「クリーンディーゼル車」と銘打ちながら、環境基準を大幅に超える排ガスを出していた。
環境保護意識の高い消費者を欺いた行為は、極めて悪質である。
独フォルクスワーゲン(VW)が、米環境保護局(EPA)の排ガス規制を違法にクリアしていたことが発覚した。
ディーゼル車の排ガス試験の際、エンジンに搭載したソフトウェアを作動させることにより、基準値を満たすように細工していた。実際に道路を走行すると、基準値の最大40倍の窒素酸化物などを排出していたという。
対象車数は世界で1100万台に上る。ゴルフなどの人気車種も数多く含まれている。
引責辞任するマーティン・ウインターコーン最高経営責任者は「これほどの規模の不正が行われていたとは信じられない」と語った。有数のメーカーでありながら、ガバナンス(企業統治)が欠如していると言わざるを得ない。
経営陣は不正に関与していなかったのか。EPAなどによる調査で、不正の経緯を徹底的に解明してもらいたい。
VWは、アウディ、ポルシェなどのメーカーを傘下に抱える。燃費の良いディーゼル車を主力に据え、2004年からの10年間で世界の販売台数を1000万台に倍増させた。今やトヨタ自動車と首位を競う規模に躍進した。
だが、排ガス規制の厳しい米市場では、トヨタのハイブリッド車などに押され、苦戦を強いられている。VWの焦りが、不正につながったと言える。
VWには、年間の利益を上回る最大180億ドル(約2兆円)の制裁金が科される可能性がある。違法行為の重いツケである。
日本では、VWのディーゼル車は正規販売されていないが、来年にも投入される予定だった。販売戦略の見直しは避けられまい。
欧州連合の執行機関、欧州委員会は、VW以外のメーカーでも不正の疑いがあるとして、加盟国に実態調査を求めた。各国で基幹産業と位置付けられる自動車業界も、自浄能力を試される時だ。
今回の問題の背景には、メーカー間の激しい燃費競争もあろう。消費者には、少しでも燃費の良い車を求める傾向が強い。日本でもカタログ表記の燃費と実際の走行時の数値の差が大きく、混乱を招いているとの指摘が多い。
メーカーに求められているのは、正確な情報を消費者に伝える真摯な姿勢である。
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