VW排ガス不正 顧客を欺く大規模な規制逃れ

朝日新聞 2015年09月26日

ワーゲン不正 全容解明と対策を急げ

世界有数の自動車メーカー、独フォルクスワーゲン(VW)の不正が発覚した。

米国での排ガス規制を逃れるため、主力となるディーゼル車の制御装置に違法なソフトウェアを組み込んでいたという。

不正に適合試験を通った車は、公道では最大で基準値の40倍もの窒素酸化物(NOx)をはき出していた。

米当局は刑事罰も視野に捜査に着手した。VWは欧州市場での不正も認めているという。

規制当局と消費者をあざむく、極めて悪質な不正である。最高経営責任者の辞任は当然だ。VWは、車の回収・修理とともに、経緯の解明と公表に全力をあげるべきだ。

環境性能をめぐる自動車業界の国際競争は激しさを増している。ハイブリッド車や電気自動車で先行する日本勢に対し、欧州メーカーはディーゼル車を中核にすえ、排ガスの浄化技術に力を入れて米国市場に攻勢をかけていた。そのトップバッターがVWだった。

ディーゼル車は欧州市場では燃費がよく温室効果ガスの排出も抑制できる「エコカー」として定着しており、新車販売の5割以上を占める。

だが、排気中のNOxや黒煙を減らそうとすると燃費が落ちる問題がある。

VWの違法ソフトは、ハンドル操作やスピードなどから「試験中」と判断すると排ガス浄化機能が働き、一般走行だと判断すると機能を大幅に落として燃費をあげるよう、巧妙に細工するものだった。

トヨタ自動車を抜いて世界首位に立つ目標を掲げていたVWが、環境性能と燃費の両立を演じることで米国市場でのシェアを伸ばそうとした。それが不正の背景ではないかとの見方が強まっている。

高い環境性能と低いコストを両立させることは、どの自動車メーカーにとっても難しい課題ではある。しかし、温暖化防止を含む環境対策が待ったなしの状況である以上、各社は技術力を磨いて対応する以外にない。

VWの不正発覚は、交通機関が環境に与える影響を監視・分析し、必要な改善を求める非営利組織(NPO)が、ディーゼル車の排ガス試験での数値と実際のデータとの乖離(かいり)に疑問を抱いたのが始まりだった。

人材面でも資金面でも大企業に対抗しうる市民セクターは確実に成長している。こうした厳しい目に向き合って消費者の信頼を得ることなしに、企業経営が成り立たないことも、今回の不正事件は示している。

読売新聞 2015年09月26日

VW排ガス不正 顧客を欺く大規模な規制逃れ

「クリーンディーゼル車」と銘打ちながら、環境基準を大幅に超える排ガスを出していた。

環境保護意識の高い消費者を欺いた行為は、極めて悪質である。

独フォルクスワーゲン(VW)が、米環境保護局(EPA)の排ガス規制を違法にクリアしていたことが発覚した。

ディーゼル車の排ガス試験の際、エンジンに搭載したソフトウェアを作動させることにより、基準値を満たすように細工していた。実際に道路を走行すると、基準値の最大40倍の窒素酸化物などを排出していたという。

対象車数は世界で1100万台に上る。ゴルフなどの人気車種も数多く含まれている。

引責辞任するマーティン・ウインターコーン最高経営責任者は「これほどの規模の不正が行われていたとは信じられない」と語った。有数のメーカーでありながら、ガバナンス(企業統治)が欠如していると言わざるを得ない。

経営陣は不正に関与していなかったのか。EPAなどによる調査で、不正の経緯を徹底的に解明してもらいたい。

VWは、アウディ、ポルシェなどのメーカーを傘下に抱える。燃費の良いディーゼル車を主力に据え、2004年からの10年間で世界の販売台数を1000万台に倍増させた。今やトヨタ自動車と首位を競う規模に躍進した。

だが、排ガス規制の厳しい米市場では、トヨタのハイブリッド車などに押され、苦戦を強いられている。VWの焦りが、不正につながったと言える。

VWには、年間の利益を上回る最大180億ドル(約2兆円)の制裁金が科される可能性がある。違法行為の重いツケである。

日本では、VWのディーゼル車は正規販売されていないが、来年にも投入される予定だった。販売戦略の見直しは避けられまい。

欧州連合の執行機関、欧州委員会は、VW以外のメーカーでも不正の疑いがあるとして、加盟国に実態調査を求めた。各国で基幹産業と位置付けられる自動車業界も、自浄能力を試される時だ。

今回の問題の背景には、メーカー間の激しい燃費競争もあろう。消費者には、少しでも燃費の良い車を求める傾向が強い。日本でもカタログ表記の燃費と実際の走行時の数値の差が大きく、混乱を招いているとの指摘が多い。

メーカーに求められているのは、正確な情報を消費者に伝える真摯しんしな姿勢である。

産経新聞 2015年09月25日

VW排ガス不正 自動車不信につなげるな

自動車業界に対する信頼を根底から揺るがす事態と受け止めなければならない。

欧州最大手の独自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)が米国で販売するディーゼル車の排ガス規制を逃れるため、違法ソフトウエアを搭載していた問題で、同社の最高経営責任者(CEO)が辞意を表明した。経営責任は免れず、辞任は当然だ。

何よりも急ぐべきなのは、全世界で1100万台にのぼるとされる問題車両への迅速な対応である。VWには、全力を挙げてリコール(回収・無償修理)などを実施し、ユーザーの不安払拭に努める責務がある。

すでに米や独などの各国当局は調査を始めた。責任追及や再発防止の徹底をはじめ、不正を見逃した検査体制の見直しなどにも取り組むことが課題となろう。

VWは中国などを中心に売り上げを伸ばし、この10年で販売台数を2倍近くに増やした。今年上半期にはトップのトヨタ自動車を追い抜き、年間で「世界一」を達成する勢いだった。こうした急成長を主導したのが、CEOのウィンターコルン氏だった。

必要な環境対策を講じないまま検査をすり抜けることを画策し、販売価格を抑えた疑いなどが指摘されている。経営規模の拡大を急ぐあまり、当局を欺く悪質な手法で、米国での販売増を狙ったのであれば許されない行為だ。

VWは日本の外国車市場でもトップを争う大手だが、不正が問題になったディーゼル車はこの20年近く販売実績がないという。国内への影響は限定的とみられるが、国土交通省は他車種で不正がないかの検査も検討すべきだ。

有名ブランドのVWによる不正を世界の「自動車不信」につなげてはならない。それには各企業が環境対策などさまざまな分野で問題がないか再点検し、信頼のつなぎ留めに努力するしかない。

最近の米国自動車市場では問題が頻発している。米ゼネラル・モーターズ(GM)は、エンジンの欠陥を10年以上放置し、司法省と9億ドルの制裁金支払いで合意したばかりだ。日本の自動車部品メーカーなどもカルテルで相次ぎ摘発を受けている。

米司法当局は、法令違反の摘発姿勢を強めている。日本を含め、改めてコンプライアンス(法令順守)の徹底が不可欠だ。

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