動で国際秩序に挑戦し続ける限り、自らが望む米国との「新しいタイプの大国関係」は構築できまい。

中国の習近平国家主席が米国を公式訪問し、ワシントンでオバマ大統領と会談した。

オバマ氏は、米企業や国民への中国発のサイバー攻撃に対して、「非常に深刻な懸念」を表明し、習氏に停止を要求した。

大統領選挙を来年に控えた米国では、対中世論が硬化している。オバマ氏も一層厳しい姿勢を示さざるを得なかったのだろう。

両首脳は、企業秘密などを盗み出すサイバー攻撃を実行、支援しないことでは一致した。閣僚級対話の創設でも合意した。

問われるのは実際の行動だ。攻撃への関与を否定する中国が合意を本当に順守するのか、国際社会は注視しなければならない。

中国が南シナ海で岩礁を埋め立てている問題を巡って、両首脳の議論は平行線に終わった。

オバマ氏は会談後の共同記者会見で、「米国は国際法が許す場所ではどこでも、航行や飛行、軍事行動を継続する」とクギを刺した。習氏は「領土主権と、合法的で正当な海洋権益を守る権利がある」と強弁し、譲らなかった。

最近、中国が埋め立てた岩礁の3か所で3000メートル級の滑走路を建設していることが判明した。完成すれば、南シナ海の広大な海域が中国の事実上の支配下に入る可能性も指摘されている。

中国の力による現状変更は看過できない。米国は、日本など関係国と連携して、中国に自制を促す必要がある。中国が米国との対等な関係や国際社会での大国としての地位を望むなら、地域の安定に相応の責任を果たすべきだ。

習氏の訪米に合わせて、中国は米ボーイング社から旅客機300機を購入する大型契約を結んだ。経済カードで米財界を懐柔し、取り込む狙いが明白である。

だが、株価維持の市場介入や人民元切り下げなどに見られる中国の恣意しい的な政策運営に、米国は不信感を強めている。

習氏は記者会見で、「長期的には人民元を切り下げる根拠はない」と述べ、市場原理を重視する考えを強調した。その言葉通り、国際ルールにのっとった透明性の高い改革を推進してもらいたい。

気候変動問題に関して、両首脳は協力強化を改めて確認した。協調を打ち出せる数少ない分野の一つではないか。温室効果ガス排出量の世界1、2位の中国と米国は着実に削減を進めるべきだ。

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